表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/64

拓海の恋:告白

 金曜日、爺ちゃんのお誕生日会。


 乃木坂のとある高級レストランに、爺ちゃん、パパちゃん、ママちゃんが先に来ていて、拓海は、美里の仕事が終わるのを待ち、一緒に来る予定だ。

 結莉と修平は、すでに待機している…。

 レストランの入り口がよく見える近くの電信柱の後ろで、立てに並んでカメラを構えて…。


「ちょっと、修平くんくっ付かないでよ。シャッター押しづらいってば!」

「だって、こうしてないと電柱からはみ出るよ…」と言う修平の顔は、ニマニマしている。

 結莉を後ろからギュッと、抱きしめて引っ付いている。

「修平くん、先にレストラン入ってればぁ?」

「やだ!」

「…じゃぁ、…下半身離してよ、ったく…いっつもいっつもあんたは下半身盛り上げ、」

「来たよ! 拓海たち!」

「えっ? シャッター、シャッター…」


 結莉は、二人が並んでレストランに入っていく姿をカメラに収め、五分後に素知らぬ顔をして、修平と店の中へと入った。



 三時間ほど食事を楽しみ、爺さんは、拓海と美里から貰った帽子をうれしそうに被り、みんなでレストランを出た。

 爺さんたちはお迎えの車に乗り込み、結莉と修平は、そのままマンションに帰った。


「オレたちは、ちょっと飲んで帰ろうか…?」

 拓海と美里はタクシーに乗り、梅木の店に向かった。



            ☆☆☆☆☆



 結莉は、家に着くなり、パソコンの前に座り、デジカメを繋いだ。

「さっ! 編集編集…っと」

 ここ数日、張り込みをし、一生懸命撮った拓海と美里の写真の編集作業に入った。


 隣では修平がつまらなそうに結莉を見つめている。

「そんなの明日にしろよ~。風呂入って、営んで寝ようぜ~」

「一人で営んで、先に寝ていいよ! 今日中にこれやっちゃって、明日ポストに投函するから!」

 画面を見ながら言われ、修平は拗ねながらも、一緒に机の前にいた。


「うわぁ~、今のパソコンソフトってすごいよね? こんなこともできちゃうよ! あっ、もうちょっと二人の顔が近かったら、キスしてるみたいにできるんだけどなぁ。ここら辺をちょっと、こー伸ばして…」

 結莉は、向かい合っている拓海と美里の口の部分を、伸ばしてみたり、加工した。


「なんか…それ、変だよ? タコの口じゃないんだからさぁ。っつーか、そんな人間いないよ? 宇宙人っぽいし…」

「……そうだよね…はははぁ…」

 修平に指摘され、自分の編集技術の無さに溜息をつき、最終的に写真加工は止め、自然な恋人同士のようなツーショット写真を、数枚選んだ。



 朝一で、ゴシップ誌を発行している出版社へ匿名希望で、送る予定だ。

 拓海の女性関係を世間に広め、そのまま美里とうまく行けばいいし、大倉の娘との見合いもキャンセルできる理由になると、考えていた。

 人気商売の拓海の今後などは、全く考えていない。



            ☆☆☆☆☆



 結莉が必死にパソコンの前で頑張っている頃、拓海は美里と梅木のところで少し飲んだ後、美里のマンションの前まで、歩いてきた。


「今日も楽しかった、ありがとう。お爺ちゃんも帽子喜んでくれてよかったね」

 そう言った美里に、拓海は少し間を置き、美里の手を掴んだ。

 驚いた表情で美里は、拓海を見た。


 拓海は、真っ直ぐな目で美里を見て、口を開いた。


「ミミ、オレのこと…どう思ってる? …好き…とか、嫌い…とか…」

「えっ…?」

「オレ、ミミのことが好きだ。ちゃんと…真剣に付き合ってほしい」


 拓海は、遊びではあるが一応女性というものは、知っている。

 が、ずっと結莉だけを思ってきた。

 結莉以外の女性に好きという気持ちをもったのは美里が初めてで、告白することに目一杯緊張しているが、本人は頑張った。


「わた、わたしは…」

 美里自身は、拓海にとっての自分は、ただの友達だと思われていると思っていたし、好きになってはいけない人だと思っている。


 ジッと拓海に見つめられ、下を向いた。

「私は…」

「うん…、ミミ…は?」


「…私は、高卒だし!」

「えっ?」

 ミミの意外な言葉に拓海の顔が「?」になった。


「あっ、えーと、高卒だから、拓海くんには、不似合いで…えーと…」

「…うん? オレも高卒。大学中退だから、高卒!」

「うちは…、うちの家は普通に…サラリーマンで…」

「オレなんて、毎年年収違うし、サラリーマンのような安定した収入ないよ」


 美里は、下を向いたまま続けた。

「うちは、小さな賃貸マンションで自分の家なんて…ないし…」

「んー、オレも自分の家、持ってない。今住んでるところ、おやじ名義だし、追い出されたら、行くとこない!」

「……お茶も…お花もできない…し」

 美里の声は、どんどん小さくなっていく。


「オレもお茶もお花もできない…っていうか、オレのおふくろもできないよ? 興味がないなら別に必要のない趣味でしょ?」

「英語もできなし…」

「…ふっ、ここ日本だよ?……他には?」

 拓海が少し微笑んだ。


「他に、なにがミミとオレが不似合いな理由があるの? 誰かに何か言われたの?」

「……」

  美里は黙ってしまった。


「オレ、たぶんミミが言ってくる不似合いな理由、全部否定できる自信、あるよ?」

「拓海…くん」

 美里が顔を少し上げた。


「オレの質問に答えて?…オレのこと好きか嫌いか、答えて? もし嫌いだったら、オレ、あきらめ、」


「好き!……です…」


 真っ赤になりながら拓海の目を見て、力を込めて『好き』と言いったあと、下を向いた。


 美里の答えに拓海の顔は緩み、クシャクシャっとした笑顔になった。

「ありがとう、ミミ…」

 本当は美里が壊れるくらい強く抱きしめたかったが、壊れたら困るので優しく抱きしめた。

 電燈の明るいマンションの下、たまに人も通っているが、軽く唇を合わせた。



 美里は、自分の唇から拓海の唇が離れると、赤い顔のまま言った。

「じ、実は、私…男の人と付き合ったこと…ないんだぁ…」

「そっか、じゃぁ、もしかしてファーストキス? オレが…」

 拓海は少し嬉しそうに、訊いた。


「…ううん、ファーストキスでは…ないけど」 

 美里は少し照れて言った。

「え!? そ、そうなんだ…」

 拓海は、残念な顔をした。


「うん…ファーストキスは…、ポチ雄くん、だから…」

「ぁあ? …ポチ…雄? …ぁははは~~」

―――ポチ雄…帰ったらしつけのし直しだ! 明日絶対トレーナーの所に連れて行く。


 拓海は肩を揺らしながら笑ったあと、美里に言った。



「ねぇ、ミミ…、おもいきり強く抱きしめても、いい?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