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(21)3年目のしあわせ

 時は少し過ぎ、俺は、二十四歳の後半になっていた。

 素晴らしいことに、リフィールはノリにのって、出すCDは必ずベスト3に入り、ミリオンセラーをとっていた。


 結莉と俺の関係で、進歩したことと言えば、二人で飲みに行くようになったことだ。

 残念なことに、男と女の関係は、まったくと言っていいほど、ない。

 だけど、俺の気持ちは揺らぐことなく…

 たまに、女とは遊ぶけど…

 それは、男の悲しい性のせいで…

 たまに、タレントとスキャンダルをおこしつつ…

 なんせ結莉が相手にしてくれないもんで…。


 と、言い訳をしながら、それでも俺は、結莉を愛している。

 会えば会うたびに恋をしていく。

 悲しい一人プラトニックラブ状態だ。


 拓海は、相変わらず邪魔な存在で、結莉との密接度がものすごく、俺の心を乱していた。



 その日、一ヶ月ぶりに結莉と二人だけで、飲みに行く約束をしていた。

 結莉には、しょっちゅう会っている。

 先週も会っているのだが、二人だけ! 二人だけで(ここ重要ポイント)飲みに行くのは一ヶ月ぶりだ。

 朝一で結莉に電話をかけ、今日のアポを取った俺は、ルンルン気分で、仕事の最中も顔がニヤけ気味で、メンバーと勘ちゃんから気味悪がられていたが、そんなことはどうでもよい。

 早く仕事が終わらないか、そればかりを考えていた。



 八時過ぎに俺は「W」に着き、予約しておいたVIPルームに入ったが結莉は、まだ来ていない。

 俺は、一人で超激辛チョリスとビールを頼んで先に飲んでいた。

 九時ごろ「おう! おまち~」と、いつものおっさんの様な挨拶で、結莉が、部屋に入ってきた。

 ウエイターが、テキーラを持って来る。

 オーダーをせずとも結莉がこの店に来ると、すぐにテキーラが運ばれてくる。

 さ、さすがだ…結莉。


 俺たちは、いつも音楽の話をしていた。

 リフィールのアルバムやシングルが出ると、必ず結莉にあげていたけど、結莉は何一つ聞いてくれていなくて「どうだった?」と聞いても、「聞いてないからわからん」という答えが返ってくる。

 空しい…空しすぎる……。

 俺は、結莉が手がけた作品は、全て聴いていると言うのに…FACE以外。

 それでもこうやって一緒にいられることが、特に二人の時は、最高に幸せだった。

 純な男だぜ…俺。



「あっ、俺、今のマンション追い出されることになった」

「なんで? いつ?」

「ファンの子たちが集まりすぎちゃって、住人の人から苦情が多くなってさっ。これから新しい所探すって、事務所の人が言ってた」

「ふ~ん、人気者は辛いね~大変だね~」

 結莉は、チョリスをほおばりながら、言った。


「ねぇ、まだ決まってないんでしょ? 住むところ」

「うん、引越し予定は再来月くらいだし」

「じゃ、うち来れば?」

「…えっ?」

 俺は、結莉の言葉に、自分の耳を疑り、訊き返した。


「ええっ!? 今なんて…」

「一部屋余ってるんよ。そこの部屋、ちゃんとバス付いてるし、完全プライベートだから、一人暮らしと変わんないと思うし、女連れ込んでも大丈夫だし。スタジオも勝手に使っていいよ。ただ、キッチンはゲスト用のリビングにしかないけど。それでもいいんな、」

「住む!! 結莉の家に住むーーーー!!」

 結莉が、言い終わらないうちに、俺は返事をした


 この時、俺の背中には、白い羽が生えて空高く昇っていった。

 結莉と一つ屋根の下! こんなうれしいことはない。

 丸三年目にして幸せ到来!

「本当にいいの!?」

「いいよ~別に。修平くんの事務所側がいいというなら」

 俺は、すぐさま勘ちゃんに、電話をした。



『な、なにーーーーーー!? ダメだーーーーー!』

 電話の向こうの勘ちゃんは、猛反対だった。

「なんでだよ! 勘ちゃんは下の階に住んでるし、仕事の時とかも便利だろ!」

 俺はなんとしてでも、結莉と一つ屋根の下を熱望だ。

 というより、俺の心はもう決まっている。


『おまえがこれ以上、結莉さんに近づくのは危険だ!ボクも迷惑だ!今以上におまえの面倒をみなきゃならんなんて…うわー考えただけで寿命が縮む!!』

 すごい言われようだった…

「俺、決めたもんね~、すぐにでも引っ越してやる!」

 そう言って俺は、勘ちゃんが電話の向こうで何か言っているのを無視して、電話を切った。


「あっ、反対された?」結莉の問いに「あっ大丈夫大丈夫~」と言っている間に、勘ちゃんからのコールが入った。

 …ちっ。

 言われる事は分かっているので、無視だ。


「出なくていいの?」結莉は言い「いい、いい。出なくていい」と言った俺の手から携帯を奪い取り、結莉が出てしまった。


「もしもーし、勘太郎さん? 結莉です~ども!」


「あぁ、大丈夫。いいよ。どうせ部屋空いてるし、私もアメリカ行くことも多いから」


 結莉は、勘ちゃんと十分以上話していた。

 途中で吉岡さんと代ったらしく「そうそう。うんうん。つーことで、よろしく」と、電話を切った。


「なんだって!?」俺は結莉を覗きこむように訊いた。

「ん? 勘太郎さんは事務所と相談するって。なんだかわからんけど、よっちゃんは喜んでた」

「事務所と相談かぁ…はぁぁぁ」俺の溜息は深い。

「でもたぶん、これからよっちゃんが勘太郎さんを説得の方向に持っていくみたいだよ」

 吉岡さんが見方についたら、百人力だ!

 勘ちゃんは吉岡さんにベタぼれといか、尻にひかれてるから、吉岡さんの言うことは、ホイホイ聞いてしまうに違いない。


 これで俺は、結莉と一緒に住めるぞ!

 そして、俺は、結莉と住むことのうれしさに調子こいて、がぶ飲みし、潰れた…。

 結莉と会って九十分ほどしか経っていないのに。



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