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(23)悶悶パラダイス

 俺は、事務所の了解を得て、前のマンションの契約をとっとと解約し、結莉のマンションにとっとと引っ越してきた。

 俺の部屋は、ワンベッドルームとリビングに、バストイレが付いていた。

 が、広さは以前のマンションとほぼ同じくらい、3LDK分はゆうにある。

 この家事態どのくらいの広さなんだろう…。


 引越しの日は、結莉が海外に行っていていなかったが、吉岡さんが、引っ越し蕎麦を作ってくれてメンバーと一緒に食べた。

 吉岡さんはチビスケがまだ小さいため、結莉が海外で仕事の時は、新しいマネージャーが、付いて回っている。



 俺が結莉の家に引っ越してきて、半年がたち、結莉とゲスト用のリビングで飲んだり、テレビを見たり、二人の時間を過ごす事が、多くなった。


 俺は、いまだ結莉の部屋に入ったことがないが、結莉は、曲ができるたびに俺の部屋に「できた! 聞いて聞いて~」と、飛び込んでくる。

 結莉は、曲ができると、なりふり構わず一番近くにいる人に真っ先に聞かせる動物的習性があると、吉岡さんから聞かされていて、いままでは吉岡さんだったらしいが、俺がここに来てからは、ほとんど俺になっている。

 なので、部屋には、ちゃんとカギは付いているが、俺は、いつも開けっ放しだった。


 …ふっふっふっ…うれしすぎるぜぃ! 幸せを感じる今日この頃。


 それに…この家に住むようになって結莉と挨拶のハグの回数が断然多くなっていることが、これまた「超×一億」くらいうれしい。

 キスのあいさつは、まだしていない。

 目標はそれだ!



 結莉と出会ってから、本当に好きな人は、傍にいてくれるだけで、うれしいのだと気がついた。

 キスしたり抱き合ったりしたいけど、それ以上にいつも手の届くところにいてくれる、それだけで、すべてが心地いい。

 あっ、いつもながら悲しい男の性はあるので、今日も業界の人達と酒を飲んで、女の子と遊んでいた。

 テキーラをたくさん飲めるように練習しているのだが、今だ「ショット二杯」が限度だ。

 結莉には、追いつけないでいる。

 この日は、「二杯のテキーラ」を飲んだ後、ウイスキーに切り替え、ちゃんぽんして、多少ある意識の中、ヨレヨレフラフラのまま、マンションに帰ってきた。


 おねーちゃんも、一緒に付いてきている。

「なんだよ~、もぉ帰れよぉぉ」

 半分眠りながら俺は、ベッドの上で、女に言った。

「えぇ~いやよ~来ていいっていったじゃない!」

 記憶がない。そんなこと言ったか?

 まっ、俺のことだ、言ったに違いない。


 ベッドの上に伸びていた俺は、飲み過ぎで力が入らない…

 なんだか女が、俺の上に乗っかってきて、キスをしはじめた。


 んーー、まっいっか。最近してないし…。

 流されるよなぁ、男って…こういう状況に…

 愛する女・結莉がいるというのに。

 それも同じ家の中にいるのに。

「最低だ…俺は、最低だぁぁぁぁぁぁ」などと、この時は、考えていない。

 翌日いつも反省している。



 そして、女が俺の上に跨り、シャツに手をかけ、脱がそうとしたとき、

「じゃっじゃーーん! 聞いて聞いて! できたっっよ~~ん!」

 結莉が、勢いよくベッドルームのドアを開けて、登場した。


 ―――ええーーーーー、うそだろ!? うそだろ!?


 俺の酔いは、一気にさめた。

 すっぽりと、酒など体内から蒸発した。

 まだ服は脱いでいないが、シャツがはだけている。

 俺の乳首が見え隠れ…

 そして、女が俺の上に…乗っている。

 これからおっぱじめようとしていることは、この状態を見れば明らかだ。

 一瞬の内に、目の前が真っ白というか、真っ暗というか、何も見えなくなった。


 こ、こんな姿見られたくない―――という俺の心を無視するかのように、結莉は平然と「もぉ~、新曲!今回のもサイコーなのよ! ちょっとごめんね~彼女!」

 そう言いながら、女を俺の上から引きずり降ろし、代わりに自分が俺の上に乗った。

 この行為は、結莉的習性なのか!!

