第八話「旅芸人と長い一週間~鋪:後編~」
【三月二十七日のお詫びのお知らせ】のログ
第八話「旅芸人と長い一週間~鋪:後編~」にて、下書き途中の文章が(投稿予約の設定を直さずに居たために)誤って投稿してしまいました。
その中で、200文字を越えて居ないためスマートフォンの適当な変換の文字の羅列を一時的に入れていました。その中に性的な文字が一部入って居ました。投稿するまで200文字以上になったら消すから大丈夫だ、と慢心してしまいました。
未完成だけならまだしも、あまり宜しくない文章を皆様にお届けしてしまった事を心より深くお詫び申し上げます。
今後はこのような事が無いように、下書きはパソコンのWordでのみ行います。常に完成された文章のみ投稿するように誠心誠意活動して参ります。
この度は本当に申し訳ありませんでした。
~三日目の深夜~
あの出来事の後、フレンチさんがフェレスと暫く密話をすると、フェレスは渋々俺とレナにアジトの倉庫で寝るように命じた。
床の質感と木の香り、そして草木が微かな風で揺れて擦られている音がとても心地良かった。地下に比べれば、此処の方が寝やすいかもしれない。
だけど、俺は寝られなかった。
フレンチさんの隠していた事が気になっていたからだ。
どうして、予言者だった事を隠して居たのか?
何か裏が有ったのではないか?
そして、フレンチさんの本当の名前がアルストロメリアだって事も……。これが一番気になっている事だ。
ワティラス連邦国――いや、ほぼ全世界では子どもの名前を木や花の名前にするのはタブーとされている。理由は子どもの寿命が短くなる、という迷信が信じられているからだ。
でも、俺の知る限りではアンモビウム王国は例外だ。
アンモビウム王国では逆に植物の名前にしなくてはならない。
アルストロメリアは植物の名前。
フレンチさんはアンモビウム王国出身なのではないだろうか?
でも、もしそうなら、俺を三年間も生かしてくれたのは何故なのだろう?
アンモビウムの国民なら俺を殺したくて仕方ない筈なのに――
様々な疑問が寝るまでの間に俺の頭の中を駆け巡っていた。
*
~四日目~
俺は目を瞑ってずっと考えていたが、いつの間にか数時間過ぎて居た。
寝ていたのか、寝ていなかったのか良く分からない。
寝起き特有の寝ぼけた感覚が有るから寝て居たのだろう。……多分。
寝っ転がっているレナや鼾をかいているアウルスとアスィミを踏まないように倉庫から出ると、半壊した食堂の端でランプの灯りで照らされながらフレンチさんはまだ微かに暗い空を見上げていた。
俺が話しかけようとすると、まるで分かっていたかのようにフレンチさんは此方を向き話し始めた。
「おいおい、いつもより早いじゃないか?そんなに俺に質問したかったのか?」
予言者特有なのだろうか?全てを見透かされてるこの感覚。
何処と無くフレンチさんの仕草がアイビーに似ていて、思わず不快に感じた。だけど、俺は表情に出さないように軽く唇を噛んだ。
「……フレンチさん、どうして偽名を使っていたんですか?そして――」
意を決して俺が問いかけると、フレンチさんは俺が言い終える前に待てとジェスチャーをした。まるで俺が何を言うか分かっているように答え始めた。
「まずはそこからだな。俺はアンモビウム王国出身ではない。俺のクソ爺がアンモビウム王国出身なんだ。だから、そのせいで花の名前なんだ。クソ爺や家の仕来りが嫌いすぎて偽名を十数年使っているんだ」
「そうだったんですね……。てっきり何か俺を騙してるのかと……」
「まあ、アンモビウム王国に関係しているなら疑われても仕方ないさ。クソ爺しか知らないが、お婆さん曰く性格の悪い民族らしいからな。そこを治めているのが女王らしいが、その女も嘸や性格が悪――」
「止めろ……!」
フレンチさんのいつもの嫌みだった。普段は反応しないのだけど、思わず俺は声を荒立ててしまった。フレンチさんは予想してなかったのか今まで見せたことが無い驚いた表情をしていた。正直、俺自身も驚いている。
フレンチさんは開いている目が徐々にいつもの大きさに戻ると苦笑いした。
「はは……。すまんな。お前が怒る事は予知出来なかった。なるほど、お前は女王が好きなんだな。叶わぬ恋ほど熱い物は無いな」
「ち、違います……。たまたまです……。それより、次の質問を――」
はいはい、とフレンチさんは茶化しながら俺の聞きたい
事を当てた。
「次の質問は俺が予言者だった事についてだな。お前が予言者が苦手らしいから黙っていたんだ」
あれ?確かに予言者と聞くとアイビーの事を思い出すから苦手なのだけれど、フレンチさんには言った記憶は無い。
