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(3)暴走のはじまり


**********


「やっぱモテる男は違いますね。強引に持ってかれましたよ、修平さん」

 修平と女たちを見送りながら山崎は、軽く笑いながら言った。

「あはははは、若いっていいなぁ」結莉は、おっさんのように腕を組み、天を仰ぐ。

「よっく言いますよ、結莉さんだって先日二十七歳になったばかりじゃないですか」

「もうね、気持ち的にはね、五十超えてるよ、わたしゃ…」

 結莉の言葉に、山崎は呆れた笑いを投げかけた。


***********



 俺は、女たちに部屋へ連行され、最初にいた場所に座らされていると、十分ほどしてから結莉がロンググラスをぶら下げて、戻ってきた。グラスの中は、たぶんテキーラ。

 そして、TVプロデューサーの小沢さんの隣に座ると、酔ってきているのかペチペチと小沢さんの頬を叩いたり頭をくしゃくしゃとかき混ぜていた。

 楽しそうに笑う結莉と何をされても笑っている小沢さんのことを、俺はタバコに火を付けながら見ていた。

(タバコは、止めた方がいいんじゃない? 喉やられちゃうよ)

 ふと、結莉に言われた言葉を思い出した。


 俺は、なんでタバコを吸っているんだろう…考え始めた。

 タバコが好きだから? ニコチンが必要とする体だから?

 …ちがうよなぁ、ただの格好つけみたいなもんだよなぁ、タバコなんて。

 俺は、一口だけ吸ったタバコを灰皿でもみ消した。俺って素直だ。

「何もったいない吸い方してんだよ」隣に座っていた裕に言われた。

「じゃ、おまえにやるよ」

「いらねーよ、修平のシケモクなんて」

「だよね…」

 そう言いながら、俺の目は、ずっと結莉を見ている。

 自分でも、どうしてなのか、わからない……結莉に近づきたい。

 小沢さんと仲がいいのかなぁ…。ものすごく気になって気になって、しかたがない。



 午前一時を回った頃お開きになり、「今日は女の子のお持ち帰りNG」と、メンバーに耳打ちをしていった。

 店の外に出て「お疲れ~」と、みんなバラバラとタクシーで帰っていく。

 結莉は、小沢さんとタクシーに乗って去って行った。


「やっぱあの二人付き合ってるのかね?」

「あぁ、小沢と結莉ちゃん? 付き合ってんじゃねーの?」

「いい感じだもんな~」

「オレ、結莉ちゃん好きなんだけどなぁ」

「マジ? 俺も好きだなぁ、結莉ちゃん。いい子だもんな」

「でも相手が小沢じゃ、太刀打ちできないぜ」

 音楽関係者達のそんな会話が、耳に入った。


 結莉と小沢さんが恋人同士…?

 小沢さんは三十歳の大人で、仕事もできて、そこそこいい男だ。

 俺の頭は、曇っていった。


 絡みつく女たちを振り払い、俺は、利央が乗ったタクシーに「俺んち、先に回って」といい、一緒に乗り込んだ。

「なんだよ、修平。女たちいいの? 置いてきちゃって」

「今日はNGって言われただろ、勘ちゃんに!」俺は、真面目を気取った。

「よく言うよ~、いつもは勘ちゃんのいうことなんて無視して持ち帰ってるくせしてよ」

 利央の言葉を無視し、運転手さんに行き先を告げ、少しの沈黙の後、俺はボソッと訊いた。

「利央……」

「ん?」

「結莉ってさぁ…」

「ん? あぁ、ナベさんと一緒に来た子?」

「うん…小沢さんの彼女なのかなぁ。一緒に帰って行ったけど」

「どうなんだろう。小沢さんも結構な遊び人らしいし。でも彼女、周りの女たちとは、違う扱いだったよな、みんなから。それに彼女の雰囲気も、他の女たちとは違ってた……よな?」

「……」


 返事のない俺の顔を、利央が覗きこみ、「お、おい…」俺の肩を揺らした。

「……」

「……って、おい、修平、どうした? 彼女のこと気に入っちゃったとか? …あはは、はぁ?……マジかよ…」


 俺は、結莉と小沢さんのツーショットを思い浮かべ、落ち込んでいた。

 利央の言葉は、何も耳に入っていなかった。


 自分のマンション近くでタクシーを降り、自宅のソファに腰掛けたが、「はぁーーー」という長いため息しか、出てこない。




*********



「じゃ、おつかれっち! 小沢!」

「おう、またな!」

 結莉は、タクシーを降り、青山のマンションに入って行った。

 二十五階建ての最上階が、結莉の部屋だ。


 結莉は玄関を入るとすぐに、自宅奥に作られた完全防音のスタジオに向かい、クラブのカウンターで殴り書きをした紙を取り出し、ピアノの前に座った。

「んで、ここをこうして~ルルルン~っと! で、ラリラリラ~ンっと」

 五線譜におたまじゃくしをスラスラと書き始めた。

「いやいやわたくし乗ってきちゃいましたよ~」

 一人ブツクサいいながら、ピアノを弾いては、五線譜に書き留めていく。

 結局、風呂にも入らず、気がつけば翌日、お日様はマンション真上に上がっていた。

「やっばっ! 十二時十分前じゃん! 昼じゃん! 一時によっちゃん迎えにくるんだった…お風呂入ろ…」


*********


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