(6)結莉という人
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「どうだ? 結莉。リフィールって」
モニター室で収録を見ていたプロデューサーの小沢が、結莉に訊く。
「ん? いいんじゃない? 別に興味はない」
結莉は、棒が付いた飴をクルクルと回しながら、言った。
「それは、彼らが売れているからいいってこと?」
「うーん、それもあるし。私の分野じゃない、彼らは」
「でも、おまえがプロデュースしたら、ドドーンといくと思うぜ」
そう言いながら小沢は腕を斜め上に上げた。
「リフィールは、私がやらなくても、この先確実に、上っていく気がする。それに誰もプロデューサーの名前でCDを買うわけじゃない。所詮、私たちは裏方でしょ?」
「そうか。おまえの目は確かだからな。おれ、あいつら、リフィール好きだからさぁ、この世界で残ってもらいたいんだ」
小沢は、モニターに映るリフィールを見ながら言った。
「うん。大丈夫だよ、あの子たちは」
結莉は、棒飴を銜え腕を組み頷くと、震えるポケットに手を入れた。
マナーモードの携帯の相手は、ナベだった。
「おまえさぁ、リフィールの修平に抱きつかれたんだって?」
「あっははは、うん。でも挨拶よ挨拶~で、なんで知ってるの? そんなこと」
「さっきリフィールのマネージャーから連絡が来て教えてもらった。でさ、なんかおまえのこと知りたがっていたから教えといた。作曲家のKeiちゃんです…と」
「Kei」という人物は世界的にも名の知れた作曲家だ。
しかし、本当の姿を知るものは少ない。
テレビにはもちろん出ない。
取材にも応じない。
「Kei」のスケジュールはマネージャーの吉岡がすべてをしきり、「Kei」は作品を作り出すことだけに集中し、時折プロデュースの仕事もしていた。
公の場にはたまに出没しているが、自己紹介をするときは本名の森原結莉を名乗ることが多い。
彼女はオーラを消し自分のリズムで生活をしていた。
ナベと話している途中で、小沢が代れというしぐさをしたので結莉は携帯を小沢に渡した。
結莉はモニターに映る修平を見た。
いきなりハグされたことを思い出していた。
「この子、海外にでも暮らしていたのかしら?」
結莉にとってハグやキスくらいは、挨拶とかわらない。
修平の思いなど、結莉には全く届いていなかった。
電話を切った小沢に言われた。
「結莉、JICのパーティ来るんだろ? ナベも今回は出席しろって言ってたぜ」
「ん? あぁ…うん」
結莉は生返事で答えた。