(4)会いたい気持ち爆発
俺は、夜中に部屋に戻ってからソファに座ったまま、夜を明かしてしまった。
「会いたいなぁ……はぁ…」
結莉にもう一度会いたいと、そればかりを思っていた。
四時から始まる歌番組『歌のリラックス』の収録のため、局に向かう迎えの車にボーっとしたまま乗り込んだ。
「どうしたんッスかぁ、溜息多いッスよ~」
「あっ、こいつ恋煩いだから、ほっといてやって!」
移動車の中で、俺のハキのなさに運転手の槙くんがツッコミを入れ、利央が答えた。
「ええー、誰に?」裕がビックリしたように、俺の顔を見た。
「こ、恋煩いじゃねぇーよ」俺は、あせって否定した。
「修平さんが好きになる人ってどんな人なんッスか! 僕興味深深ッス!!」
槙ちゃんは、ニタリとした顔で、俺をバックミラーからみた。
「うっせ! そんなことよりちゃんと前をみて運転しろーーー」
俺の顔は、たぶん赤くなっているはず…
恋…か…マジか?…俺…
俺が、相手にしてきた女はみんなモデル並みの女で、綺麗かかわいいか、どちらかしかない。
結莉はとびきりかわいいとはいえないけど、普通よりは上だ。が、俺のタイプではない。
なのに、なんでなんだ…会いたくてたまらない。
「おい、誰にだよ。誰に恋したんだよ~教えろよ」ニヤけた顔の裕が、しつこく訊いてくる。
「あのなー」利央が言いかけた。
「うわっ! やめろ! 恋じゃねーってば!」俺は、利央の口を押さえて、阻止した。
「なんだよ! 二人してずるいよ。教えろー、仲間だろ」裕が、すね始める。
「森原結莉ちゃん~です! 修平が好きになっちゃったのは森原ちゃんでーす」
俺の手を振り払い、利央が言ってしまった…。
「森原って…昨日の!?」裕が驚いた声を出した。
「そうそう昨日、ナベさんが、クラブに連れて来てた子」
「へぇー、まじかよ、修平~ふ~ん、お前にしては普通の子じゃん?」
「だろーだろー。だから余計マジ恋って、感じなんだよな、こいつ」
「なんでまた」
「オレも良く分からないんだか、昨日の帰りのタクシーの中からこういう状態なんだよ。ボーっとしてて…」
「もしかして、夕べから寝てないとか…?」
「たぶんこの顔じゃ、そうかもしれないな。あははは!!」
利央と裕は、二人でべらべらと話していたが、俺は一人、窓の外を見ていた。
テレビ局に着いて控え室に入ると、マネージャーの勘ちゃんとタカが、すでに来ていた。
「修平~お前、昨日は珍しくボクのいい付けを守って、ちゃんと一人で家に帰ったそうじゃないか! ボクはうれしいぞ!」
いつもマネージャーの勘ちゃんの言うことも聞かず、遊びほうけている俺が、まじめに家に帰ったということが、勘ちゃんには、とても喜ばしいことだったらしい。
「それがさぁ~修平のやつ、煩っちゃったらしいぜ」裕が、勘ちゃんに言った。
「何を!?」
「恋だよ! 森原結莉ちゃんって言う子でさぁ、ちょっと綺麗系?」
みんなには、結莉が綺麗系に映ったらしい、俺には、かわいい系に見えた。
人の目というのは分からないものだ。…そんなことは、どうでもいい。
「森原結莉って、昨日の?」
タカが、読んでいた雑誌から目を離して訊いてきた。
「げげげー、また新しい女かよ!!」勘ちゃんが、悲しい目で俺を見る。
「ちげーよ。そんなんじゃないょぅ…」
そんなんじゃなくないんだろうなぁ、俺。
否定の言葉に力が入ってないよ…俺。
「森原? 結莉…? ん、なんか聞いたことがあるなぁ」
勘ちゃんは、顎を触りながら考えていた。
「ナベさんが途中から連れて来たんだ、その子。でも修平の好みでもないような、普通より少し上くらいのきれい系タイプの子だったけど」利央が言うと
「ん~~思い出せない。聞いたことあんだけどなぁ」
勘ちゃんは、森原結莉という名を思い出せないでいた。
「はぁ~…」
「…はぁ~」
「……はぁ~」
俺は、控え室に入ってから、ずっと溜息ばかりついていた。
どこをどう押しても切ないため息しか出て来ない。
みんなは、そんな俺を、マジに心配し始めていた。
「本気かよ…こいつ」
「ちょっとヤバクない?」
「おい、修平! 気を確かに!!」
「今度ナベさんに聞いといてやるから、とっとと仕度しろ!」
勘ちゃんの一言に、俺の顔は、色を取り戻した。
「ほんと!? いつ!? いつ聞いてくれるの!? いついついつ?」
俺は、勘ちゃんに詰め寄った。
「…お、おい、しょーがねーな。本番が終わるまでに連絡してみるから、早くメイク室に行け」
「よっしゃーーー!」
みんなが呆れる中、俺はいそいそと着替え、ルンルンル~ンとスキップしながらメイク室に行った。
「おはようございます。今日は、よろしく願いします」
メイク室には、「15’s」と言う、先日デビューしたばかりの十五歳の三人組のユニットがいた。
「おはようございます」と丁寧に挨拶をされたが、俺たちもまだまだ新人、年下と言えども腰を低く挨拶をしたあと、彼女達と入れ替えにメイクに入った。
「かわえ~な~15’s。十五歳だぜ?」
タカがデレデレと言う。
確かにかわいいが、今の俺の頭の中は、結莉のことで埋まっている。