(16)ライバル現る
仕事が少し延長し、結局四ヶ月日本を離れていた結莉が、アメリカから帰ってきた。
その日、「結莉も来るから」と、ナベさんに飲み会に誘われた。
リフィールはラジオの生番組があったため、零時過ぎに「W」へ着いた。
四ヶ月ぶりに結莉に会える俺は、ウホウホ気分で、VIPルームのドアを開けた…
「おっ! 来たか! 座れ座れ!」ナベさんの声に誘われ、中に入った。
まずは結莉を探さなきゃ。
あっ、いたぁ! ……。
んがっ! な、なんだ! アイツは何者だー!
俺と目が合った結莉は、「あっ、おひさ~」と、のん気に結莉が、俺手を振っているが、結莉の膝に頭を乗せ、眠りこんでいる若い男に、俺の顔は思い切り引きつった。
とりあえず、ナベさんの隣に腰を下ろし、結莉を見ると、彼女の周りには見慣れない若い男が数人座っていた。
「彼ら、最近デビューした子たち。まだブラウン管出てないけど。結莉がプロデュースしてんだわ」
と、ナベさんが耳打ちしてくれた。
そいつらはビジュアル系ロックバンド「FUNNY FACE」と言う五人組みで、結莉の膝で寝ているのはボーカルの拓海という、二十歳になったばかりの小僧だった。
俺より年下か。
拓海の顔は女みたいなかわいい顔で、メンバーは、みんなイケメンだ。
いやいや、まて、人数では負けているがリフィールの方が、絶対イケている。
拓海は結莉のまねをしてテキーラを飲み、潰れたらしい…アホなヤツだ。
「あっ、リフィールにおみやげ! ほら、これ」
結莉からのお土産が、手渡し作業で回ってきた。
「みんなで食べてね~なんかよくわかんないから、テキトーに買って来たけど」と、言われ、中を見たら、(ハワイの景色のマカデミアナッツ入りのチョコレート五箱)と(後ろにI LOVE NYと書かれたトランクス五枚)だった。
勘ちゃんの分もある。
確か…LAに行っていたはずなのに、ハワイとNY…。
俺が土産の中身チェックをしていると「う~ん…」と、結莉の膝の上の拓海の頭が動き「ん? 大丈夫?」結莉が、拓海の顔を覗きこんだ。
ええー、近すぎるよ!! 結莉!! 顔が近すぎる。
四ヶ月ぶりに会ったのに、いきなりこんな光景はみたくない。
が、俺は、ジーッと見た。ジ―――ッと。
俺のそんな様子に気がついたのか、ナベさんが結莉に言った。
「結莉、山ちゃんもう来てんじゃないか? 土産渡すんだろ?」
今日、山ちゃんは遅番だったらしく、結莉が来た時、まだ来ていなかった。
「ん? もう来てるか」
結莉は腕時計を見ながら言い、拓海の頭を持ち上げ、拓海を隣の人にたくし部屋を出て行った。
結莉が出て行き、ほどなくすると、ナベさんが俺を見て(行け!)と、目と顔でジェスチャーし、合図をくれた。
俺は、ナベさんにペコッと頭を下げ、山ちゃんのカウンターにすっとんで行った。
カウンターでは、変わらず結莉がタバコをふかしながら、山ちゃんと話していたが、俺が結莉の隣に行くと、笑いながらタバコを消した。
「仕事、忙しかった?」
「メッチャクチャ! ぜんぜんプライベートなんてなかったY」
と、両手で頬の横に、Yの字を作って言った。
……いつのギャグだろう…遠い昔にテレビで見たような…
「修平さんもお土産もらったんでしょ?」山ちゃんに訊かれた。
「うん。山ちゃん、なんだった?」
「ハワイのクッキーとロッキー山脈の絵柄のトランクス」
「…俺、ハワイのチョコレートとニューヨークだった」
山ちゃんと笑い合ったが、「な、なんか文句あるの? あなたたち!」結莉が、カウンターに肘を付き口を尖らせた。
やっぱ…かわいいや…、好きだぁ、結莉ぃ。
「ねぇ、結莉って、ビジュアル系もプロデュースするんだ。FANNY FACE…」
俺は訊いた。
「あぁ。ん~、頼まれた」
「珍しくない? 自分で納得した人としか仕事しなかったんでしょ? いままで」
