(27)会いたいのに…
リフィールのツアーが終わらないうちに、結莉が突然香港に行くと言い、マンションを出て行ってから三ヵ月が経った。
結莉が海外に行くことは多くて、会えない日々が続く時もあったけど、今回は情況が違っている。
香港の連絡先を、俺には、教えてくれなかった。
勘ちゃんや吉岡さん、ナベさんたちはもちろん知っているが、誰に訊いても、結莉からの命令で教えられないと、言われた。
結莉が出て行く前、俺の部屋に来て、言われた。
「香港に行くことにした。いつ日本にもどるかわからないけど、この部屋は自由に使って構わない」と…。
なぜ急に海外にいくのか理由が分からず、俺は必死に止めたけど、俺には結莉がどこに行こうと、どんな生活をしようと、止める権利などない…。
追い打ちをかけるように、「修平くん、もう少ししたら、もっといい女が現れるよ。そのおねーちゃんと楽しくやっていきな~」
と、結莉はいつもと変わらず軽く俺に、言った。
俺…振られたんですね…
メンバーにも事務所にも勘ちゃんにも迷惑がかかるから、仕事だけは黙々とこなしているが、俺は最悪…、人生最悪の日々を送っている。
結莉が香港に行ってから、毎日がブルーで…。
願掛けのために…女断ちをしている! たまに一人ではやるが…!
そんなことはどうでもいい…。
とにかく俺はぜってー、結莉を見つける! 何年かかってもいい!
そして、結婚する!
ほとんど独りよがりな思いだが、俺には結莉しかいない。
と、いうより、みんな居場所知ってんなら教えろよ~と、訴えたい!
そんな中、業界の人に誘われて「W」に行った。
ルームに入るといつものように、おねーちゃんが沢山いたが、女に興味が全然湧かない…
出家しても問題ないくらい、性欲が湧かない…
絡みつくおねーちゃんたちがうざく、トイレに行くフリをして、部屋を出た。
「あーーー、うっぜーうっぜー」
俺が、テレテレとトイレのドアを開けようとしたら、偶然ナベさんと出くわした。
ナベさんは、おもいきり驚いてくれた。
「うわっ!! しゅ、修平くん! 来てたんだ。ビックリした!」
「おひさしぶりです!といっても先週レコーディング・スタジオで会いましたもんね。で、結莉の連絡先!! ください!! 連絡先!!」
俺は、会うたびに言っていた。根性で連絡先を掴み取るまでがんばります。
この調子で小沢さんや勘ちゃんや吉岡さんにも、絡みついている。
「…わりぃ。他に聞いてくれ! じゃ~」
ナベさんは、手を拭き拭き、すっ飛んで逃げて行った。
その後ろ姿に「後でナベさんのルームに挨拶行きますんで~」と、声をかけておいた。また後で、絡みつく予定だ。
俺はトイレで用を足したが、おねーちゃんたちがいる部屋にはあまり戻りたくなったので、そのままナベさんの部屋に行く事にした。
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ナベが自分の部屋にもどると、結莉に言った。
「おい、修平くん来てるぞ。後で挨拶に来るって言われた」
「えっ、ホント!? じゃ、お先に失礼するわ」
結莉はそう言うと、鞄にタバコや携帯を、口にはチョリスを2本放り込み、モグモグしながら「おはきに!(お先に)」といい、廊下の様子を見つつ、部屋を出た。
通路を歩いて、レストルームに続く廊下を横切った時、「??結莉!?……!?」
修平の声が結莉の耳に入った。
結莉は、出口に向い、走ったが、山崎のいるカウンターの所に来た時、おもわずカウンターに飛び乗り中に入った。
「痛っ~」お尻を打った。
びっくりして結莉を見ていた山崎に、「しーー」と、人差し指を口元に当て、山崎に目で訴えた。
数秒後、修平が、カウンターのところに来た。
「山ちゃん、ハァハァ、結莉! 結莉どこ!?」
修平の顔を見ながら山崎は、困った顔で「えーとえーと」と、戸惑っていると、カウンターの中で、結莉が縮こまりながら「しーー」と、言っている。
「あの、あっち! 出口!! 入口!! 走って行った!」
山崎は、出入り口を指差して、修平に教えた。
修平は、すぐに外に出ていった。
「ホント。勘弁してくださいよ、結莉さん…」
しゃがんでいる結莉の目線にあわせ山崎がしゃがみ、困った顔ではなく、悲しそうな顔で溜息と共に言った。
「ごめんごめん、山ちゃん」
結莉は、ぶつけたお尻を擦りながら謝った。
「僕、修平さん見てるの辛いですよ…。ここに来る時の修平さん、いつも元気なくって、悲しそうだし…なんでダメなんですか? 修平さんじゃ!」
いつもやさしく話す山崎だが、今日は語尾が強い。
