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(24)結莉と拓海



************



 その日、結莉はFACEとナベ、小沢と「W」に来ていたが、タバコを吸いにVIPルームから出て、一人カウンターに座っていた。


「最近、修平さん、来てないですよ」

 山崎が、シェイカーを振りながら、言った。

「うん。ツアーがあるからね、お遊びは控えてるみたい」

 結莉は、銜えタバコで、カウンターに頬杖をつきながら、答えた。


 少し経つと、どこからかのルームから出てきた五、六人の女性がカウンターの前を通ろうとした。

 一人のモデル風の女が、結莉に気付き、強い口調で言った。

「あなた、修平にまとわりついてる女よね」 

「へぃっ?」

 いきなり言われた結莉は、その女を見た。

 山崎は、グラスを磨いていた手を、止めた。


「修平、あなたにまとわり付かれて全然私たちと遊べないのよ!」

 香水の匂いをを必要以上に撒き散らしている女は、結莉にくだをまき始めた。

「はぁ…」 

 と、結莉は、別に怒るわけでもなく無視するわけでもなく、一応その女の話を聞いた。

「若く見えるけど、ずいぶん年上らしいじゃない? あなた。ふん、おばさんのくせして若い男追っかけ回して、バッカみたい~」

 女は酔っているらしく、隣の女に支えられていた。

「はぃ…すみません」結莉は、ペコッと頭を下げた。

「もう止めなよ、圭子…」別の女がくだを巻いている女に言い、「ごめんなさい。この子、酔っちゃってて」女を支えていた女が、結莉に謝った。


 山崎が止めようと、女に声をかけようとした時、山崎の視野に男の姿が入り、その男の方を見た。


「もぉ! ムカつくのよね!」女は支えられている手を振り払い、続けた。

「修平だって迷惑してるのよ! 業界の人間だかなんだか知らないけど、それを利用して修平に手出すの止めてよね」

 まだ何かを言おうとしている女をさえぎるように、一人の男が結莉を後から抱きしめ、視線を女に向けた。

「オレの女に何か用? その修平って言う人、まったく関係ないんだけど」

 その男は言い、結莉の手を掴み、結莉が持っていたタバコを、そのまま自分の口元に持っていき、一口吸うと、煙をその女に吹きかけた。


 女たちは、FACE・拓海の出現に驚き、黙り込んだ。

 拓海のかわいい顔からは、想像できない鋭い目つきで、その女たちを睨みつけて言った。

「彼女に…結莉に何かしたら、オレが許さねぇ…」


 女たちは黙ったまま足早に店の出口に向かい、その場を離れた。



「拓海、私いつあんたの女になったの?」結莉はタバコを消した。

「今さっき~」拓海の顔は、普段と同じかわいい顔に戻っている。

「拓海くん、格好良かったよ!」山崎がVサインと共に言った。

「へへへ! ホント?」

「山ちゃん、こいつを調子にのせない! ん?」結莉は拓海の頬を、軽くつねった。


「で、拓海、何の用?」

「あぁ、ナベさんが呼んでた」

「わかった。じゃ、部屋戻ろ。山ちゃん、ごちそうさま。お騒がせしました」

 結莉はそう言い、拓海と部屋に戻って行った。



 VIPルームに戻る途中、レストルームに続く通路の角に来た時、急に拓海が結莉の腕を引き寄せ、壁に結莉を押し付けた。

「な、なに? どうした?」結莉は、拓海を見上げて言った。

 拓海は何も言わず、そのまま結莉にキスをした。

 結莉は抵抗するわけでもなく、受け入れるわけでもなく、目を伏せたまま、拓海の好きにさせた。


 唇を、そのまま結莉の首筋に持っていった拓海は「ねぇ、どうして…オレじゃダメなの?」と、結莉に訊いた。

 結莉は何も言わず、拓海の背中に腕をまわして、やさしく抱きしめた。


「オレは、ずっと結莉が好きなのに…。兄貴の代りになれるのはオレしかいないと思ってるのに…どうしてアイツなわけ?」

 拓海は、結莉を抱きしめたまま訊いた。

 結莉は、何も言わない。




************




「よっ! 山ちゃん!」

「あっ、修平さん!どうしたんですか? ツアー前なのに、いいんですか?」

 山ちゃんは、カウンター前に現れた俺に驚いていた。

「うん。さっきナベさんに仕事のことで電話したら、結莉も一緒にいるから来れば?って誘われたんだ」

「そうですか。あっ、拓海くんも…来てますが…」山ちゃんが心配して言った。

「知ってるからこそ! 来た!」俺は、意味のないガッツポーズだ。

「そ、そうですか…じゃ、が、頑張って…ごゆっくり~」

 山ちゃんの応援を背に、ナベさんたちの部屋に向かった。


 レストルームに続く通路を通り過ぎたとき、その通路で、男と女が抱き合っているのが目に入った。


 ―――ったく、こんなところで…なにイチャついて、

 ……えっ! ええええーーーーー!!


 俺は、声が出なかった。結莉と拓海。

 結莉が俺に気づいて「あっ、修平くん」と、言った声に拓海も俺の方を見た。

 拓海は、結莉を抱き寄せたまま「あっ、見られちゃった」と、薄笑いを浮かべた。

 いつもの俺だったら拓海をたぶん殴っていた。

 でも、二人の雰囲気が、俺を寄せ付けないでいる。


「なにやってんだ、修平くん。こんなとこで、ボーっと…ボーーっと」 

 トイレに行く途中の小沢さんが丁度やってきたが、小沢さんのところからは、まだ俺しか見えていなかった。

 結莉が拓海から離れ、俺の方に来た。

「なんだ、結莉、いたのか。……拓海も…か…」

 小沢さんは頭をかきながら、困っている。


「修平くん、迎えに来てくれたんだぁ。山ちゃんのところで待ってて、鞄取ってくるから」

 結莉はそう言い、拓海の背中を押しながら部屋に向かった。

「修平君、あいつらは…」

 小沢さんが言いかけた言葉も耳に入らず、俺はカウンターに向かって歩いていた。


「どうしたんですか?」 

 カウンターの中で山ちゃんが言ったが、俯いたまま何も言わない俺に、山ちゃんはそれ以上何も訊かないでいてくれた。

 少ししてから結莉が来た。

「おまたせ。帰ろっか」

 結莉は山ちゃんに挨拶をして、俺たちは「W」を後にした。




 タクシーの中でも、俺たちは何も話さなかった。

 マンションに着き、別々に部屋に入るとき、「拓海とは何の関係もないよ。あの子は弟みたいなもんだから」

 そう言うと、結莉は自分の部屋のドアをパタンと閉めた。



 弟みたいなもん…って、どうして弟みたいなのに抱き合ってキスしてんの?

 …なんで、アイツと…。

 俺は閉まった結莉の部屋のドアを、見つめていた。



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