「うん…今回はしょうがない。というか、お世話になっている人に頼まれたんだけど、彼らの音聞かせてもらったら結構良くってさぁ、だから、ちょっと興味持った」
結莉は言いながら、テキーラを飲んだ。
俺は少し、いや、だいぶジェラシーを感じつつ、山ちゃんに「テキーラ!」と言ったが、「だ、ダメですよ。勘太郎さんに怒られます」山ちゃんに却下された。
勘ちゃんに何かをお願いされているようだ。
「大丈夫だよ! テキーラ!」とまた言ったが、「じゃ、ソーダー割りにしよ。私もそれ作って!」結莉が、笑いながら山ちゃんに言ってくれた。
なんだか、俺はいつまでたっても、子供だ…。
「拓海…って言う子…テキーラで潰れたって…」
「あははは、誰かさんみたいだよね!?」
結莉はそういうと、俺の肩をポンと、叩いた。
はぁ…なさけね…俺もそうだった。思い出しちゃったよ…。
久しぶりに結莉に会ったのに、話したいこと沢山あるのに、なんか落ち込んでいく。
カウンターでアメリカ話を聞いていたら、FACEの五人がやって来た。
「結莉さん、拓海、目覚めたんで、俺ら、先に失礼します」
FACEの一人が言い、ふと拓海を見ると起きていたが、足元がフラフラしていて、メンバーに支えられている。
「そう。じゃ、気をつけてお帰り~」結莉は、いつもの軽い調子で言った。
と、いきなり拓海が、結莉に抱きついた。
「んだよ~結莉も一緒にかえろーぜ~」
―――う、うわーーーー! なんだっ、こいつ!!
俺の結莉になにすんだ! それも俺の結莉を、呼び捨てにしている!
俺は思わず、椅子から降りた。
拓海が続けて言った。
「この間みたいに結莉の家にかえろーぜ、で、この間みたいに一緒に寝よーよ」
―――ええーーーー! なに、なに、なにーーー!?
一緒にねるぅぅぅぅ!? 俺は頭の中がパニクった。
「はいはい。また今度ね!」結莉は何事もないように拓海の肩を叩いた。
ま、また今度…って…。
「すみません、コイツ、まだ酔ってるみたいで…」
FACEのメンバーが、結莉に謝った。
「いいよ、気にしない~早く連れてお帰り~」
結莉は、手をピラピラさせて言った。
「じゃ、また明日スタジオで。お先失礼します」
「ほら、拓海行くぞ! 結莉さんに迷惑かけんなよ」
FACEのメンバーはそう言うと、拓海を結莉から放し、支えた。
結莉から離れた拓海は、俺の方を見て、ニヤっと笑った。
たぶん、誰も気づいていない…俺だけに見せた、いやな笑いだ。
FACEが帰ったあと、「部屋戻ろっか」と結莉が言い、カウンターを後にした。
部屋に戻り、俺は拓海の情報を得ようと、ナベさんの隣に座った。
「ナベさん、拓海くんっていうヤツ…」
「ん? なんかあったか? 拓海と」ナベさんは鋭い。
「いや、別に…何にもないですが…」俺は、言葉を濁した。
「心配するな。結莉はプロデューサーとして接しているだけだ」
ナベさんは俺の不安を察してくれているのか心配いらないというけど、拓海の言葉が気になっていた。
「…でも…、さっき拓海くん、結莉の家に泊まったって…、一緒に寝たって…」
俺はナベさんにボソボソと話した。
「えーっと、あれかな?」ナベさんは、無理矢理思い出すかのように話してくれた。
「結莉が、アメリカに行く少し前のことかな? みんなで飲んでたんだよ。拓海もいたんだけど。拓海あんまり酒強くないんだけど、その日結構飲んでて、今日みたいに寝ちゃったんだ。他のメンバーいなかったから、俺と小沢と結莉で、拓海を連れて、結莉のマンションに一緒に帰って、みんなでリビングでごろ寝したときのこと…かな?」
「ごろ寝? みんなで?」
「そう、ごろ寝だ! みんなでごろ寝!」
「そ、そうなんですか! よかったぁ!がははは~」
俺がガハハと笑うと、ナベさんもガハハハハハとホッとしているような顔でわらった。
が、よくよく考えたら結莉とごろ寝…ぜんぜんよくねーじゃん!