俺が無意識で訝しげな表情をしていたのか、フレンチさんは俺の顔を見ると捕捉を始めた。
「……そうか、お前は『まだ』言ってなかったな。俺の予知能力は物語を書くことで未来をある程度予測出来る。お前が流れ着いた日にお前の夢を見て予言者嫌いを知ったんだ。流された事情までは分からなかったけどな」
「……物語って言うのは?」
「ああ、お前は俺の書いた本を読んだ事無かったか?色々な物語を書いていたんだが、おかしいな……。読んでいる予定の筈なんだが……」
フレンチさんの口振りだと、俺はフレンチさんの密かに書いていたであろう本を読む予定だったらしい。互いに首を傾げていると、フレンチさんは開き直った。
「まあ、こんな感じで精密さに欠けているんだ。滅多に外すことは無いのだが、最近は調子悪いらしい。3月13日の予言も外れたしな」
「四日前の事を予言していたんですか?地震とか……」
すると、フレンチさんは急に神妙な面持ちで俺を見た。
「地震ってなんの話だ?それに四日前……?今日は3月31日だぞ」
「何言っているんですか。四日前ですよ、俺が夕方までフレンチさんを待ていたら地震が起きたんです。そしたら――」
すると、フレンチさんは再び待てとジェスチャーをした。暫く考えると納得したように手を打ち、そして俺の顔を見ると一瞬渋そうな表情をした。
「……まあ、気にするな。お前は3月13日から突如消えて3月27日にユエル市に瞬間移動した――それで、良いじゃないか」
「いや、納得出来ませんよ……。あの地震は一体なんですか?地震の後に皆消えたり、白い男現れたり……」
「はあぁ……」
俺は納得出来ずに質問攻めをすると、フレンチさんは煩い深いため息をする。それを聞いて俺は怒られると思い、質問を中途半端に止めた。
「……良いか?世の中には順番という物がある。『起・承・転・決』みたいな。それが乱れると運命というのは歪むんだ。お前が会った白い男のや地震の正体を知るのはまだ先だ。焦らず今を楽しめ」
フレンチさんの滅多に見せない微笑みを見ても俺は納得出来ない。未来に起きることを知って不幸になるとは思えないからだ。
すると、フレンチさんは俺の心情を察したのか、再び渋そうな表情に戻る。
「やれやれ、お前は本を読む時に誰かの感想やネタバレを見ないと読めないタイプだろ?」
「結末を知っていれば、読まなくて済みますし……」
「やれやれ、淡いな。まあ、良い。あの日起きた事については話せないが、お前の未来についてなら話してやろうか」
フレンチさんは懐から一枚の紙を取り出した。
見た目は本からページを一枚切り取ったような紙のように見える。
フレンチさんは読みたくなさそうな表情をしながらも、ゆっくりと読み始める。
『罪を抱える少年は宿で黒ユリの花を持つ老婆に出会うだろう。しかし、それは罠だ。少年は処刑場に拐われてしまう。老婆の鎌から少年は逃げた先に結末を知ることとなる。少年は悲しみのあまりに罰を受けるだろう。全ては知ろうとした結果なのだ……』
何故かこの文章を聞いた途端に寒気がした。まるで、同じ場面を経験してるような気味の悪い感覚だ。
フレンチさんは呆れるように首を横に振り、苦笑いをした。
「つまり、お前が知りたがらなければ良いだけだ。分かったか?」
「……まあ、分かり……ました。ただ、その文章の意味だけ教えてくれませんか?」
「さあ、知らないな。強いて言えば、七ヶ月後の出来事か。でも、気にするな。あくまでも予言だ。未来に憧れを持って居れば困難な事でも乗り越えられる……なんてな」
フレンチさんは気取るような言い回しをすると、倉庫へと歩きながら後ろ向きで手を振った。
俺はその場に残り、フレンチさんの言葉の意味を眠くなるまで考えていた。
*
目を覚ますと、辺りは明るくなっていた。アジトの倉庫から物を漁る音や近くでアスィミが乗っていた蒸気自動車のエンジンから発している音が聞こえていた。
「よう、ニゲラ。数時間ぶりだな」
「おはようございます……。何か騒がしい気がするのですが、何が……」
「ああ、フェレス達は避難するのさ。数時間後に面倒くさい奴が来る予言を俺が教えたから」
面倒くさい奴?警備隊の事なのだろうか?
「勘違いするんじゃねぇ!たまたま、引っ越ししたいだけなんだよぉ!」
倉庫の扉が勢い良く開くと同時にフェレスは早口で言い訳をした。何処と無くフェレスの表情は赤い。
体調があまり良くないのだろうか?
「赤いな。風邪か?」
「……馬鹿ぁ。テメェのせいだ……」
フェレスはフレンチさんの問いかけに対して小声で何かを呟いていた。風邪にしては元気なように見えるけど、どうしたのだろうか?
