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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
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第九話「旅芸人と長い一週間~転:前編~」

~五日目の朝~


『ウィンディー地区ソーティス市ブルディア村へようこそ!

土地の七割は氾濫原で占めています。ウィンディー地区の真ん中にある大きな川「ケントル川」が一年に何回も洪水を起こしている為、ワティラス連邦政府による都市開発は北西側にあるテスティス市しか進んでいません。

ですが、都市開発された町には無い物を我が市は持っています。

それは市全体が人との繋がりを大切にするコミュニティーなのです!

ソーティス市は長い年月により上流から流れてくる土砂によって自然堤防を幾つも形成しています。それらの自然堤防に人々が集まって出来た各村は、水害やワティラス連邦国と敵対する国による攻撃に備える為に、村人同士はもちろん、違う村同士で助け合う事の出来る――そんな関係を日々築き上げています。

人情を大切にする事をモットーにする市の中にあるこの店、「ハキマ亭」では旅人を温かく歓迎しています!

ごゆっくり体を休めて下さいませ』


狭い物置小屋にて、俺はこの店の亭主が書いたであろうパンフレットの余り物を読んでいた。理由はある事情により再び

フォン達と仲良く捕らわれの身になっていたからだ。

今回の相手はフェレス達のような団体ではない。山賊と言うよりはテロリストだ。


「おらぁ!!出しやがれ!!山賊共!!」


「煩いですよ、フォン。騒いでも体力の無駄だって言いましたよね?こういう時は大人しく人質になった方が良い――と本に書いてありましたよ」


「いやいや!ここは暴れる方が良いね!そう思うよな?ニゲラ?あの時みたいに魔法ドッカンと()ちのめすみたいにさ!!」


「……いや、あの時はたまたまですし、それに――」


「「……はぁ……。」」


俺と、フォンとヨークは互いに盗品であろうネガロ石で出来た手錠を付けられているのを見合って深い溜め息をした。

態々(わざわざ)魔法が使えない事を指摘するのは、益々(ますます)この現状が絶望的なのを明らかにしてしまうから止めた。


なんで、こんな事になったのか――。



~四日目の夕方~


レナと俺はフェレスのアジトがある森を抜けてから草原を歩いていた。レナは前方に村が見えると、嬉しそうに駆けていった。俺はその後を必死に追いかけていた所から始まる――。


ここの草原は雨が降った形跡が無いのに地面が泥濘(ぬかる)んでいた。

この時の俺は街に良くある煉瓦(れんが)や石畳の地面しか歩いた事無いせいか、何回も滑って転んでいた。特に一番酷いのは軽い登り坂を上がる際だ。ズボンがお古とは言え、膝から下は泥だらけだ。

顔面を地面にぶつけるような転び方をしないだけでも良しとしよう……。


一方のレナは地面の泥濘(ぬかるみ)を気にせず陽気に駆けていた。旅芸人だからか、自然の脅威(……というのは大袈裟だけど)を嫌と言うほど感じる土地に慣れてるのかもしれない。


暫くすると、村が徐々に近づいて来た。村は茅葺(かやぶ)きが目立っていた。ユエル市みたいな技術が発展していて賑やかな様子は無く、小ぢんまりとしているように見える。


レナの駆け足が止まると、こちらに振り向いて手招きし始めた。


「ニゲラさん~、早く早く!」


「はぁ……はぁ……、ちょっと待って……」


俺は急かされるまま、息切れしながらレナに駆け寄った。すると、漸く村の中に広がる風景が明らかになった。


家の一つ一つが漆喰(しっくい)の壁を使っていて、(大して村や町を見て来た訳では無いけど……)今まで見た村の中で一番明るいかもしれない。地面は石のタイルが敷かれていて、夕焼けの光が漆喰の壁を程よい色合いにしていた。小さい村とはいえ、とてもお洒落な村だ。


「さあさあ、団長待ってますよ~。……?」


レナは俺が追い付いた事に満足したかのように微笑んでいたが、何かに気付いたのか、レナは何か怪訝(けげん)な面をしながら、辺りを見回していた。


「どうかしたんですか……?」


「あのね……、村にしては静か過ぎ――」


レナが答え終えようとした、その時――。


「おいおい、若いお二人さん。運が悪いね」


ガラの悪い男達が物陰から次々に現れた。男達は一人一人が町に良く居そうな一般人みないな服装をしていた――つまり、特に何か変わった服装をしていなかった。

強いて言えば、左腕に水色のバンダナを巻いて着けている位か。

それにしても……、何処かで見たような……?


