(42)結莉がくれた愛曲
十二月二十五日、生放送は、夜七時からだ。
香港は時差が一時間あるので、香港にいる俺たちは、六時にスタートとなる。
朝、八時に目覚ましがなった。
目を少し開けて、隣を見たが、結莉はいない。
ちゃんと目を開けて、枕元を見たら靴下が置いてある。
それは、細身のハイソックスだったが、平べったい丸いものが入っていたため、蛇が何かを丸呑みにしたみたいな形になっている。
結莉からのプレゼントだった。
俺は、靴下からその丸い物を出そうとしたが、無理矢理押し込めたのか、中々出てこなかった。
中に入っていたものは、ケースにも入っていない「素のままのCD」と「素のままのMP3・KOIPOD」
これを靴下に一生懸命押し込んでいる結莉を想像して、笑ってしまった。
CDには「君をめぐる月の中で」と、手書きで書かれていた。
KOIPODをオンにし、プレイリストを見てみると、一曲だけ入っていた。
それはCDと同じタイトル。
「君をめぐる月の中で」 森原結莉
YUHRIでもKeiでもなく、森原結莉と表示されている。
その曲は、ピアノ三重奏でアレンジ・ミキシングされた綺麗な曲だった。
俺は、ベッドの中で、香港の暖かな冬の日差しを浴びながら、聴き続けた。
「ちょっと!! いつまで寝てんの!」
―――うわっ! びっくりしたー
人がまったりと幸せ気分でいるところに、結莉がベッドルームに入って来た。
「あと、十分くらいで、みんなくるわよ!」
時計を見ると、九時。
俺は一時間もリピートして聴いていたのか。
「これ…」
スケさんかカクさんか、どっちかわからないけど、印籠を出すように結莉にKOIPODを見せた。
「クリスマスプレゼントよ。修平くんのためだけに作った」
―――お、俺のためだけぇぇぇぇぇ!?
うれしすぎる!
な、涙が…うっ…落ちた。
俺は、ベッドから出て、結莉に抱きついた。
「あ、ありがとう。最高のクリスマスプレゼント」
「うん。あとで印税振り込んでおいてね」
「印税…俺でいい? 俺あげる」
俺は、結莉を強く抱きしめたまま、言った。
「…いらないから、著作権あんたにあげるから…。早くシャワー浴びて着替えなよ。みんな来ちゃうってば」
結莉は、俺から離れようとしたが、
「もうちょっと、このままで…」と、俺は結莉を抱きしめたまま、離さなかった。
今、結莉を押し倒したいとか、ヤリたいとか、そういうので無くて、ただこのまま静かに抱きしめていたかった。
このままずっと、心地よい朝の陽射しの中でまったりと、結莉を包んでいたい…。
まったりと…結莉とぉ~~~…
「…ちょっとーー!」
結莉の呆れた声で、まったりな時間を、ブチ切られた。
「なに?」
「修平くん、最低。みんなが来るっていう時間なのに…節操がなさすぎ!」
そう言い結莉は、俺から離れ、俺の下半身を見て、怪訝な顔で部屋を出た。
「へっ?」
自分で自分の下の方を見て、みた。
…心と体は別物だ。朝!! なので…! というか、いつも…
俺が着替えてリビングに出て行くと、番組スタッフの人達は、すでに準備にとりかかっている。
出演者は、午後からこのマンションに来る。
リビングに出ては来たものの、俺は邪魔のようだ。
「ハウス!」 と、結莉に言われ、中二階のキッチンから、のん気にコーヒーなどを飲みながら、みんなの仕事ぶりを監視していた。
―――よしよし、スタッフのみなさん、良い働きぶりで!
午後になり、徐々に人が増えて来た。
スタッフや出演者だけでなく、香港JICの関係者や香港テレビ局の人や、なんだかわからない人だらけになったが、広い家なので余裕だ。
この家の持主も家族で見に来ていた。
…もちろんアンディとやらも、来なくていいのに来ている。
夕方には、語学学校の友達、結莉の友達も見学に来る。
どんだけ人が集まるんだ…
結莉と吉岡さんは接客に忙しく、俺やメンバーが、チビスケの面倒を見ていた。
「修ちゃん、結莉ちゃんの彼氏にしてもらったの?」
チビスケに訊かれた。
「そうだよ、いいだろぉぉぉぉ」
俺は、保育園児相手に自慢した。
「んーまあね。でも彼氏でしょ?結莉ちゃんは、ボクのお嫁さんだから、彼氏くらいいいよ、別に」
―――く、くそなまいきなガキだ!!
「でも俺、結莉とチュウしてるもんね~」
俺は負けずに自慢した。
「ボクもしてるもん…」
た、対抗意識丸出しだ!
「俺なんてねー、結莉とエッ、」
エッチしてるもんと言おうとしたら、
「なに子供相手に言う気だよ! アホ! ボケ!」と、タカに頭を叩かれた。
「んっとに、修平の方がガキだよな」利央にも殴られた。
「いってーなぁ。暴力リフィール!恋のライバルは大人もガキも、かんけーねーんだよ!」
俺はライバル・チビスケを膝の上にのせ、今朝結莉からもらったクリスマスプレゼントを聴かせた。
「きれいな曲ぅ~」チビスケが言った。
「だろ? だろ?」チビスケを撫で撫でした。
―――チビのくせに、いい耳してやがるぜ!!
「愛の曲みたいだね! 修ちゃん!」
ええーーーーー! チビスケ、保育園児! 恐るべし!