(17)おめでた!?
それから時は半年くらいたち、その間、たまに結莉と食事にいたったり、飲みに行ったりしていた。 が、二人きりというのは、残念ながらなかった。
いつも誰かしらが一緒にいて…、たとえばリフィールのメンバーだったり、勘ちゃんや吉岡さんだったり、ナベさんや小沢さん…、よく知らない音楽関係者の人達…。
二人でデートしてぇー、という俺の願いは今の所、まったく神様に届いていない。
それでも俺は、相変わらず結莉にくっ付いて、メンバーの笑いものになっていた。
ある日、勘ちゃんから、リフィール全員と結莉が、吉岡さんのマンション(結莉と同じマンションなのだが)に集まるようにと、召集がかかった。
いつものように吉岡さんの家で、食事だと思っていたが、今回は違っていた。
「ええーーー!」
「まじーーー!」
「吉岡さんがーーーー妊娠?!」
俺たちリフィールは驚きと、歓喜の声を出した。
「ははは…出来てしまいまして…」勘ちゃんが、頭をかきながら照れた。
「ほほほ…お恥ずかしいです…」吉岡さんは、赤くなって言った。
結莉は二人の付き合いを知っていたらしく、自分のことの様に喜び、この日、みんなで飲み明かしたが、珍しく、というか、俺は初めて結莉が酔いつぶれたのを見た。
誰よりも先に眠ってしまった結莉の顔は、ニヤケている。
吉岡さんは、結莉にブランケットを掛け、結莉の顔をじーっと見て、なぜだか泣いていた。
吉岡さんに子供ができた事をなぜ結莉がものすごく喜んでいるのか、俺はこの時、まだ何もわかっていなかった。
吉岡さんが安定期に入るのを待ち、ささやかなウエディング・パーティーを開いた。
ささやかといっても主役二人は仕事の関係上、結局「ささやかなパーティー」に出来るはずもなく、JICの会長、社長夫妻、有名所の音楽関係者などなど、結構な数の招待客だった。そして、なぜか拓海も吉岡さん側の招待客で出席していた。
なぜだ!
披露宴の途中では、結莉が、二人のために作った曲に、俺が歌詞をつけ、リフィールが演奏した。
「あぁ、これが俺と結莉の結婚式だったらなぁ」とか「俺と結莉の結婚式の時も一緒に歌おう」などといろいろと先のことを考えながら、俺は歌った。
しあわせな一時であった。
その後、勘ちゃんと吉岡さんは新婚旅行には行かず、住まいは、吉岡さんのマンションに勘ちゃんが転がり込んだ。
上の階には、結莉が住んでいる。
これでまた、俺と結莉の距離は縮んだ!!と、勝手に喜ぶ俺がいる。
それから四ヵ月後、吉岡さんは、男の子を出産した。
「吉岡さん似でよかったぁ」と、メンバー全員でホッと胸をなでおろした。
しかし、生まれてきたこのチビスケも、俺のライバルになった。
ライバルが増える一方である。