(40)好転反応作戦
ロケは順調に進み、予定通りに終了した。
この日の夜も、俺はメンバーと少し飲んでから、家に帰った。
結局、マンションに着いたのは、一時を過ぎていたが、結莉は起きている。
…珍しい…
「あれ? 起きててくれたの?」
俺の問いに、あんた何言ってるの? みたいな顔をして結莉が、俺を見た。
「何? なに? 結莉ちゃん~」
俺は甘えた声で言ったが、
「反省会…」
「エッ!?」
「反省会をします」
結莉の声は低く、顔はニコリともしていない。
忘れていたが、昼間の件だろうか…本当に反省会するの…!?
反省会の前に、シャワーを浴びたいと訴え、その訴えは、許可された。
「じゃ、一緒に入ろう!」というのは、即答で却下。
俺は、シャワーを浴びながら、ちょっとビビっていた。
昼間の結莉は、マジ怒りモード満載だったからだ。
シャワーを出て、タオルを首にかけ、ベッドルームに行ったが結莉はいなく、リビングに座っている…
すんげーーー恐いんですけど。
俺は、結莉の横に座ってハグろうとしたが、急に立ち上がり、反対側のソファに座ってしまった。
「なんだよ…」
「本当に反省してください。ファンの人達もいるし、事情を知らないスタッフもいるんです。自由に自然にしていたいと思うのは勝手ですが、周りに迷惑をかけないように気をつけてください。修平くんを中心に回っているわけじゃないんです、この世の中! わかってますか?」
「……」
俺は、結莉の話し方のトーンが、いつもと違うので、うろたえた。
喉がカラカラになっていく。
本当に、本当に怒っているようで、また俺からいなくなるのでは、という恐さが急に出てきた。
トラウマになっているのかもしれない。
「返事は…?」
「エッ」
「おへんじ…」
「あっ、は、はい。わかりました。気をつけます…」
俯いたままそう答えるのが、精一杯だ。
「勘太郎さんもメンバーもみんな修平くんのことちゃんと見ててくれているの。事務所の社長さんも。みんなから愛されているのよ、修平くんは! 少しは、みんなのために考えて行動してください。お願いします」
「おへんじ」
「はい…」
俺の声は、非常に小さくなっていく。
結莉の目も見れなくなって俯く。
「では、私は少しスタジオに入ります。明日は十一時に集合なので、九時には起こしますのでちゃんと睡眠、とってください」
結莉は、子供に一つ一つ教えるように言うと、立ち上がった。
「えっ? 一緒に寝ないの?」
俺の問いに、チラッと俺を見たが、何も言わず、そのままスタジオに行ってしまった。
この時、半泣きの俺とは裏腹に、結莉は、「ベー」っと舌を出しながら、スタジオに入っていったことなど、俺は死ぬ最後まで、いや死んだ後も、知らなかった。
いつもと違う声のトーンと喋りは、後に、仕事用に使っているKeiとしてのモノだと知る事になる。
俺は、うなだれつつ、一人ベッドに入った。
ものすごく反省はしていたが、お酒を飲んでいたことと、一日中ロケで街中にいた疲れで、目を瞑って結莉を思い浮かべていたら、すぐに爆睡した。
朝、八時三十分にカーテンが開き、日差しで目が覚めた。
「あっ、眩しかった? ごめん、ごめん」
いつもの結莉が、そこにいた。
すでにだいぶ前から起きていたようで、寝起きの姿ではない。
いったい、いつ寝て、いつ起きたのだろう。
「ん~、おは…よう…」
俺は、ベッドに入ったまま、言った。
気持ちは、まだ夕べのことで落ち込んでいる。
結莉が、寝ている俺のところにきて、顔の横に両手を置き、俺を上から見た。
なにも言わずに、俺にキスをして言った。
「おはよう。昨日のことは反省したかな? 修平くんは」
うんうんと、うなずくと「はい、よろしい!」そう言い、また俺にキスをしてくれた。
俺は、朝! ということもあり、とりあえず、朝!! ということで、なんとなくというより、完璧に下半身だけは、元気だ。
結莉が、じっと俺を上から見ている。
―――あっ、ダメだ! 俺…
ちゃんと昨日の事は反省していたが「ヤル!」と、一言いい、結莉をベッドに引き込んだ。
結莉は、なぜか抵抗せず、無事に「事」を行った。
朝からヤるのは久しぶりだ。
ファイト一発を終えた俺は、すっきりさわやか軽やかに、着替えの仕度を始めた。
これは…結莉の作戦勝ちである…
反省をさせ落ち込ませ、そしてその後、楽しい餌を与え、仕事に影響ないようにする。
俺は、この先の人生全部を、結莉の手のひらの上で、転がされていった。
名づけて「単純修平好転反応作戦」というらしい。
……そうだ、俺は単純だ…
いいのだ! 男は単純が一番だ!!