表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/64

(20)修平vs畳

 ……俺は、朝から非常に、ふてくされていた。


 小沢さんの番組「今夜だけBAND天国」という、人気BANDが集結する三時間の特番用の収録で、局に来ていた。

 FUNNY FACEも出演する。

 俺は、それだけで、ふてくされている。


「うわーー胸くそわりー。か・え・り・て――――」

 控え室の畳の上で、また藁をムシっていた。

「だーかーら、止めろって! ムシるの!」利央に手を叩かれた。


「おまえの気持ちもわからなくもない! だが、仕事だ。がんばってくれ!」

 勘ちゃんは、吉岡さんお手製のおにぎりを食べながら説得力のない言葉で、俺を励ましてくれる。

「結莉さんも来てるんだろ? FACEと一緒に。今日の収録見に!」

 裕の言葉に俺は、余計に機嫌が悪くなった。

「結莉さん、FACEのプロデュースだからかな~様子見らしいけど。力入れてるよな。わざわざ見に来るなんてさぁ」

 タカの言葉に、俺の怒りは、沸点に達した。いや、俺の怒りに沸点など無い。

 怒りはどんどんと上昇していくばかりだ。


「くっっそーーーーーーーーーーーーー」

 俺は居てもたってもいられず、立ち上がり、控え室を出て、走った。


「おい、おーい。修平、どこ行くんだぁー」

 勘ちゃんの声なんて、聞こえていない。

「あ~あ、行っちゃったよ…」

「どこ行く気だよ、修平」

「また局内暴走しに行っちゃったよ…」



 俺は適当に走った。とりあえず、適当に局内を走った。


「あっ、修平くん!」目の前に手を振る結莉が現れた。

 うお~~~やっぱり俺たちの糸は繋がっているんだ!

 誰も切ることの出来ない糸だぁぁぁ。


「結莉ぃ~」

 俺がいつものようにハグると、「はいはい」と、結莉はいつものように、俺の背中をパンパンと叩いた。

 なんかとても適当にハグられているような、気も、しないでもない…。


「どこ行くの? そんなに急いで」結莉に訊かれた。

「えっ? い、いや~別に…ただの運動!」と、言って、俺は、腕をグルグル回してみた。

「へぇ、鍛えてるんだ」

「そうそう、戸田さんみたいになろうかなぁ、なんて」

「まっ、無理なことは、止めといた方がいいよ」

 結莉に言われ、少しへコむ。

「もうすぐ本番じゃないの? こんなとこで、のんびりしてて、いいわけ…ないよね」

 忘れていた。本番を…

「あとでリフィールの収録も見にいくから」

「本当!? 見に来るの!?」

 俺が、もう一度ハグろうとしたら、アイツが現れた。


「結莉? なにしてんだよ」

 た、拓海だよ…

 人の幸せな一時を、コイツは、いつもいつも…邪魔だ!


「結莉、あっちでみんな待ってるよ、早く行こう」

 拓海は結莉の肩に腕を回し、俺を見た。

「じゃ、修平くん。あとでね~」

 と言う言葉を残し、結莉と拓海は、俺に背を向け、歩いていった…


 ムカ、つくーーーー!!

 俺は、また猛ダッシュで走って、控え室に戻った。


 バッーーーーンッッ!!!と、それはとてもとても大きな音をさせてドアを開けた。

 みんなが、一斉に俺を見た。

「ゼェゼェ…ゼェ…」息は切れ切れだった。 

「ど、ど、どうした、修平」

「ゼェゼェ…うっ…ぅぅ…」

 俺は、畳にうつ伏せに寝て、藁をムシり倒した。

 ムシらずにはいられない…。

「ま、また、なんかあったみたいだなぁ」

「もしかしてさっきより、ひどくなってない? なんか泣いてるし…」

「畳のムシり方が、ハンパねーし…」




 リフィールの本番収録になり、俺は気持ちを、仕事モードに、切り替えた。

 スタジオに入り、音あわせをしている時、俺から見て、左方向に結莉を発見!

 俺の視線に気がついたのか結莉が、ちょこちょこっと手を振ってくれた。

 よっしゃぁぁぁ! 張り切っちゃおぉぉぉぉ!


 歌いながらカメラ割りを無視し、チラチラ結莉に視線をおくる。

 俺は、いつも以上に格好良く歌っていた…つもりだ。

 んがっ、結莉のところに拓海が来た。

 そして、アイツは、結莉を後ろから抱きしめるような格好で、俺の方を見た。

 あきらかに俺と結莉のハグ以上の行為だ!

 俺は、そんなことは、したことはない!!

 その瞬間、事もあろうか、俺の頭の中から…歌詞がぶっ飛んだ…それも全部…


 最悪だ…歌うことにに集中していないなんて…。

 プロとして、失格だ。


 利央がストップをかけ、スタッフに謝った。

「すみません~ごめんなさい。もう一度、お願いします」

 タカと利央が、俺のところに来た。

「なにやってんだよ! 本番だろ!」

「しっかりやれよ、スタッフの人達に迷惑かけんなよ!」

「…はい…」俺は、結莉の方を見つつ、声になっていない返事をした。

 俺の視線のある方を見て、タカと利央は、溜息をついた。

 利央が、俺の肩を叩いて、もう一度深く、溜息をついた。

「…そういうことか」




「お~い、大丈夫かぁ? 修平君、調子悪いかぁ?」上から小沢さんの声がした。

「いえ、大丈夫です。すみません」タカが代りに言ってくれた。


「しっかりしろよ、拓海ごときに調子崩すな」

 利央の言うとおりだ。

 俺…なにやってんだろ。みんなに迷惑かけて…

 落ち込んだ。

 拓海ごときに俺は…弱い人間だ…

「すみませんでした」

 俺は、スタッフの人たちに謝り、スタンドの前に立ちなおしたが、気持ちが集中出来ないでいる。


 結莉が、拓海に何か言い、拓海がスタジオから出て行き、

「リフィールのみんな、ちょっと待っててくれ」小沢さんの声で、一旦中断した。

結莉が、小沢さんのところに上がって行くのが見えた。


 その間、俺はメンバーに軽く説教をされた。

 結莉が上から戻ってきて、俺のところにきた。

「あのね、小沢からの伝言、収録終わったら、飲みに行こうって」

「えっ?」

「あっ、私も行くから。それからFACEは来ないから」

「えっ!」

 俺は本当にこんな単純な性格でいいのだろうか、と思うくらい結莉の言葉で、元気がみなぎってきた。


 そして俺は、すぐさま、完璧に立ち直っている。

 そして、ものすごく調子よく歌った。




*************


小沢のつぶやき

「こんなやさしいプロデューサーはオレくらいだと思うよ…。とりあえず修平くん…、オレの大切な番組をつぶすのだけは、やめてくれ…(涙)」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