(38)みんな香港に集合
『歌のリラックス』の特番は、生放送とVTRを織り交ぜて、放送されることになった。
歌は、尖沙咀と言う場所にあるプロムナードで、香港サイドの夜景をバックにセットが設置され、ライブ形式で収録し、観光地、グルメなどは、ゆず・ポンさん、リフィールで案内することになった。
当日は、マンションのリビングに機材を持ち込み、トーク部分だけを生放送にする。
海外からの生放送なので、いろいろ大変そうだった。
番組スタッフは、収録数日前から香港に入り、出演者は、本番三日前に香港入りをした。
そして、香港を回り観光のロケを行い、放送前日の夜、ライブの収録をしたあと、すぐに編集作業に入る。
全員が揃った放送三日前、空港にはコーディネイト会社の人たちが出迎えにいき、ホテルの広間での打ち合わせは、午後四時から始まった。
俺はメンバーとミーティングルームに行き、結莉は香港側のテレビ局の人達と来た。
結莉は広間に入ってくるなり、
「ゆずぅー! ポーーン! おまえら!! めんどくさいことさせて!」と、いきなり、ゆずさんとポンさんのところに行き、首を絞めた。
芸能界でも力のある、ゆず・ポンさんに対しての結莉の態度に、番組のスタッフは驚いていたが、小沢さんだけは笑っていた。
「もぉ、誰よ、こんなこと考えたの!」
「修平が、香港楽しいっていうもんだから」
「結莉とラブラブらしいから、冷やかしに来たんだよ!」
「あのさ、それ公にしてないから、大きい声で言わないでくれる?」
結莉がゆず・ポンさんに言った。
「いいんじゃない、別に。公表しちゃおうよ、なぁ修平」とポンさんに言われた俺は「そうだよ、そうだよ!」と、同意したら、勘ちゃんと結莉に頭を叩かれ、蹴りを入れられた。
「Yuhri?」
香港人男性が、英語なまりの発音で結莉を呼んだ。
「あっ、アンディ~、こっち」
結莉は手招きして、アンディを呼んだ。
―――ア、アンディって、あの電話のアンディなのか!!
俺は、すぐさま振り向いて、そいつを見た。
カッコイイ男だった、それが一番気に食わない。
あの日、俺と結莉が初めて結ばれた時のきっかけになったヤツだ。
ありがたい人だと思えば、ありがたい人だが、要注意人物だ。
アンディが、俺らのところに来ると、
…ガーーーーン、結莉とハグっている……
どういうことだ。
あいさつのハグりなのだろうが、俺は結莉のジーンズのベルト通しに指をかけ、引っ張って引き離した。
「んなっ、なにすんのよ!!」
みんなに笑われたが、他の男とハグるのは許さん!
結莉より二つ年上のアンディが、みんなに紹介された。
香港のテレビ局のディレクターらしい。
今回は、香港側スタッフに関わっていないが、見学に来たと言った。
本番放送当日も、俺と結莉の愛の巣に来るらしい…来なくていい…。
俺は、アンディから目を離さなかった。なぜかアイツは常に結莉の近くにいる。
気になってしかたがない。
打ち合わせもあまり耳に入っていなかったが、段取りはメンバーが把握してくれているのでよし! とした。
いつものことだから、メンバーはきっと呆れるだけで怒りはしないはずである。
打ち合わせ後の食事のあと、結莉に、香港のテレビ局の人たちと少し飲んで帰ると、言われた。
「俺も行く!」と、言ったが、その言葉は却下され、結莉たちは、とっとと車に乗り込んで行ってしまった。
アンディも一緒にいくらしい…ヤバイ…非常にヤバイ。
ショックのあまりメンバーの部屋に行き、「酒はダメだ」と勘ちゃんに言われた俺は、ジュースと水で、みんなにくだを巻いた。
