拓海の恋:告白
金曜日、爺ちゃんのお誕生日会。
乃木坂のとある高級レストランに、爺ちゃん、パパちゃん、ママちゃんが先に来ていて、拓海は、美里の仕事が終わるのを待ち、一緒に来る予定だ。
結莉と修平は、すでに待機している…。
レストランの入り口がよく見える近くの電信柱の後ろで、立てに並んでカメラを構えて…。
「ちょっと、修平くんくっ付かないでよ。シャッター押しづらいってば!」
「だって、こうしてないと電柱からはみ出るよ…」と言う修平の顔は、ニマニマしている。
結莉を後ろからギュッと、抱きしめて引っ付いている。
「修平くん、先にレストラン入ってればぁ?」
「やだ!」
「…じゃぁ、…下半身離してよ、ったく…いっつもいっつもあんたは下半身盛り上げ、」
「来たよ! 拓海たち!」
「えっ? シャッター、シャッター…」
結莉は、二人が並んでレストランに入っていく姿をカメラに収め、五分後に素知らぬ顔をして、修平と店の中へと入った。
三時間ほど食事を楽しみ、爺さんは、拓海と美里から貰った帽子をうれしそうに被り、みんなでレストランを出た。
爺さんたちはお迎えの車に乗り込み、結莉と修平は、そのままマンションに帰った。
「オレたちは、ちょっと飲んで帰ろうか…?」
拓海と美里はタクシーに乗り、梅木の店に向かった。
☆☆☆☆☆
結莉は、家に着くなり、パソコンの前に座り、デジカメを繋いだ。
「さっ! 編集編集…っと」
ここ数日、張り込みをし、一生懸命撮った拓海と美里の写真の編集作業に入った。
隣では修平がつまらなそうに結莉を見つめている。
「そんなの明日にしろよ~。風呂入って、営んで寝ようぜ~」
「一人で営んで、先に寝ていいよ! 今日中にこれやっちゃって、明日ポストに投函するから!」
画面を見ながら言われ、修平は拗ねながらも、一緒に机の前にいた。
「うわぁ~、今のパソコンソフトってすごいよね? こんなこともできちゃうよ! あっ、もうちょっと二人の顔が近かったら、キスしてるみたいにできるんだけどなぁ。ここら辺をちょっと、こー伸ばして…」
結莉は、向かい合っている拓海と美里の口の部分を、伸ばしてみたり、加工した。
「なんか…それ、変だよ? タコの口じゃないんだからさぁ。っつーか、そんな人間いないよ? 宇宙人っぽいし…」
「……そうだよね…はははぁ…」
修平に指摘され、自分の編集技術の無さに溜息をつき、最終的に写真加工は止め、自然な恋人同士のようなツーショット写真を、数枚選んだ。
朝一で、ゴシップ誌を発行している出版社へ匿名希望で、送る予定だ。
拓海の女性関係を世間に広め、そのまま美里とうまく行けばいいし、大倉の娘との見合いもキャンセルできる理由になると、考えていた。
人気商売の拓海の今後などは、全く考えていない。
☆☆☆☆☆
結莉が必死にパソコンの前で頑張っている頃、拓海は美里と梅木のところで少し飲んだ後、美里のマンションの前まで、歩いてきた。
「今日も楽しかった、ありがとう。お爺ちゃんも帽子喜んでくれてよかったね」
そう言った美里に、拓海は少し間を置き、美里の手を掴んだ。
驚いた表情で美里は、拓海を見た。
拓海は、真っ直ぐな目で美里を見て、口を開いた。
「ミミ、オレのこと…どう思ってる? …好き…とか、嫌い…とか…」
「えっ…?」
「オレ、ミミのことが好きだ。ちゃんと…真剣に付き合ってほしい」
拓海は、遊びではあるが一応女性というものは、知っている。
が、ずっと結莉だけを思ってきた。
結莉以外の女性に好きという気持ちをもったのは美里が初めてで、告白することに目一杯緊張しているが、本人は頑張った。
「わた、わたしは…」
美里自身は、拓海にとっての自分は、ただの友達だと思われていると思っていたし、好きになってはいけない人だと思っている。
ジッと拓海に見つめられ、下を向いた。
「私は…」
「うん…、ミミ…は?」
「…私は、高卒だし!」
「えっ?」
ミミの意外な言葉に拓海の顔が「?」になった。
「あっ、えーと、高卒だから、拓海くんには、不似合いで…えーと…」
「…うん? オレも高卒。大学中退だから、高卒!」
「うちは…、うちの家は普通に…サラリーマンで…」
「オレなんて、毎年年収違うし、サラリーマンのような安定した収入ないよ」
美里は、下を向いたまま続けた。
「うちは、小さな賃貸マンションで自分の家なんて…ないし…」
「んー、オレも自分の家、持ってない。今住んでるところ、おやじ名義だし、追い出されたら、行くとこない!」
「……お茶も…お花もできない…し」
美里の声は、どんどん小さくなっていく。
「オレもお茶もお花もできない…っていうか、オレのおふくろもできないよ? 興味がないなら別に必要のない趣味でしょ?」
「英語もできなし…」
「…ふっ、ここ日本だよ?……他には?」
拓海が少し微笑んだ。
「他に、なにがミミとオレが不似合いな理由があるの? 誰かに何か言われたの?」
「……」
美里は黙ってしまった。
「オレ、たぶんミミが言ってくる不似合いな理由、全部否定できる自信、あるよ?」
「拓海…くん」
美里が顔を少し上げた。
「オレの質問に答えて?…オレのこと好きか嫌いか、答えて? もし嫌いだったら、オレ、あきらめ、」
「好き!……です…」
真っ赤になりながら拓海の目を見て、力を込めて『好き』と言いったあと、下を向いた。
美里の答えに拓海の顔は緩み、クシャクシャっとした笑顔になった。
「ありがとう、ミミ…」
本当は美里が壊れるくらい強く抱きしめたかったが、壊れたら困るので優しく抱きしめた。
電燈の明るいマンションの下、たまに人も通っているが、軽く唇を合わせた。
美里は、自分の唇から拓海の唇が離れると、赤い顔のまま言った。
「じ、実は、私…男の人と付き合ったこと…ないんだぁ…」
「そっか、じゃぁ、もしかしてファーストキス? オレが…」
拓海は少し嬉しそうに、訊いた。
「…ううん、ファーストキスでは…ないけど」
美里は少し照れて言った。
「え!? そ、そうなんだ…」
拓海は、残念な顔をした。
「うん…ファーストキスは…、ポチ雄くん、だから…」
「ぁあ? …ポチ…雄? …ぁははは~~」
―――ポチ雄…帰ったらしつけのし直しだ! 明日絶対トレーナーの所に連れて行く。
拓海は肩を揺らしながら笑ったあと、美里に言った。
「ねぇ、ミミ…、おもいきり強く抱きしめても、いい?」