(41)赤い薔薇は結莉
今日の夜は、香港の夜景をバックにしたライブ撮りだ。
特設ステージは、朝から組み立ての準備に入っている。
その間、リフィールは音あわせのため、スタジオにいた。
当日の生放送は、俺らの愛の巣であるマンションで行われるため、それ用の機材などが、持ち込まれ、結莉はマンションの方で、小沢さんたちと準備にかかっていた。
午後になり、昼メシを食べたあと、少しだけ時間をもらった俺は、花屋に行った。
今日はクリスマス・イブだから、特別にプレゼントを買おうと思った。
結莉は高価な贈り物は欲しがらないし、受け取らない。
花ならいいかなぁ、と思った。
花屋の前に行くと、クリスマス用なのか、いろいろなブーケが並べられている。
その中に一つ変わったものがあった。
薄紫と青の薔薇の中に、一本だけ赤い薔薇が、アレンジされているものだった。
俺がそれを手に取ると、お店のおばさんが出てきて、説明をしてくれた。
言葉があまりわからないと言うと、英語に切り替えて、話始めた。
「これはね、意味があるのよ。真ん中の赤い薔薇は愛する人。周りの薔薇は送る人、つまり自分ね。
たった一人の大切なあなたを、私はあなただけを、見つめています。私の沢山の愛は、あなただけのものですよって。このブーケを贈った日の一年後、同じ日に、また同じブーケを贈るの。
次の年もまた次の年も、ずっと一生涯つづいていくの。一人だけの人を見つめていられるってステキでしょ? でもまぁ、花屋の商法戦略っぽいけどね、ふふふ」
おばさんは、そう言って、笑った。
俺にとって、この赤い薔薇は結莉だ。
一生変わることはない。
俺は、そのブーケを買い、スタジオに戻った。
「夜まで大切に保管しておいてよ!」と、勘ちゃんに花束を託した。
夜のライブ収録を終え、先に家にいた結莉に、「じゃじゃん~! メリークリスマス!」
と、薔薇の花束を差し出した。
「あっ…」
一瞬、結莉の動きが止まった。
このとき、俺は知らなかった。
結莉はすでに、花束の意味を知っているということを。
「き、きれいだね…ありがとう」
「ねぇねぇ、このブーケの意味知ってる?」
俺は、自慢げに訊いた。
「んー、知らない」
「じゃ、知らなくていいよ」
俺は、秘密にしようと決めた。
「なによ、教えなさいよ」
「いいって! 知らなくて! また来年もプレゼントするよ。再来年も、その次の年も。俺が死ぬまでずっと、毎年、結莉だけにプレゼントするよ」
「うん! ありがとう、修平くん」
結莉は、うれしそうな顔でブーケを見てから、俺に微笑んだ。
俺は、お気楽な人間だ…
意味を知っている結莉を目の前に…うっ…恥ずかしい。
「あっ、私、プレゼント用意してない」
いいよ、いいよ…、イベント行事に興味がないのは、知っているから…
「現金でいい?」
「ええーー?」
俺は、マダムに囲われているツバメか…
「あはははは! うそうそ。早くお風呂入ってくれば。明日は朝から人が押し寄せるから大変だよ?」
結莉はそう言ったあと、薔薇の花をもってキッチンに行った。
もしかして、刻んで食べる気…か?
俺が風呂から出てベッドルームに行くと、サイドテーブルの上に花束が花瓶に入って置かれていた。
少しホッとした。食べられていない…
二人きりで過ごす初めてのイブなので、ファイト一発!と思っていたら、結莉は俺の心をお見通しである。
ひさびさに枕の垣根が作られていた。
明日の朝は早いので今日はダメということらしい…
素直に寝た。