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(22)3年目のしあわせ

 朝、目が覚めたら、見慣れない部屋で、見慣れないベッドの上にいた。


 あー? 俺…どうしたんだっけ?

 結莉と一緒にいたんだよ…あっ、結莉は!?

 そうだ! 結莉の家に住むって決めた…で…

 酒を飲んだ次の日は、必ず、前の日のことを思い出すのに時間がかかる。

 今どこにいるのかも分からず、寝ていた部屋のドアを開け、外を覗いた。

 廊下…

 もしかして…ここは、川中勘太郎…宅…?

 俺は、リビングのドアを開けた。


「修平!! おまえはホントに!!」

 ソファに座っていた勘ちゃんは、いつもの怒鳴り声を発しながら、俺のところに飛んできた。

「あっ、やっぱ、ここ勘ちゃんち…?」

 ダイニングテーブルのところで、吉岡さんが笑いながらインゲン豆の筋をとっていた。


「ったく! 何時だと思ってるんだ!」

「今?」

「今日はオフだからいいようなものの。もう五時だぞ! 五時っ!!」

「朝の?」

「バカヤローーー。夕方だ!!」

 あぁ、だから吉岡さん、夕飯の支度のインゲン豆…ね。

「ったく、こっち来て座れ!」

 勘ちゃんは、俺の耳を引っ張り、ソファに座らせて説教を始めた。

 いつもの事だ。


 俺が酒で潰れたあと、結莉から連絡を貰い、勘ちゃんはクラブまで迎えに来てくれたらしい。

「で、結莉は? 自分の部屋?」

 説教されても反省の色を見せない俺に、勘ちゃんはいつものように呆れて、もう何も言ってくれない。 無言のままだ。

「結莉は? 勘ちゃん、結莉は?」なおも訊いたが答えてくれない。


「結莉…昨日修平くんを私たちに託して、その後どっか行ったわ。まだ帰ってきていないみたいだし~クスッ」

 何も答えてくれない勘ちゃんに代わって、俺をかわいそうに思ったのか、吉岡さんが笑いながら答えてくれたが、どっか行ったって…どこに!


「ええーー! どこ行ったんだよ!」

 で、まだ帰ってきてないんかよ。

 どこだ! どこへ行ったんだぁぁぁぁぁ。

 俺の頭は、お得意のクルクル状態に入ってしまった。


「男のところだ、きっと! おまえみたいのと一緒に飲んでいてつまらなかったんだろう。恋人のところで飲み直してそのまま、」

「うわーーマジ? マジ? マジかよーーー! 勘ちゃ~~~ん」

「な、なんだ! や、やめろ修平。落ち着け!」

 俺は、勘ちゃんの肩を思いっきり掴み、勢いよく前後に振っていた。

「あ、頭がフラフラする…」

 勘ちゃんは、軽い眩暈を起こしたようだった。

 俺の勢いに勘ちゃんの息子のチビスケが、泣き出した。

「修ちゃん、こわ~いぃぃ! うわ~ん」

「あっ、ごめんごめん」


「もぅ、その辺にしておきましょう? 勘太郎さん」

 吉岡さんがクスクスと笑いながら、ソファまで来て言った。

「結莉ならスタジオにいるわよ。なんかイメージが出来たらしくって、お昼も食べずにこもってるけど、あと一時間くらいで出てくると思うわ」

 吉岡さんの言葉に安心した。


 結莉は、曲のイメージがわくと、スタジオにこもる。

 調子が良くていろいろ曲が出てくるときは、まる一日スタジオに入ったきりになる。

 たびたび、吉岡さんはスタジオに覗きに行き、結莉の様子を見ただけで、あとどのくらいでスタジオから出てくるかがわかると言う。

 すごい! これこそマネージャー。

 勘ちゃんも少し、吉岡さんの爪の垢でも飲めばいいのに…。



「風呂でも入って来い」と勘ちゃんに言われ、シャワーを浴びに行こうと立ち上がったが、急に思い出した。


「あっ、勘ちゃん! 昨日の話!! 俺が、」

「結莉さんの家に住むことだろ?」

「そうそう。俺の心はすでに、」

「決まっている!!と、言いたいんだろ?」

「そうそう。事務所が反対しても、」

「いいってさっ」

「勘ちゃんが反対しても……えっ? 今なんと?」

「事務所はOKだ。でも、」

「ホント!? マジ? まじまじまじぃぃぃぃ??」

 俺は、また勘ちゃんの肩を掴み、振っていた。


「ボ、ボクの話を…き、聞きなさい!」

 頭を押さえた勘ちゃんは、少しヨレていた。

「はい!」俺はソファの上に正座をした。

「事務所はOKを出しました。ちゃんと家賃も払う。世間には、というか、おまえの友達な、部屋に呼んでもいいが、結莉さんと同じ家というのは公表禁止!」

「はい!!」俺は素直にうなづいた。

「これが一番重要だが、結莉さんに迷惑をかけない。おまえは突っ走りすぎる」

「はいはい!! はい!」

「……顔が近い…もっと離れろ…」

 俺は、興奮のあまり至近距離勘ちゃんの顔10cmほどで、返事をしていた。

「はい!!」


「修平くんが使う部屋は、完全に孤立してるから大丈夫よ。お友達招待しても、結莉と会う確率は低いわ」

「はいっ!!!」俺は、吉岡さんの方を向いて元気よく返事をした。

「修ちゃんのお返事元気ぃ」 

 チビスケに褒められた。


「それから、オフの日とか、お腹すいたらうちでご飯たべればいいし、いままで一人だと大変だったでしょ?結莉も毎日ここで食べてるんだから、修平くん一人増えても大丈夫よ」

 吉岡さんはやっぱりやさしい。

「え! いいのぉ?」

「来なくていい…」勘ちゃんが真顔で言う。

「え?」

「おまえは来なくていい。よっちゃん!こいつを甘やかすのは止めてくれ。本当に毎日来るぞーーこいつは!」

 勘ちゃん…俺の性格しりつくしてるよ…

 さすがマネージャーだ!


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