拓海の恋:おはよう、拓海!
この『話』より、番外編として「FUNNY FACE・拓海」メインのストーリーを書かさせていただきます。
結莉が香港より帰国した…本編・45話からの続きになります。
秋が少し冬に変わり始めたころ、結莉は香港から完全帰国をし、修平はツアーで全国を回り始めた。
そして、季節は十二月の寒い時期を迎えていた。
☆☆☆☆☆
前日から大谷家に泊まっていた結莉は、朝シャワーを浴び、ダイニングに現れ、拓海の母こと「ママちゃん」に訊いた。
「ママちゃん、拓海は?」
「まだ、寝てるわよ、午前さまだったみたい」
のんびり者のママちゃんは、のんびりと言った。
「じゃ、ちょっと起してくるかなぁ」
結莉は、二階に上がり、拓海の部屋をノックもせずに開けた。
「……熟睡中…か」
拓海は頭から布団をスッポリと被って寝ている。
「た・く・み・く~ん。朝ですよ~、って、やさしく言っても起きるわけないわな、こいつは!」
結莉は布団を全部剥ぎ取りながら、怒鳴った。
「こら! 起きろ! 拓海!! とっととご飯食べて、事務所行くわよ!!」
「ん~ぁぁあ?なんだよ、結莉かよ。まだ眠みーよ…寒みーし…」
剥ぎ取られた布団を奪い取ると、また頭から被った。
結莉は負けじと、また布団を剥ぎ取り、拓海の頭とお尻をパンパンと叩いた。
「っ、いてぇーよ、寒い…」
お尻と頭を擦りながら、体を起した。
「そんな、格好してるから寒いんでしょ? 十二月なんだから、ちゃんと上くらい着て寝なさいよね」
結莉はベッドに腰掛けて言った。
「あれ? 結莉、朝からなんでここにいるの?」
「なに今ごろ」
「修平と来たの?」
「修平くん、今日、北海道から帰ってくるんだぁ。だから昨日、泊まりに来てたの」
「ぁあ?? 聞いてねーよ! 結莉が来てたんなら、夕べ飲みになんて行かなきゃよかった… ぁんだよぉ」
結莉が修平のものになっても、拓海はまだまだ結莉のことが好きである。
一緒にいたい気持ちは変わらない。
「あっ、拓海、早く着替えて朝ご飯食べなさい。事務所行くんでしょ? 私も村田に用事があるし、一緒に行くから…ぴっよょ~ん、てかっ!」
そう言うと結莉は、拓海のビーチクを摘んだ。
「うわぁぁぁぁ、なに、なにすんだよぉぉぉ」
真っ赤になった拓海は思わず、胸を隠す。
顔色一つ変えずに結莉は、拓海の頬を摘んで言った。
「何照れてるのよ。幼稚園のころなんてスッポンポンで走りまわってたくせに」
「……」
八歳年上の結莉は、赤ん坊のころからの拓海を知っている。
拓海に取ってはそれが、恥ずかしく辛い過去だ。
「早く仕度しなさ~い、ママちゃん、朝食の用意してくれてるから」
拓海は、ベットから離れようとした結莉の腕を掴んだ。
「ねぇ、結莉って…、……」
「なによ…」
「結莉って…」
「なに?」
「結莉……って…」
「だから、なによ。私がどうしたって?」
「んーーーー、えーっと…女王様…なの?」
口ごもっていた拓海は思いきって訊いた。
「……へ?」
結莉の顔が、「?」になった。
「修平が言ってたよ。結莉はベッドに入ると女王様になるって…」
「ぁぁぁああああ゛??」
拓海は、修平から聞いたことを結莉に話した。
結莉は修平との夜の営みで、S気を発し、いつもいじめられて辛いと…
修平が仕事で疲れて帰ってきても、ベッドに引きずりこまれて、これまた辛いと、みんなと一緒に飲みに行ったときにみんなに相談したらしい。
「だから毎晩毎晩、辛くてしょうがないって、言ってた…修平」
「……」
結莉の顔は、どんどんと怪訝になり、開いた口が全く塞がらなくなっていく。
「だから…仕事があった日くらいはさぁ、…ゆっくりさせてあげると…か…」
拓海は修平を同情するような顔で言った。
「はぁぁぁぁぁぁ?? それ、修平くんが言ったの? 私が女王様とか、毎晩毎晩て!」
結莉は、ものすごーーーーく冷たい目をして拓海を見た。
「…なんで、オレを睨むんだよ。修平が言ってたんだぜ? 睡眠がほしいとか、体力がなくなって歌入れで声がでなくて困るとか。半分泣いてたよ」
結莉は、拓海の話に眩暈がした。
―――修平…、家に帰ったら覚えておきなさいよ!毎日毎日襲ってきてるのは、どっちなのよ!!
「とりあえず、着替えて早く下に降りといで!」
結莉はバタンっと、思い切りドアを閉めて部屋を出て行った。
「うわ~、オレなんかヤバいこと言っちゃったのかな…後で修平に電話しとこ」
拓海は自分で言っておきながら心配になった。
「…ふざけんなよ…修平くん…」
結莉の怒りは頂点に達している。