(33)スクールで会いましょう
授業スタート当日の朝、七時に起きた。
結莉も今日から授業がスタートだが、一緒に行くわけにはいかない。なんせ、結莉には内緒だから。
俺は、結莉を見送ったあと、急いでスーツケースに隠しておいた分厚い教科書と筆記用具を鞄に入れ、八時半に家を出た。
学校には少し早めに着き、暇にまかせ、近くにある池のほとりをプラプラして、水澄ましを見ていた。 授業開始五分前に教室に入り、初めての広東語のレッスンを受けた。
一時限目が終わり、生徒が教室移動する。
二時限目の先生の教室に入り座って、勤くんと話していたら、他のクラスの女子達が俺のところに挨拶をしに来た。挨拶というより…サインくれと…
「アキちゃん!?」俺が女の子たちに囲まれサインをしていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
え? 結莉だ。
ドア近くに座っていた俺は、女子たちが壁になり、結莉は、俺に気づかず、同じクラスのアキちゃんのところに真っしぐらだ。
って、なんで結莉とアキちゃんが知り合いなんだ?
聞いてないぞ!
俺は、女の子たちの隙間から、結莉を見ていた。
「結莉ちゃん、今日からよろしく!」
「こちらこそ。なんか嬉しいな! アキちゃんと同じ学校」
結莉は、ニコニコ顔でアキちゃんと話している。
俺を囲んでいた女の子たちのキャッキャッ声に、結莉がこっちを見た。
振り向いた結莉と、一瞬目が合った。
結莉はまたアキちゃんの方を向いた…が、すぐにまた振り向き目をまんまるにして、俺を見直し、近づいてきた。
「ちょっと、ごめんなさい」 女の子たちを退かし、腰に手をあて、俺に言った。
「あんた! なんでこんなとこに座ってんのよ! なんも聞いてないんですけど!?」
俺を怒鳴った。
驚くみんなの視線を浴びつつ、俺は言った。
「だって言ってないし…」
「……」 結莉の顔は、呆れてものも言えん! と言う感じだった。
そこに救いの授業開始のベルが鳴った。
「ほらほら、みなさん授業開始よ」
先生の声に結莉は肩を落とし、チラっと俺を見てから、教室を出て行った。
「も、もしかして…追いかけてきた彼女って、あの人?」
隣にいた勤くんに訊かれた。
「そうそう! 彼女~へへ」俺は正直に答えた。
「同じ学校だったんッスね! 内緒で来たんッスね!」
「そうそう」
「カッ、カッコイイッスよ! 修ちゃん!!」
勤君の目は、またまたキラキラしている。
アキちゃんを見ると、笑っていた。
二時限目が終わり、教室を移動した。
結莉を探しに廊下に出ると、一番端の教室の前で、アキちゃんと立ち話をしていた。
俺は、つつつーーーと、近づいた。
「よっ!」声をかけたが、結莉は、俺をシカトし、アキちゃんは笑っている。
「シカトすんなよ」
「…でさぁ、アキちゃん今度、翔子ちゃんとさぁ~」完璧にシカトだ。
俺は結莉の腰に手を回し、「結莉ちゃーん」と、言ってみたら、腰に回した手を掴まれ、ブンッ! と払われた。
またアキちゃんにクスクスと笑われた。
女の子たちが俺の回りに来たので「ごめん。俺、彼女に用があるから…」と、言うと、結莉は「私は用はないので、みなさん、ごゆっくり!」
と言い、アキちゃんの手を取り、スタスタを別のところに行ってしまった。
最終限目の授業が終わり、結莉が俺の教室に来た。
「アキちゃ~ん、帰ろう?」
「はいはーい」
俺を迎えに来たんだと思ったら、アキちゃんだった…ショック!
北京語クラスの弘一君も、俺と勤くんを迎えに来た。
「じゃ、みんな一緒に帰ろう!! それがいい!」 俺が提案した。
「あんたたち、ウキウキボーイズ三人組みで帰りなさい!!」
結莉は、ニコリともせず、俺に言った。
傍らでは、俺が追いかけてきた女だと、勤くんが弘一くんに結莉のことを説明した。
「結莉ちゃん、どうせ帰り道みんな一緒なんだから、ねっ!」
と、アキちゃんは俺を見ながら、結莉に言った。
結莉とアキちゃんが先を歩き、俺たちウキウキボーイズ三人組は後ろからついて行った。
「結莉ちゃんの彼氏、修平くんだったんだ!」
「か、彼氏じゃないわよ、や~ね」
「ふふふ、あの分じゃ、そうとう惚れられてるわね」
「……はぁ…。アキちゃん…」
後ろから結莉の姿を見ていたが、少し肩が下がっていた。
何か悩み事でもあんのか?
その後、何事もなく二週間が過ぎた。
俺と結莉の関係は、全然発展しないまま…。
登下校は、結莉といつも一緒だった。
広東語の授業にも、なんとかついて行けていた。