拓海の恋:結莉・修平、二人におまかせ!
拓海は、ツアーの打ち合わせや、テレビや、ラジオの仕事を忙しくこなしながらも、美里を誘っては、ポチ雄の散歩を楽しんでいる。
今日もまた、夜八時ごろ、二人で大きな公園の中を散歩し、途中でベンチに座って話をしていた。
が、木の陰から二つの影が、拓海と美里を監視している。
「結莉ぃ、俺、腹減ったよ~」
「しっ! うるさい、静かにしなさいよ! だから来なくてもいいっていったのに。ったく!」
しゃがみながら修平の頭をコツいた結莉の手には、ものすごくおおきな望遠レンズの付いた一眼レフのデジカメを持っている。
修平と結莉が自宅で「さぁ、これからご飯でも食べようかね?」と、支度をしているところに、ママちゃんから「あと三十分くらいしたら、ミミちゃんとお散歩に行くみたいよ!」と、緊急連絡が入り、結莉は、カメラ片手に車を走らせた。
「修平くんは別に来なくてもいい!」と、言ったが、この男はくっ付いてきて「腹が減った」と、うるさい。
「おっ、中々いい雰囲気じゃん? もうちょっと、くっつけばなぁ~」
結莉は、レンズを覗いては、ブツブツ言い、シャッターチャンスを狙い続ける。
☆☆☆☆☆
「ミミ、来週の金曜日って仕事終わったら暇? 爺ちゃんの誕生日で家族だけで食事行くんだけど、ミミも一緒にって。結莉も修平も来るし」
「私も?」
「都合悪い?」
「ううん、何も予定はないけど…、家族だけのお食事会なのに、私が行ったら、」
「え? あっ、爺ちゃんからのお願いなんだ。ミミのこと好きみたいだし。それに、爺ちゃん、今年が最後の誕生日かもしれないし…、毎年言ってんだけどね? ははは~」
「ふふふ、じゃぁ、お招きされちゃおう! あっ、プレゼントって何がいいのかなぁ?」
「一緒に買いに行こうか」
☆☆☆☆☆
「うんうん、よしよし。おっ! ミミの頭に落ちた葉っぱを拓海ちゃんたら、取ってあげてるわぁ、うぉぉ、そのままチュッ! なんてね…? まだダメか…」
結莉は誰に話しているのかわからないが、一人実況中継状態で、シャッターを切る。
「結莉…」
修平が、カメラを覗き込んでいる結莉の腕を引っ張る。
「ゆうりぃ…」
「なによ、うるさいってば…、ピントがずれる。お腹空いたんなら、そこら辺に落ちてるどんぐりでも食べてなさいよ!」
結莉は拓海たちを見たまま、言った。
「俺…イベリコ豚じゃないし…今、春だから、どんぐりないし…。っていうか、ゆ、ゆうり…、こいつ…」
修平は、結莉の頭を手で持って、横に向けた。
「な、なにすんのよ…修平く…ん?」
「わほっ? わほ~~~~ん!」
ポチ雄の濡れている鼻先が、結莉にキスをした。
「き、きゃゃゃやややややーーーー」
とっさに修平が結莉の口を押さえる。
が、叫び声に拓海と美里が、こちらを向いた。
「わほん? わんわん、わほ~~~ん」
ポチ雄が吠える。
修平は結莉を抱きかかえるように走り、逃げた。
「あれ? 結莉さん…?」
美里が言ったが、
「えぇ? ちがうだろ? いるわけないよ、こんなところに」
拓海はそう言い、
「脅かしてすみませんでしたぁぁ~~~~」
と、逃げる二つの影に向かい、叫んで謝った。
「ポチ雄――!」
拓海に呼ばれたポチ雄は、「人に吠えたらダメじゃないか!こらっ!」と、怒られる。
ポチ雄的には、結莉と修平がいたので遊びに行っただけだ。
少し納得のいかない顔をし、伏せて「くぅ~ん…」と、鳴いた。
☆☆☆☆☆
「ちょ、ちょっと、びっくりしちゃったぁ。せっかくいいとこだったのに、ポチ雄ったら、いつの間に! アイツは伊賀犬か甲賀犬か!? 滋賀県か!」
結莉は車の中で、心臓をバクバクさせながら言い、撮った写真をチェックした。
「結莉ぃ…腹、減ったぁ…」
そう言う修平の声は無視された。