(9)やっと!
その後のパーティは、数人の先輩歌手の人たちが歌ったり、いろいろな催しで盛り上がっていった。
「よっ、修平君! 来てたか!」
一人でビュッフェ形式の料理の前で肉を食っていた時、俺に話しかけてきたのは小沢さんだった。
「あれ? 小沢さんもいらしてたんですか?」
「あぁ、会長と知り合いだからね」
へぇ~すげっ! さすが…。
「おいっ!」
小沢さんは、少し離れたところにいる人を呼んだ。
近づいてくる人はぼやけていたが、形がさっき壇場で見たKeiのようだった。
「あらっ!」
ゆ、ゆ、結莉ぃ―――――!?
料理の乗っていた皿はしっかり握っていたが、思わず持っていたフォークを落とした。
結莉の視線が、足元のフォークにいったあと、顔を上げ、結莉は、俺に抱きつき背中をポンポンと叩き、ハグをした。
あ~、局で抱きしめた時と同じ香りだぁ~結莉の香りだぁ。
俺の顔は、ふやけている。
「来てたの? 修平くん。みんなは? リフィールは?」
結莉はそう言い、俺から体を離した。
固まって何も言えない俺の顔を見上げ「どした? ん?」と、首をかしげた。
俺は一歩、結莉に歩み寄った。
ジリジリと結莉に近づいている時、勘ちゃんが飛んできた。
メンバーも飛んできた。
たぶん俺が次にする行動を読み取っていたのだろうか、勘ちゃんは俺から皿を取り、メンバーは俺の両脇を掴んだ。
げっ! なにすんだよ!
俺が、結莉に抱きつこうとしていたのが、バレバレだった。
「ど、どうもお久しぶりです」
利央たちが、引きつり笑いのまま、結莉に挨拶をした。
「い、いや~森原さんがKeiさんだったなんて知らずに、先日はこいつが大変失礼な行為をしてしまい申し訳ありませんでした」
勘ちゃんが深深と、頭を下げた。
タカは俺の口を手でふさぎ、利央と裕が、俺の両脇を確保していたため俺は身動きはもちろん、声も出せなく、モゴモゴもがき苦しんだ。
結莉と小沢さんは、そんな俺達を不思議そうな顔で見ていた。
「この間? って?」結莉が勘ちゃんに訊いた。
「あの、局で…修平がいきなり、あの…」
「あー、はいはい。ハグ? 挨拶でしょ?」
この時、俺は初めて知った。
結莉にとって、ハグは挨拶…だからさっき俺にハグしてきたんだ。
つーことは、この先会うたびに結莉に抱きついても、いいってことじゃん!
う、うれしすぎる!
俺は結莉がKei であっても誰でもいい。
結莉は結莉だ。
「おぅ~、みんな、こんなところで集まって、なにしとん?」
ナベさんが女性と現れた。
メンバーに囲まれている俺をみて、その女性が、怪訝な顔をしている。
「こちら、吉岡さん」ナベさんの言葉のあとに女性が言った。
「Keiのマネージャーをしております、吉岡と申します」
Keiのマネージャーということは、結莉のマネージャーだ。
俺は挨拶をしようと思い、タカに口をふさがれていたが、「フガフガ、モゴモゴモゴーーモゴ」と、一応、(初めまして、リフィールの修平です)と、言ったが完全無視された。
勘ちゃんが俺たちリフィールの紹介をした。
俺の名前を言ったとき「モゴモゴ~(どうも~)」と、頭だけ動かした。
「修平くん…おもろいね」結莉が俺をみて笑った。
か、かわいい…、でも今日は髪の毛をアップしてパンツスーツだからかっこいいけど。
このくらい近いとちゃんと見える、結莉の姿が!
遠くにいるときでも、ちゃんと見えるように眼鏡持ってくれば良かったなぁ。
これからは常に眼鏡は所持しようと、心に決めた。
「お話中申し訳ございません。Keiさん、会長がお呼びです。よろしいでしょうか?」
会長の秘書らしき人が結莉を連れて行ってしまった。
俺はやっとメンバーの錠から解放され、体をほぐしながら怒鳴った。
「っだよ! みんな!」
「わりぃわりぃ、こうでもしなきゃ…」
「残念ながら、おまえの行動は分かっている…」
「ぜってー、Keiさんに飛びつく…」
「でも今日は結莉から抱きついてきてくれたぜっ!!」
俺は無意味なガッツポーズで、みんなの前で自慢した。
「頼むから、修平、結莉さんとかKeiさんと(さん)づけにしてくれ」
勘ちゃんが頼んできた。
えー、やだよ。そんな他人行儀な…
「ははは、大丈夫ですよ。勘太郎さん。結莉はそんな事気にするような女じゃないですよ」小沢さんが言った。
「そうだよ。修平君もリフィールのみんなもアイツの事呼び捨てでいいから仲良くしてやってくれ」ナベさんは父親のように言った。
「しかしですねぇ、ナベさん、Keiさんを呼び捨てなんて…」
勘ちゃんは真面目すぎる。マネージャーだからしょうがないのだが…
「あっ、いいんですよ。その方が結莉も気が楽でしょうから。Keiって分かると露骨にゴマすってくる人間が多くて。アイツもそれがいやで、あまりこういう場所に来て人と知り合おうとしないというか…。だから普通に…修平くんのようにアイツに接してくれたら、俺らもありがたい」
ナベさんの言葉がなくても俺は、結莉を“さん”づけで呼ぶ気はさらさらない。
「そうだ。もうすぐパーティも終わるだろうし、このあと一緒に飲みに行かないか? 明日、仕事とか早いの? あっ、それともこれからおねーちゃんたちと? かな?」小沢さんに誘われた。
「明日の仕事は入ってないんですが、こんな若造達が一緒だと、ご迷惑じゃ…」
勘ちゃんは、また大人な謙虚さで言い、俺は勘ちゃんを睨んだ。
「もう、この後は身内だけだから。残念ながらおねーちゃんたちはいないけど…結莉も来るし、」
ナベさんの言葉を最後まで聞かず俺は、即答した。
「お供させていただきます! たとえ勘太郎がダメだといってもメンバーが死に掛けていようと、俺、行かさせていただきます!!」
結莉が来るのに、行かないわけがない!!
メンバーが、俺を叩きだした…
勘ちゃんは俺をチラッと見て「では、お言葉に甘えて。おまえらご迷惑かけんじゃないぞ!」と、不安そうにしながらも了解してくれた。
「修平君…結莉のこと気に入っちゃったんだぁ?」
小沢さんは鋭い。
「いえ、気に入ったのではなく、好き! いや、愛しています!」
俺は、正直に宣言した。
タカに、また口をふさがれた。
「あははは~、素直でいいなぁ、修平くんは!」
ナベさんが、手を叩いて喜んでくれた。
そして、またメンバーと勘ちゃんは、俺を叩き続ける。
結莉はパーティの間、いろいろな人から引っ張りだこで、結局パーティが終わるまで俺は話などできなかった。
クラブ「W」に集合ということで、俺らはパーティの後、クラブに向かった。




