表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/64

(2)暴走のはじまり


***********



「山ちゃ~~ん、テキテキプリーズ!」

 結莉は、カウンター席の一番端っこに座り、丸いすの上でクルクル回っていた。

「結莉さん、そんなクルクル回って子供じゃないんだから。それに酔っちゃいますよ」

 バーテンダーの山崎に笑いながら、言われる。

 結莉は、ポケットからメンソールのタバコを出し、火をつけ、山崎を見ていた。


「結莉さん、絶対ルームの中じゃ、タバコ吸わないですよね」

「んーまぁね。今日は、ボーカルの子もいるしね」

「みなさん喫煙されているんでしょ? 一人や二人、変わらないじゃないですか?吸っても吸わなくても。修平さんご本人も、吸われているみたいだし」

「ん~、そうなんだけどね」結莉は、ニッと笑って舌を出した。

「結莉さんは、そういうところ、ちゃんと気を使いますよね、いつも。はい、どうぞ」

 そう言いながら山崎は、ロンググラスに入れたテキーラを、差し出した。


「最近忙しいですか? いつもよりペースが速いから、お酒…」

「するどいなぁ、山ちゃんは」

「すでに5年の付き合いですからね、結莉さんとは」

「今、早坂遼のアルバムやってんだけど、一週間前から、今度デビューするFANNY FACEっていうのと、三人組の15’sとが重なっててさぁ、えらい目にあってるわけよ、わたくしは…」

 結莉はカウンターに肘をつき、タバコの煙をプハァ~と、天井に向ってため息と共に吐き出した。


「売れっ子ですね、結莉さんは!」

「よっちゃんに休みくれって言ったら“甘い!!”って怒られるし…うっ…」

 泣きが入る結莉に、山崎はグラスを磨きながら、同情の目を向けた。

「あっ! 山ちゃん! 紙とペンある?」結莉が急に訊いた。

「はいはい。ちょっと待って!」

 紙とペンを受け取ると、結莉は思いついたことを、書き始めた。




*******



 結莉が部屋を出て、二十分くらい経った。

 トイレにしては長いなぁ~などと、俺は要らぬ心配を始めた。

 結莉を知る人達は、さして心配をしている様子はない。

 あまり気にも留められていない存在なんだなぁ~きっと。



「ナベさん、ちょっと失礼します」

 俺は、トイレに行く振りをして、ナベさんの隣を立ち、部屋を出て、一応トイレ方面に向かって歩いた。

 トイレへ続く細い廊下を素通りすると、少し先にカウンター席がある。

 そこではいつも、バーテンダーの山ちゃんがカクテルなどを作っている。


結莉だ…


 カウンターの一番端っこの席に座っている。

 へぇ、タバコ吸うんだ。

 結莉は、女なのに銜えタバコで、何かを真剣に書いていた。


 俺は、結莉に近づき、「森原さん…でしたっけ?」声をかけてしまった。

「んぁ? ちょっと待って…」

 結莉は、タバコを銜えたまま俺の方も見ずに、待てと、いった。

 げっ、なんだよ…こいつ。

 しかし、素直な俺は、待った。


 しばらくして、「あっ、ごめんごめん」と、結莉は顔をあげ、俺を見て、急いでタバコを灰皿に押し付け消し、「で、何?」と、極普通に俺の顔をみた。


「えっ…」俺は一瞬、戸惑った。

 何を話そう……。

 考えていなかった俺は、「えーと…えーと…」と、言葉を探していると、結莉が、真顔で訊いてきた。


「あなた、ボーカルよね?」

「え? あっ、う、うん…」

「だったら、タバコ…止めれば? まっ、お酒は付き合いがあるでしょうし、しょうがないけど、タバコは止めた方がいいんじゃない? 喉やられちゃうよ」


 いきなり説教じみたことを言われ「……」言葉を失くした。

 二、三年上くらいの普通の女に、上から目線で言われた。

「長く歌って行きたいんでしょ? 歌うの好きでしょ? ん?」と、結莉は、首を少し倒しながら俺に訊く。

 そんな言い方をされて、ムカつくとか腹が立つとかより、彼女のしぐさが少しかわいいと思ってしまった。

 そして、異常に、ドキドキしている自分がいる。



 俺は、言葉を一生懸命探した。

 何か話さなきゃ…。…だけど心臓だけがドキドキして声にならない。

 あせりはじめた俺の所に、VIPルームで隣に座っていた女たちが、俺を探しに来た。

「やっだぁ、修平くぅ~ん。こんなところにいたぁー」

「もう、早く部屋に戻ってきてよぉ」

 絡みつくキンキン声の女たちに、結莉は、山ちゃんの方を向いて「うるさ~い」みたいな顔で微笑んでいる。


「っ、ちょっ、…まっ…」 

 俺は、もっと結莉と話しいんだ!というか、全然話してない!

 体に力が入らず、無理矢理女たちに羽交い絞めにされ、部屋に戻された。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