 し、しあわせすぎるぅぅぅぅ。神様ありがとう。


 結莉は、俺の上に乗ったまま、MP3-koipodに落とし、ミキシングされた音楽を聞かせるために、右のイヤホーンを俺の耳に突っ込み、左のイヤホーンを自分の耳につけた。

「ほらほら~お聴き!!」

 女王様のように言う結莉は、俺の顔を上から見下ろし、嬉しそうにしていた。

 下から見上げた結莉、スンゲーかわいい…

 耳に、ズンズンと入ってくる音楽なんて、まるで聞こえていない俺がいる。

 このまま腕を引き寄せ…ヤ、ヤッてしまいたい…

 というより、結莉が俺の上に乗っていること事態、俺にはすごい事態で…

 俺の、む、息子さんが…いっぱい、いっぱいなんですけど…

 く、くる、苦しい…苦しすぎます…、俺のこの心も、下も…結莉…



 ベッドの横で、放り出された女が立ちすくんでいるようだったが、俺の目には結莉しか映っていない。

「この小節がねっ! バババーーと出てきてさぁ」などと、説明をして数分後、曲が終わると「あぁぁ~、私って天才!!」毎回だが、自画自賛である。

「あっ、お邪魔しました~ごめんね、彼女! 続き続けて! んじゃ!」と、俺の上から降りると、女に 片手を挙げ、挨拶をし、一人、部屋を出て行った。


 ボーゼンと立ち尽くす女と、ボーゼンとベッドに寝てる俺…

「わ、わたし…帰る…ね。じゃぁ…」

 と、顔を引きつかせ、女も、部屋から出て行った。


 時間がどのくらいたったかわからないが、俺は一人、同じ体勢のままベッドの上にいた。

 我に返ったとき、結莉の行動を思い出し…

 そして、結莉の体の重さが、俺の中に残っていて…

 俺の息子さんが、再び起き上がってしまった。

 俺は悲しい……

 結莉をオカズに一人…して…しまった…

 うっ…かなしすぎる…一人でなんて。




 次の朝、キッチンで水を取り、ゲスト用のリビングで飲んでいたら結莉が入ってきた。


「昨日はごめんね~最中に~」元気に結莉は言った。

 ―――さ、最中とかいうのやめて…


「サイコーにいい曲ができたからさぁ、修平くんに一番に聞かせたかった」

 結莉ぃぃぃ。

 俺は、思わず結莉にハグりながら言った。

「結莉の所為で、結局昨日は、女とヤレなかったんですけど…」

 俺が突然抱きしめたにも関わらず、結莉は驚きもせず、まぁいつものことなんですが…

「そうなの? わりぃーね。で、一人でしたとか?」

 ―――す、するどい…

 俺は、結莉にハグったまま、うんうん、とうなずき、もっと力を入れて、抱きしめた。


「んー、で? このまま私を押し倒して、一発ヤリたいと?」

 ―――下品な言葉だが、その通りです。

 俺は、何も言わず、ただ結莉をハグっていた。

 しあわせだぁ。スリスリィィ。


 結莉は俺にハグられながら、自分の両腕だけを抜き、俺の頬に手を添えて俺に…

 俺に…軽くキスをした。


 うっ、うそぉぉぉ、キ、キ、キスしてくれたぁぁぁ!?


 俺は超舞い上がり、もっと深いキスをしようと結莉に顔を近づけたら、両頬を摘まれ、思い切り横に引っ張られた。

「調――子に乗るんじゃないの! ったく!」

 そう言って、眉間にしわを寄せた結莉は、俺の頭を叩いた。


 そして、俺の腕を解き、キッチンに向かいながら、結莉が言った。

「ねぇ、朝から……朝だから? お元気なようで修平くんの下半身~」

 ものすごく怪訝な顔の結莉の視線が、俺の下の方にある…


 えっ? ええーーーー。

 俺の息子は、えらいことになっていた…

 結莉は飲み物を取り、とっとと、リビングから出て行ってしまった。

 あ…待って、結莉ぃ…


 俺は息子さんと一緒にシャワーを浴びつつ、どうする事も出来ず、また結莉をオカズに朝から一人…して…しまった…落ち込み。



 俺は、日に日に悶々状態になっていった。

 女とヤッていても、ただ単に溜まったものを出すだけで、なにも楽しくないし、浮かぶのは結莉だけだし…

 そんな自分にだんだんメゲていき、落ち込み度1000%。



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