ソファには座らず、四人で絨毯の上にベッドカバーを広げ、座って飲んだ。
「うっ、なんだよ…。あのアンディってやつはよぉぉ」
俺は、水を飲みながら、床の絨毯をムシった。
「愛人じゃね?」
裕の言葉に、俺は裕の首を絞めた。
「うわっ、やめろよ! うそだってばっ! こいつ本気で首絞めやがった!」
「よく水で酔えるよなぁ。修平…」
「うっ…」
「泣いてるし…」
そして、俺は、絨毯をムシり続ける。
「だから、やめろって! 絨毯ムシるの…」
利央に、手を叩かれる。
「おまえ、結莉さんのことで、どのくらいの量の涙流してんの? 今まで」
「ホント、結莉さんのことになると暴走だよな。行動も妄想も突っ走っちゃうよな?」
「世話がやけるヤツだぜ」
ガハハと笑いながら、みんなは言いたいことを、言っていた。
「でもさぁ、仲良くやってんだから、いいじゃん?」
「まぁ、ラブってんのは、修平だけみたいなところもあるけどな…」
タカと利央に言われた。
―――そうなんだよ…いつも結莉のケツにくっ付いて歩いてるのは、俺なんだよ…
「で、プロポーズとかしたの?」
「へぇ…まぁ…」
―――ほぼ毎日。
「でも、いいお返事を頂いてないんですね、その顔は」
「へぇ、まぁ…」
―――毎回毎回。
「結莉さんさぁ、リフィールの事とか、おまえの事とか考えてるからじゃないの?」
「オレらはさぁ、おまえの見方だよ。たとえリフィールの人気がなくなろうとも、修平が結莉さんと一緒になるんだったら、応援するしさ」
「うん。社長も言ってたぜ。修平を止めるのは、富士山爆発を止めるより難しいから好きにやらせるって。俺らにも覚悟しとけって。結莉さんのことがバレて、リフィールの人気が落ちたら解散して事務所で働けって」
「リフィール解散して、4人で事務所切り盛りしろって! あはははっ」
「それもいいよな! ボクたち死ぬまで、一緒に事務所経営―――!」
「あっ、オレ掃除係!」
「じゃ、おれ、お茶くみ係でいいや」
みんなは、笑いながら、言ってくれた。
「み、みんなぁぁぁぁぁ」
俺は、ひとりひとりに、ハグっていった。
「俺は、リフィールでよかったよ! みんなに出会えてよかったよ!!」
メンバーはよしよし!と、俺の頭を順番に撫でていってくれた。
十二時過ぎにメンバーの部屋を出て、マンションに帰るタクシーの中で携帯が鳴った。
「どこにいるの?」
結莉が心配して電話をかけてきた。
「いま帰り道。結莉は? まだあのアンディと一緒なの?」
不機嫌な声で訊いた。
「なに? あのアンディって…もう家に帰ってるわよ、私」
「えっ、そうなの? 今、走って帰るから!!」俺は、ご機嫌な声に変化した。
「え? 走ってんの?」
「タクシーに乗りながら、気持ちは走ってる」
プチッ。
プーーーーー。
結莉の電話は、切れた…
マンションに着くと、結莉はすでに寝ていて、俺の帰りは、待っていてはくれなかった。
一人寂しく湯船に浸かり、チャプチャプと、結莉が、どこかで買ってきたアヒルちゃんと戯れた。
ベッドに入り、結莉に引っ付いた。
結莉の香りだ…落ち着く…
「結莉…結婚…したい」
結莉の返事は、寝息だ。
耳元でずっと「結婚結婚結婚」と言った。
結婚だけが、すべてでないことは、十分わかっている。
でも、俺は外でも、どこでも、結莉と普通に手をつないで、歩いていたい。
秘密とか、隠れてこそこそするのは、嫌だ。
結莉と付き合っていること、愛していること。
マスコミに電撃発言をしてもかまわない。
だけど、結莉は、Keiということもある。
こればかりは、俺一人で、暴走するわけにはいかない。