「結莉さんだって好きなんでしょ? 見てればわかります! 何が問題あるんですか? 修平さんが芸能人だから?そしたら結莉さんなんてKeiなんていうすごい人物じゃないですか!どっちかというと結莉さんの方がマスコミ対応大変になるんですけどね。そんなことより、修平さんのこと好きなんですか? 嫌いなんですか?」
「えーっと…」結莉が、山崎の攻撃にたじろいでいると「山ちゃーーん…」と、修平のなさけない声がした。
山崎は、慌てて立ち上がった。
「は、はい。どうしました? あ、結莉さん、いましたか?」
山崎の問いに「見失った…俺…つらいよ…うっ…」
修平は、カウンターに顔を伏せた。
山崎は、足元にいる結莉を見下ろし、(どうするんですか)と、声に出さずに口を動かした。
結莉は、顔の前で手を合わせ(ごめんごめん)と拝んだ。
「修平さん、何か飲みますか? おごりますよ」
修平は顔を伏せたまま、「テキーラ…うっ、結莉の好きなテキーラを…ください…」
弱弱しい声で、言った。
山崎は、結莉の方をみて(テキーラ代は結莉さんからいただきますからね!)と、ジェスチャーをして、ショットグラスにテキーラを入れレモンと一緒に修平の前に出した。
「どうぞ、修平さん」
修平は、レモンには手をつけず、一気に飲み干した。
「…ありがとう…山ちゃん……ナベさんのルーム何番?」
「3ですが…」
「うん、わかった…」
そして、うなだれたままの修平は、その場を離れた。
「行っちゃいましたよ…修平さん」
立ち上がった結莉は、「うん…ありがとね、山ちゃん」
カウンターの外に出ながら、言った。
「今度は、いつ日本に戻ってくるんですか?」山崎が軽いため息と共に訊いた。
「たぶん、3月終わり。語学学校休みに入るし、仕事もまとめてその時やるから」
「わかりました。帰ってきたらまた来てくださいね」
山崎は、いつものやさしい笑顔で言った。
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俺は、ナベさんのいる部屋に向かい、ドアをノックして開けた。
みんなが俺を見た。小沢さんもいる。知らない顔もいる。
「…修平くん…」ナベさんの声に、俺は、ナベさんに抱きついて泣いた。
「ずるいですよ…みんな…俺だって、会いたいです、結莉に…」
みんなが見ていたけど、そんなことは構わなかった。
「ごめんごめん。だけど結莉のお願い事だから、俺ら聞いてやらなきゃいけないんだよ。修平くんのためでもあるんだ」
ナベさんは、俺の背中をやさしく叩きながら言った。
それからナベさんは、「修平は具合が悪くなった」と、理由を付けて、俺がいたルームから荷物を持ってきてくれ、一人で帰れると断ったけど、自宅マンションの前までタクシーで送ってくれた。
どうして結莉は、俺から逃げるんだろう…
そんなに俺は、嫌われているのだろうか…
ナベさんが言っていた、俺のためでもあると…
俺のためなんて、理由がわかんないよ…
結莉に会いたい。
仕事は一応ちゃんとこなすが、普段の俺に、メンバーたちも参っている。
俺のいないところで、いつもメンバーが話していた。
「勘ちゃんさぁ、どーにかできないの? 修平~」
「いや~、こればっかりはなぁ」
タカに言われた勘ちゃんは、頭をかいた。
「形的には、振られたんだろ? 修平…」
「そうなんだが…。なんか全然あきらめてないっていうか」
利央に言われた勘ちゃんは、また頭をかいた。
「だけど、あの落ち込み、激しいよな?」
「どうしたもんかなぁ」
裕の言葉に、勘ちゃんは両手で頭をかいた。
「住所もわかんない、誰も教えてくれない。自分でもどうしていいかわかんないんじゃないの? あいつ」
「このままだと、香港行って、隅から隅まで探すんじゃね?」
「はぁぁああ!?」勘ちゃんの声が大きく響いた。
「あいつなら、やりかねないよ、勘ちゃん。どーすんの?」
「パ、パスポート、取り上げといた方が、いいかな…」
勘ちゃんは真剣に言った。
「つーかさぁ、次のアルバムの作詞作曲……、あれ、何?」
「そーなんだよなぁ。利央、できたよ…って小さい声で持ってきて、音出してみたら、Am Emオンパレードでさ、サビがねーんだよ。全曲だよ? 全曲Am Emって! よく作れるよな?」
「ある意味、天才だよ…」
「詩なんて、自分が死んじゃう詩だぜ? 最後のフレーズなんて『先立つ不幸をお許しください…』…って、なんなんだよ、あれは!」
「オレたちの明るいロックは、どこに行ったんだ?」
「かんべんしてくれよ~」
「勘ちゃん、マネージャーなんだから、どーにかしてよ!教えてやってよ、結莉さんの居場所!」
「はぁぁぁ…」
一番頭を抱えているのは勘ちゃんである。
結莉と俺の間に挟まれ、メンバーにも「どうにかしろ」と言われ、心労が溜まっている。