(18)ライバルに遊ばれる…
俺の願いがやっと神様に届き始めているのか、前にも増して勘ちゃんの家にはリフィールが集まり、食事をする回数が多くなった。
この日も「暇ならいらっしゃい」と、吉岡さんに声を掛けられ、俺は、五時頃勘ちゃんのマンションに着いた。
ここは、結莉のマンションでもあるんだよなぁ。
だけど、結莉の部屋には一度だけしか入ったことがない…、随分前にお詫びに行ったときだけだ。
二十四階の勘ちゃんの家にはよく来るんだけど、俺的には、二十五階の結莉の部屋にお邪魔したいのが本音だ。
エントランスに入り、待っていたエレベーターが開くと、男が出てきた…。
―――な、なんでおまえがいるんだよ!?
俺が、そいつを睨むと、そいつは、いつものように片方の口角を上げ、ニヤケたお得意の顔をして、俺に言った。
「おひさしぶりです。あっ、二十四階? だよね、吉岡さんのとこ。結莉、修平さんが来るなんて言ってなかったし」
「どうして、おまえが、このマンションにいるんだよ」
俺は、ムッとし訊いたが、拓海は「ふふふ」と軽く笑い、
「どうして? どうしてって、昨日、結莉の家泊まったからに決まってるでしょ?」
そういうと、持っていたキーの束を、ジャラジャラと手の中で遊び、俺がキーに目を落とすと、拓海は涼しい顔で言いやがった。
「あっ、こん中に結莉の部屋のカギ入ってんだぁ~、合鍵ってやつ!?」
「テメェ…」
俺が拓海に一歩近づいたとき、エントランスに、裕が入って来た。
俺の様子がおかしいと気づいたのか、走ってエレベーターのところまで来た。
「おい、修平…?」
裕は、俺の腕を掴んで、自分の後ろに引っ張った。
「あっ、裕さん、こんにちは。じゃ、オレはこの辺で失礼します」
拓海はそういうと、裕に頭を下げ、エントランスに向かい歩きだした。
結莉の所にお泊まり!?
結莉のお部屋の合鍵!?
「どうしたんだよ、修平。なんで拓海がここにいるんだよ」
裕が訊いてくるが、頭の中がクルクルしてきて、エレベーターの中でも、俺は何も話さなかった。
「おっ!」
「よっ!」
勘ちゃんの部屋に入ると、タカと利央は来ていて、裕は挨拶をしていたが、俺は一人黙ったまま、ソファに座り、拓海の態度と言葉を思い出し、頭を抱えた。
なんでアイツが、結莉のとこにいんだよ…
「ど、どうした? 修平」勘ちゃんたちの心配そうな声に、裕が答えた。
「俺もあんまりよくわかんないんだけど、下のエレベーターのとこで、拓海と修平が睨みあってて…。コイツなんにも話さないから、事情はよくわからないけど、修平、殴りかかりそうだったから、オレ走って止めたんだ」
裕の説明に、なぜ拓海が結莉のマンションに来ていたんだ、と、利央とタカも不思議がっていたが、勘ちゃんと吉岡さんは、困った顔をしていた。
「修平…?」勘ちゃんが声をかけてきた。
「結莉の家に…泊まったって。結莉の家のカギも持ってた…うぅっ…」
俺は、涙目で勘ちゃんを見た。
そんな俺の泣きに同情したのか、赤ん坊のチビスケが、泣き出した。
「ほぎゃ~、ほぎゃ~」
「あ~よしよし。おしっこかなぁ」
吉岡さんは、チビスケをベビーベッドから抱き上げ、オシメを替え始める…
く、臭い…
ウンチだ。
人が落ち込んでいるときに、うんこSMELLを放つとは恐れ入ったぜぃ…。
そんな、うんこSMELLが漂う中、結莉が入って来た。
「こんちは~、勝手に入ってきたよーん」
俺の気持ちも知らず、結莉はいつもと変わらない。
「…? どうしたの…?」
俺らの雰囲気を察したが、すぐさまウンチの匂いに顔をしかめながら、みんなを見て言った。
「く、くさい…ウンチの匂いにみんなやられちゃったの? ウンチ爆弾なんて作ったら一発でみんなやられちゃうよね…、あはは~……って、まじ、みんなどうした?」
結莉は、黙ったままのみんなの視線が自分に向けられていることに、怪訝な顔をした。
「もぉー、あんたは!」オシメを換え終えた吉岡さんが、言った。
「結莉さん、拓海くんと、どういう関係ですか?」利央が結莉に訊いた。
「ええっ? 何が? なんの話?」
「さっき、下で拓海くんと会ったんですけど…」
裕が俺をチラリと見て、心配そうに言った。
結莉は、腕を組んで上を向き、少し考えて俺に訊いた。
「拓海、なんか袋もってなかった? 大きめの茶封筒」
「持ってた…」俺はボソっと言った。
「それ、取りに来たの、あの子。新曲のアレンジ変更しちゃったから。本当は明日でもいいんだけど、早くほしいって。でも今日、川中宅でご飯だから、持っていけないって言ったら、取りに来た」結莉は、そう言った。
「昨日…結莉の部屋に泊まったって…」俺は、そう言い、俯いた。
「んー、修平くん、何からかわれてんの? あの子に…」
「でも…合鍵持ってた。あいつ…」
俺が言うと結莉は、かなりデカイ声を出し「はぁぁぁ!?」と驚いた。
「なんで、あの子に合鍵渡さなきゃなんないのよ」少しばかり結莉の声が怒っている。
「でも、カギ、俺に見せた…」俺はチラッと結莉を見て言い、また俯いた。
「…修平くんさぁ、私の家のカギ見たことある? で、カギ見ただけで誰の家のカギだかわかるわけ? すんげー透視能力だよね!「オーロラの温泉」にでも出してもらえばぁ!?」
結莉は、腰に手をあて、呆れた顔で言った。
……そして、みんなは、俺を見てから、ソファに座りなおし、違う話を始めた。
えっ? 確かにカギを見ただけじゃ、誰んちのかわかんないけど…
あっ、待って…みんな…………俺…、一人ぼっち!?
ふと、チビスケを見ると、俺を見て「キャホッ」と笑った…チビにまで…
俺は、拓海にからかわれ、遊ばれている。
あいつも結莉が好きなことは、見ていればわかる。
だけど、結莉の恋人でもない俺の何が気に入らないのか、わからない…