(30)記者会見
次の日、四時から会見を開いた。
取材陣は、結構な数だ。
俺は、勘ちゃんと事務所の社長と、三人でカメラの前に座った。
まず、一礼をして落ち込んでいるイメージを作った。
午前中に拓海から連絡がきて
「会見たのしみにしてるぞ!! すっげー落ち込んだ振りをしろ! 泣け!」
と、アドバイスをもらった。
俺は、拓海の言うとおり、すっげー落ち込んでいるようにして、目を潤ませてみた。
会見直前に、目を思いっきり擦っておいた。
最初に謝罪の弁を述べ、そして、レポーターからの質問に丁寧に答えていった。
―――今回芸能活動の自粛をされるそうですが、期間というのはどのくらいでしょうか。
「まだ、はっきりと、決まっておりません」
俺が言うと、両隣の勘ちゃんと社長が、ものすごく驚いた顔をして俺をみた。
打ち合わせでは、一ヶ月の自粛だ。
俺は、マイクに向かって言った。
「自粛期間は決めておりません。今回の件に関して全てが僕の責任です。音楽活動の自粛でファンの方並びに関係者、メンバーには、本当に申し訳なく思っております。事務所側とも相談した結果、自粛期間は、まだ決めておりません」
言ったあと、唇を少し噛んだ…。演出だ。
―――では、このままバンド解散…ということもあるんでしょうか?
「いえ、それは考えておりません。あくまでも自粛という形です」
―――被害者側、FUNNY FACEの拓海さんも、修平さんとはお友達でただのお酒の席でのことなので、問題視するようなことはないと、言ってらっしゃったのですが、無期限の自粛は少し厳しすぎるのでは?
レポーターが、社長に向かって質問したが、社長が声を出す前に、俺が先に答えた。
「社長を含め、事務所と相談した結果ですし、僕も人間として大人にならなければと、思っております。今回の処分は僕自身もちゃんと受けとめておりまし、周りのスタッフも、了解済みです」
俺の言葉に勘ちゃんと社長は、口を開けたまま、俺を見ていた。
俺はその後も、社長への質問もマイクを奪い取り、自分で答え、何も言わせないようにし、淡々と話「自粛」を強調した。
そして、最後にファンのみんなにお詫びのメッセージを言い、深々と頭を下げ、会見を終了した。
裏に行き、勘ちゃんと社長からは、こっぴどく怒られた。
「何、勝手に無期限自粛なんて言ったんだぁ!」
「自粛は長くても、一ヶ月って言ってあっただろ!」
「来年後半からのツアーはどうすんだ!!」
来年のツアーまでには、戻ってくるつもりだ。
どこから戻って来るかって…?
……香港に決まってる。
会見終了直後から、事務所の電話は鳴りっぱなしで、芸能ニュースやワイドショーでも、俺の処分「無期限自粛」は厳しすぎる! ありえない! 事務所側がいけない! などと、事務所サイド非難に矛先が回り、俺を擁護する人達が圧倒的だった。
メンバーには、記者会見の前の日に連絡を取り、了解を得ていた。
みんなも長期休暇に喜んでいる。
結局、俺は、事務所から怒られたが、半年の約束で香港に行くことになった。
ただ、二ヶ月過ぎたら少しずつ仕事を入れるので、そのたび日本に戻って来る事を約束した。
結莉には、まだ内緒だ。
結莉が、日本にいた間、彼女の仕事がフルに入っていたため、結莉には、少ししか会えず…
それも勘ちゃん宅でしか会えず、二人になる時間はなかった。
それでも、俺はうれしかった。
結莉の傍にいられるだけでよかった。
二週間後、結莉は香港にもどり、俺は、さっそく行動に移した。
メンバーに「ちょっくら香港にいってきまーす」と、連絡を入れ、俺は旅立った。