少し間を開けると、再びフェレスは倉庫に戻った。すると、先ほどの物音より大きな音が鳴り響いた。
「よく分からない奴だ……。はは……」
フレンチさんは何処か寂しげに微笑みながらフェレスの居る方角を見ていた。
俺はフェレス達の荷造りを終えるまでする事は無いからただじっとする事にした。
*
「お世話になりました~」
フェレス達の荷造りが終わると同時にレナも現れた。レナもどうやら手伝っていたらしい。レナはいつもの明るさでフェレス達に別れの挨拶をした。
人質にされても助ける――そんな、善良な行いなんて、俺なんかには真似出来ない。
「ああ、すまんかったな!嬢ちゃん!手伝ってくれてありがとうな!」
「元気でヤンス!」
「また、会うときは人質ではなく、客人として迎えてやるよぉ!」
レナはフェレスの言葉に嬉しそうに小躍りするようにはしゃいでいた。
俺はフェレス達とはそこまで仲良くしたいとは思えない。だから、何も言わず去るのを待とうとした。
だけど――
「「…………」」
お前は何か言わないのか?、と言いたげな眼差しで俺を見てきた。
無言の圧力に負けた俺は渋々別れの挨拶をする事にした。
「い、今までお世話になりました……」
すると、フェレス以外は「おう、じゃあな」と軽い挨拶をして蒸気自動車に向かって行った。
フェレスは俺をじっと見ると、何かを考えていた。
「そうだねぇ。テメェに言う事は……あれだな。アタシが何故厳しかったのかについてだなぁ」
「命を粗末にしているから……ですよね」
フェレスは良く覚えていたな、と微笑んだ。
俺はあまり褒められたことが無いからか、少し照れくさく感じていた。
「……アタシはなぁ、長くは生きる事出来ねぇんだ。昔、友人を庇って呪いを受けちまってなぁ。以前みたいに、段々と体を激しく動かせねぇ位に弱くなってんだ。明日……いや、今この瞬間に死ぬかもしれない――そんな感じで常に死を感じてんだ」
死の恐怖なのか、もしくは当たり前だった事が出来なくなった悔しさなのか、フェレスの声は震えていた。
フェレスは心が辛そうな表情をしながらも、俺に対して力強い眼差しで見つめていた。
「それでも、生きてやる。そう決めてんだ。最期の最後まで自分らしく生き――そして死んでやる。義賊のリーダーとして貧乏な奴らが生きやすいように最後まで活動してやる。だけど、それでも死んじゃう奴らも居る。命を粗末にする為、兵になる奴は多いけど、ここ最近の自殺者は約二万千八百人も居るんだ。その中で、18歳未満が500人も居やがる。ふざけんな!アタシよりも若いのに、選択肢があんのに、命を粗末にすんじゃねぇ!!――そんな想いだった」
フェレスの言葉に俺はただ聞くしかなかった。
他人の自殺なんて関係ない、そう思っていた。
だけど、俺が生きる理由が有るわけではない。たまたま、運で生きる選択肢をしてるだけだ。
だから、今は他人事ではないかもしれないと思う……。
フェレスは声を張り上げる為に一気に空気を吸い込み、俺――いや、届かない若者に伝えた。
「だからなぁ、アタシより早く死ぬんじゃねぇよ!生きて、生きて最後に年老いて生きて居て幸せだった事を叫んでから死ねよなぁ!……まあ、こんな感じだ。また、会えたら会おうぜ。今度会う時は男らしく居ろよ、じゃあな!!」
そう言ってフェレスは満面の笑顔で去って行った。
その後ろ姿は今の俺には到底真似出来ない貫禄の有る――そんな、大人らしい格好いい姿だった。
*
「すまないが先に行ってくれ。先にやりたいことが有る」
フレンチさんにそう言われて、俺とレナは森の一本道を歩いていた。
フレンチさん曰く、この道を真っ直ぐ行くと村に辿り着くらしい。そこにフォンとヨークが待って居るそうだ。
フォン達に会えるのは良いが、三日前に俺のせいでレナを巻き込み人質になってしまった事についてどう思っているか不安だった。
怒られて、終いには殴られるのではないだろうか?
殴られる位ならここでとんずらをこいた方が良いのでは……?
いや、仲間にしてくれたのに逃げるのは……。
「ふんふんふん~♪」
俺が悩んで頭を抱えながら歩いている隣でレナは呑気に楽しげな鼻歌を歌っていた。
鼻歌を聞いてる内に少し落ち着いて来た。いつもは煩く感じていた歌は今回だけ有り難く思えた。
暫く歩いていると、森を抜けて広い草原に出た。
俺達の視線の先には村らしき物が見えて来た。
「あぁ!村です。早く行きましょう!ふんふふ~♪」
待って、と言う間も無く、レナは鼻歌を歌いながら走り去った。
レナが行っても、俺のペースで村に着けば良いと思っていた。
だが、何故か胸騒ぎがした俺はレナに追い付くように走る。
そして、その胸騒ぎは予言者の如く当たる事になるとはこの時の俺は思って居なかった。