拓海の恋:バレてる…?
結莉が、拓海のベッドルームを覗きにきた。
―――あらあら、今日も熟睡中のようで…。
「拓海ちゃ~ん? ん? いいこ、いいこ~」
拓海の寝ている横に腰掛、頭を撫でた。
「拓海くん? 起きてくださ~い、事務所に行きましょうね~」
「……ZZZ…」
「拓海くん? 起きてぇ~」
結莉は、まったく全然似ていないが、ミミのまねをした。
「ん~、ミミ…もう…少し…寝る…」
拓海には美里の声に聞こえている…らしい?
「拓海くぅ~ん。お仕事ですってばぁ~ん」
結莉はお得意のエロ声で呼んだが、美里は、そんなに色っぽい声は出さない。
「んー、ん? ミミ…ミ、ミ? ミミ?」
拓海は、眉をひそめながら目を開けた。
いるわけのない美里…。
目の前には結莉の顔がドアップだ。
「うわっ! うわーなんだよ、結莉じゃねーかよ」
「…?私で悪かったわね、私の他に誰がいんのよ、ん?」
拓海の頭をコツいた。
「あら? 誰かに起してもらってる夢とか見てたの? 誰? ね~ね~誰?」
「ち、ちげーよ。夢なんて見てねーよ」
「あっそ? 早く起きなさい? 今日は、なんかスタイリストとの打ち合わせらしいよ?」
「つーか、なんで今日結莉がいんだよ」
「…あっ、なんか最近、拓海冷たいよなぁ~私に…しょぼぼ~ん…」
結莉は、チラリと拓海を見て、淋しそうな顔をした。
「え? そんなことねーよ。冷たくなんかなってねーよ」
「あはは~、とりあえず事務所行くよ!」
拓海の困った顔を見て結莉は笑った。
「おい、結莉、まてよ。服、出しといてよ、オレ、シャワーするから」
「ぁあ? 毎度毎度あんたはわがまま子ちゃんだね~拓海さぁ、いないの? 好きな人、嫁候補!」
「…いるよ、結莉」拓海は指を結莉に向けた。
「…違うでしょ、私は! あっ、ミミなんてどうなのよ。たまにご飯食べに行ってるらしいじゃない? ママちゃんが言ってたわよ? つきあってるの?」
わざとらしく訊いてみた。
「つ、付き合ってなんていないよ…。最近、ツアーの打ち合わせと新曲のレコーディングで忙しいから、会ってないし」
「ふ~ん、そうか…。ミミ、彼氏とかいんのかな?」
「いない…らしい」
「ん? なんだ拓海! 確認済み? んじゃ、あんたにもチャンスはあるのね」
「な、なんだよ、チャンスって。オレは別に」
「ほらほら、もぅ時間ないから! シャワー浴びて来なさい」
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拓海は事務所の会議室でスタイリストと衣装合わせをしたあと、その場で昼食を取っていると、事務員・山田がお茶を運んできた。
「はい、結莉さんどうぞ、お茶~」
拓海と結莉の関係を知っている山田は、結莉にコビるように接してくる。
「ありがと」
結莉は、無愛想なまま礼を言う。
「結莉さんさぁ、バレンタインデーのチョコ少し持って帰ってよ。まだハケなくて残ってんだぁ」
メンバーの泰蔵に言われた。
「いらないわよ。うちだって修平くんのでアップアップしてたんだから…。口に入れるものだから、どこかに寄付っていうのも躊躇われるしね」
「そうなんだよ、俺達が食うにも限界あるしさぁ。拓海はチョコ嫌いだから食わねーし」
メンバー洋一の言葉に、チョコレートを贈った山田の顔が、歪んだ。
「あれ? 拓海、そういえば、あなたチョコレート食べないのに部屋にチョコレートの箱があったね」
「え? あっ、あ、あれ…貰ったから…」
ボソボソと言う拓海に、山田の顔が(ええ?もしかして私があげたもの?)と笑顔になった。
「おっ! もしかしてミミちゃんか?」
「そう」
メンバーの問いに否定をしない拓海。
(ミミってだれ!!) 山田が拓海を見る。
「なんだよ、おまえ、ミミちゃんのチョコ、未だに大切に食ってんのか? 今、三月だぜ」
「お~お~、チョコをちょこっと食べながら、愛をチョコッとずつ育んでいるのか! はははは~~~……はは…」
笑えないマネージャー・卓のおやじギャグにみんなは冷たい視線を送る。
「ミミ、今度のJICのパーティ来るわよ。ママちゃんが連れて行くって張り切ってる」
結莉が、お茶をズズッと飲みながら、みんなに言った。
「なんだよ、拓海、付き合ってんのかよ、そう言うことは早く教えろよなぁ。家族ぐるみかよ、いいなぁ」
メンバー・トオルが言うと山田がおぼんを落し、一瞬みんなは山田を見たが、また何事もないかのように、みんなは食事を始めた。
「付き合ってねーよ…」
拓海は、溜息にも似た息の吐き方で言った。
「あっ、山田さん、お茶ありがとう。もういいよ」
卓が、まだウロウロしている山田にいい、山田は会議室を出た。
「一緒に食事とかポチ雄のお散歩とか行ってんだろ?」
「早く告白すれば? ついでにプロポーズなんてしちまえば?」
「そーだよ、それがいいよ。」
「つーかさ、出来ちゃった婚の方が、ファンには手っ取り早く納得させられっかもな」
みんなの勝手な話を聞いていた拓海は、「ぁあ?」と疑問に思った。
「あのさぁ、なんでみんなオレがミミと食事行ったり、ポチ雄の散歩のこと知ってんの?」
「・・・・・・・・」
みんなは一瞬固まり、「ヤバイ」と、目を合わせた。
出所はママちゃん、経由は結莉。
そしてメンバーに伝わっている。