(36)スキンの事実
俺の香港生活は、日本のマスコミにもバレ、香港のマスコミにもばれた。
カメラマンにも追いかけられていたけど、俺は、別にどうでもよかった。
香港の週刊誌にも、たびたび記事が載り、平日はボーイズとつるんでいたため、勤くんと弘一くんも一緒に写っていることが多かった。
「この間、両親に雑誌送ったんッスよ! 修ちゃんと一緒に載ったやつ、そしたら、えらい喜んでくれたんッスよ~、修ちゃんのおかげッス!!」
勤くんのうれしそうな顔を見れてよかった。うんうん。
二ヶ月を過ぎると、俺は、香港の生活に完璧に慣れていた。
順応性100%。
その頃から勘ちゃんが言っていたように、たまに日本に帰り、少しずつ仕事をするようになった。
本当は結莉と一緒にいたいが、俺のわがままで事務所にも迷惑をかけているので、多少の言うことは聞いてあげようと思い、香港と日本の行き来がめんどくさかったが、頑張った。
結莉も同様に、どうしても必要なときは、アメリカや日本に行き仕事をしていた。
自粛期間が終わり、初めての仕事は、小沢さんの番組『歌のリラックス』だった。
小沢さんに挨拶をしに行き、香港生活の報告をし、結莉とのことも話した。
「そっかぁ、よかった! よかった!」
小沢さんは、喜んでくれていた。
「で、一つ聞きたいんですが…」
俺は真剣な顔で、小沢さんに耳打ちをした。
「なんだい?」
「結莉と……寝たことありますか…小沢さん」
「えっ!? ぶっはははっ、ねーよー! おれ、昔から恋人いるし」
小沢さんに…恋人?
「ええー、初耳ですよ。小沢さんに彼女がいるなんて」俺は、驚いて言った。
「んー、彼女…というより、彼氏か…」
「……へっ?」
少し、考えた。
男なのに、彼氏…が、いる?
「ええーーーー!」
俺は、小沢さんから後ずさりをし、少し離れた。
「あっはははは。大丈夫だよ、修平君は、俺のタイプじゃないから」
お、おざわさん……そ、そうだったんですね…
「修平君も知っている人だよ、俺の恋人」
小沢さんのカミングアウトに驚きつつ、俺は椅子に座りなおして訊いた。
「だ、誰ですか? あー! もしかしてナベさん!?」
俺の言葉に小沢さんは、首をうなだれて苦い顔で言った。
「やめろ。俺は、あんな親父くさいヤツは、相手にしない」
「じゃー、わかりません。誰ですか?」
「戸田だ。イタリアンレストランの戸田」
ま、まじーー!
「戸田さん? あのボディビルをやっている? マッッチョ好きなんですか!」
俺の驚きに小沢さんは、笑い転げた。
「そんなことより、なんで結莉と俺が寝たかなんて、聞くわけ?」
小沢さんが話を戻してくれた。
「実はですね…」
俺は、結莉の男関係の話をした。
引き出しにあったスキンの山の話だ。
まぁ、あの後、俺が結莉との情事でだいぶ使ったが…俺が無理矢理ヤッてんだけど。
「で、相手が誰だったか知りたいんだ、修平君は!」
「そーなんですよね…あんなにあったから日本でも…なんて」
「でも、もう結莉は、修平君だけのモノなんでしょ?」
「そーなんですけどね…俺、香港にいるときは、ほとんど結莉にくっ付いてますから」
「ははは、おまえは金魚の糞か…」小沢さんの呆れた声で笑った。
「でもこうやって日本で仕事入れると、結莉と離れちゃってるし、心配で…」
「笑えるよなぁ、修平君。心配いらないよ、あいつそんなに淫乱じゃないよ。そのスキンは、俺とナベにも貰ってくれって、香港からわざわざ持って来てたよ」
小沢さんの話によると、香港で友人の大きな誕生日パーティがあり、ビンゴゲームの賞品としてスキン五十箱が見事当たってしまい、どうすることも出来ない結莉は、小沢さんとナベさんにも配ったそうだ。
「そうなんですか!! スキンがある割には淡白なんですよね、結莉…。だから変だなぁ~なんて…」
「あっはははは!!」
小沢さんは、自分の膝を叩きながら、受けていた。
小沢さんに、「今、結莉の心は修平君だけなんだから、信じてやれ」と、言われた。
その言葉を心に深く刻み、収録に向かった。