拓海の恋:チョコの日 2
美里の待つ、駅に向かう拓海は、やはり夜道をるんるんとスキップしている。
今日は雪がないので転ばない。
駅に着くと美里がすでにいた。
拓海は駆け寄った。
「ごめん、今日は早く着いただんだね。おなか空いてるでしょ?」
「うん! でも拓海くん夕食食べたんじゃないの?」
「ううん、まだ。さっき家に帰ってきたばっかだし、一緒に食べようって約束したでしょ? 俺も腹減ってる」
大ウソをついた。
「そうなの? ごめんね、遅くなっちゃって」
「コジュコジュに行こうか」
コジュコジュとは、地元の人気アジアンフード店だ。
「席、あるかな? 人気だよ? あそこ」
「あー大丈夫! さっき来る時、店長にお願いしておいた」
「そうなの?! なんか久しぶり、コジュコジュ。うれしいなぁコジュコジュ」
大きな目をクリクリさせて喜ぶ美里を、拓海は愛しく見つめた。
拓海は来た道を戻り、店に入った。
満席だったが、拓海と美里のために、一テーブルは空いている。
顔なじみのスタッフに挨拶をしている拓海は、お客たちの熱い眼差しを浴びる。
「……」
美里が拓海をちょっと見た。
「どうしたの?」
「えっ? あの…私なんかが、拓海くんといて大丈夫?」
「どうして?」
不安そうな顔の美里を、拓海は不思議に思った。
「み、みんなに…見られてるよ…?」
「気にするなよ、いつものことじゃん」
「いつも…?」
「うん、いままでもそうだったでしょ? 二人でいるとき」
「えっ!! そうなの?!」
「気が…つかなかったの?」
「うんうん!」美里はビックリしたような顔で返事をした。
「私、いままで拓海くんしか見てなかったから。ごめんなさい…誘ったりして…と、いうか、気がつかなくて…。ごめんなさい…」
美里は申し訳なさそうに拓海に言った。
――いままで拓海くんしか見てなかったから…
美里のこの言葉に、拓海は軽くうれしさの眩暈を起こした、ニヤケた。
そして、拓海は美里が他の女性と違うことに正直驚いた。
結莉以外の女性と二人で食事に行くと、その女性はFACE・拓海といることで周りの人間に対して自慢げな態度になる。
だが、美里は申し訳なさそうになった。
美里の態度に少し戸惑う自分がいる。
「どうしてあやまるの?」
「だって…私みたいのと一緒にいたら」
「私みたいの…って? ミミのこと?」拓海はやさしく訊いた。
「…う、ん…ごめんなさい…」
「ほら、だから謝る意味がわかんないから。オレがミミと食事したらいけないの? オレ、いろいろな人と遊びに行ったり、食事に行ったりしてるよ?」
「あっ! そうだよね? 友達同士なんだからいいんだよね? なんだぁ、いいんじゃ~ん」
急に美里は笑顔になった。
美里の笑い顔につられて拓海も笑ったが、少し淋しい。
―――友達同士…。
「ねぇ、おふくろとスーパーで会ったんだって?」
「え? うん。母と一緒の時」
「おふくろがうらやましがってた。娘と歩けるなんてって」
「ん? へへへ、私なんて荷物持ちだよ? あっ、拓海くんにお嫁さんがきたら母さん喜ぶんじゃんじないの? 拓海くんと結婚する人ってどんな人なのかな? なんか興味ありありです!」
美里はサラリと拓海に言った。
「お嫁さん…? あははは~はぁ…」
―――力が抜ける…。楽しそうにオレの嫁さん勝手に想像してる…
食事を終え、いつもの様に、拓海が美里のマンションまで送ると、紙袋からガサゴソときれいに包装された箱を五つ、美里から渡された。
「今日、バレンタインデーだから。お爺様とお父様とこれは拓海くん。時間がなかったから手作りじゃないんだけど…それに拓海くんはたくさんチョコレート貰っているかもしれないから…もしいらなかったら事務所の方にでもあげて。それからこれは、お母様にチョコレート味のお団子とポチ雄くん用のチョコクッキー!」
「ありがとう。みんなも喜ぶよ。オレ、ちゃんと食べるから、このチョコ」
拓海は嬉しそうに笑った。
「無理しないでね。チョコレート苦手って知ってるけど、バレンタインデーだから、やっぱりチョコかな? なんて思っちゃったの」
「食べるから。ありがとう」
拓海は美里の頭をポンポンと叩いた。
美里はニッと笑って「じゃ! 今日もご馳走さまでした!」と一礼した。
「また食事に行こう」
「あっ、でも…」 美里は少し口ごもった。
「オレと二人じゃいや?」
拓海は、女性に言ったこともないセリフに自分でも照れた。
「ううん、そんなことない。拓海くんといると楽しいよ!」
ドキンッ!と拓海の心臓が鳴った。
「そ、そう? ははは~」
―――照れるし…笑うしか脳がねーのかオレは…なさけねぇ。
拓海は自分用のチョコを部屋に持って行き、丁寧に開けた。
甘そうに見えたチョコはビターのミント味。
「美味いなぁ~チョコレートって~」
拓海はチビチビと大切に食べた。
「来年は手作りがいいなぁ~ミミの…」
などと、山田の手作りチョコを気色悪がっていた男はどこに行ったのか…
自分勝手な男である。