呑気に思い出したかったが、男達の持っているマスケット銃や姿に似つかわしくないロングソードを持っているのを見た俺は思い出すのを止めた。

顔色を変えないように、何も見なかったようにしようと、俺はレナの手を掴みながら後ろへ後退りをした。

流石のレナも、いつもの明るい笑顔は無い。男達の異様な殺気を感じるから当然かもしれない。


「ま、間違ってしまったみたいですね……!来るべき村はあっちかも!さ、さようなら……」

「行こ――」


俺とレナは逃げようと後ろを振り返ると、男達の仲間が既に俺達を回り込んでいた。


「おいおい、逃げるな」

「悪いようにはしない、抵抗しなければな」

「全ては我らの素晴らしき思想を腐った世界に知らしめる為に」

「反神秘主義による反逆の狼煙(のろし)だ。この村を拠点とし、素質ある者を洗脳し、歯向かう者は皆殺しだ」


男達の一人が見た事無い銃を俺に向けると、銃口から電撃のような光が放出した。その光が俺に当たると、微かな痺れを感じた。

すると、痺れは血液を通るように両腕へ移動した。両腕は勝手に動き出し、銃口の方向へ両腕を差し出してしまった。

その銃を持っていた男は再び引き金を引くと、今度は銃口から黒い枷が飛び出し、枷は自然に俺の手首に嵌まった。

この枷は知っている。フェレスの時と同じネガロ石で出来た枷だ。


「きゃあ!」


レナも同じように特殊な銃で撃たれて、枷を着けられてしまった。男達は俺とレナを強引に村の中心へ運んだ。


俺と三人のテロリストは宿にある物置小屋へ、レナの方はその村で一番大きく見える建物へ連れて行かれた。


「うわっ!?」


俺は小屋に入れられるや否や突き飛ばされた。テロリストは俺を見ると鼻で笑って鍵を閉めた。

俺が立ち上がろうとすると、小屋の奥から聞き覚えのある声がした。


「お、あのオッサンが言った通りだ。久しぶりだな、ニゲラ」


「まさか、本当に来るとは……。かなりタイミング悪いですけど」


そこには、俺と同じように枷を着けられたフォンとヨークが居た。

俺は再びこの二人に出会う事が出来て嬉しいけど、それと同時に三日前の出来事について罪悪感も有った。


素直に謝った所で許してくれるか分からない――だから、怖い。

唇が、喉が震える。何か言わなければ――そう思うけど、脳裏に思い出したくない失敗が過ってしまう。

このまま消えたい――。


『素直に謝れぬのか?馬鹿者め』


カルミアの幻聴が聞こえた。何故か不思議と体の震えが収まってくると、俺は自然と言うべき言葉を出す事が出来た。


「三日前はすみませんでした……。余計な事をして、レナを危険な目に合わせてしまって……」


俺が謝罪をすると、ヨークとフォンは互いに顔を見合せた。

ヨークが「僕は特に言う事は無いです。フォンが言って下さい」と言うかのようにジェスチャーをすると、フォンは任せろ

と言わんばかりに得意げな笑みを浮かべた。


「まあ、何だ……。お前さんとレナが無事なら良いさ。な?」


「いや、僕は言う事無っ――もう、良いです……。強いて言えば、無理な事はしないように」


俺が頷くと、フォンとヨークは俺がここに入ってきた時より少し優しげな表情になった。


それから、俺はフォン達から事情を聞く事となった。


遡る事四日前。

俺とレナが拉致されてからフォンは激怒していた。「俺様が助けに行く!!」と言わんばかりにアウルス達が逃げた方向に走っていたらしい。

追っている最中にフレンチさんに出会ったようだ。

フレンチさんに奢って貰い、辻馬車でユエル市から北東にあるこの村まで来たそうだ。

「暫くこの村で待ってろ。俺が交渉しに行く」

そう言ってフォン達は三日間この宿で待っていた。

昨日の夕方にテロリスト達がここを襲い占拠したそうだ。

村人はそれぞれ別の場所に監禁されているらしい――。


「さて、ニゲラも来た事だし脱出しようぜ!」


「いやいや、こんな状況で脱出なんて出来る訳ないでしょ!」


フォンの提案にヨークがツッコミを入れるが、フォンは気にしなかった。


「ヨーク、分かってないな!昔から言うだろ?三人居ればナントカだってな!だから、これから作戦会議だ!」


こうして、一晩中話し合いをした結果――。



「おらぁ!出せ!」


そして、今に至る。フォンは外に居るであろうテロリストに怒鳴り続けていた。


「一晩中考えて、これです」


ヨークは呆れながらフォンが暴れるのを見ながら寝そべっている。ヨークの皮肉が効いたのか、フォンの「出せ出せ」の連呼の合間に「うるせぇ!」と()り気無く早口で言っていた。

俺は何も思い付かず、只座っていた。


「はぁ……はぁ……、アイツら無視しすぎだろ。煩くてぶちギレた所を反撃する算段だったのに……!!」


フォンは疲れてフラフラと俺とヨークの間に座った。


「まあ、行き当たりばったりなフォンの作戦は置いといて、どうしましょうか。三人魔術が使えないですからね」


ヨークの発言に三人含めて深い溜め息をすると、外が騒がしくなった。

テロリスト達の足音がこちらに向かっている。


「来たな……」


フォンが構えて居ると、扉が開いた。フォンは飛び掛かろうとしたが、扉から俺と同じ様に突き飛ばされた新しい人質を受け止めた。


「危なっ!?」


「……、女性の扱い位しっかりしたら?」


新しい人質はテロリストに対して苦言を言うと、テロリストは唾を吐き捨ててドアを閉じた。


「やれやれ、まさか、この村が反神秘主義者の過激派に占領されるなんてね……」


新しい人質はフードで顔が見えないが、声のトーンからして苦笑いしてるかもしれない。藍色の長く綺麗な髪がフードから出ていて、マントから青い鎧が見え隠れしていた。


「ああ、初めまして。私は――そうね、アスルと呼んでね」

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