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(14)急接近!

俺が、消沈している間に車は、店の近くの駐車場に着き、店に入ると、オーナーらしき人が出てきた。

「いらっしゃい、結莉、吉岡さん」

 三十半ばくらいの男性は、結莉とハグ…ハグっている…

 ええー! げげげー! 俺の憧れの頬っぺたにキスしあっちゃってるよ!!

 俺は、さすがに落ち込んだ…ガックシと…

 まさかこいつが三、四人の内の一人なのか!


「こちら、リフィールの修平くんとマネージャーの勘太郎さん」

 結莉が、俺をそいつに紹介した。

「はじめまして、修平君。テレビで拝見していますよ」

「あっ、どうも…」

 差し出された手に、俺は、目いっぱい憎しみを込めて、握手した。

が、なぜか戸田さんは、涼しい顔で握り返してくる。

 おかしい…、俺、そんなに握力ないのかよ…


「あっ、戸田くんね、ボディビルやってんの。いい体してるでしょ?」

 えっ…、結莉…もっと早く教えてくれ。

 こいつからしてみれば、俺の圧力なんで小学生並みじゃないか…

「ゆっくり召し上がって行ってくださいね」

 物腰柔らかく、そいつは勘ちゃんと俺に言い、厨房に消えて行った。


 人気店のようで、まだ六時過ぎにも関わらず、予約客だけでテーブルはすでに埋まっている。

 俺らは、店の一番隅の、あまり目立たないところに座っていた。

「人気のお店なんだね」俺が訊いた。

「うん、いつもこんな感じで、七時前にはいっぱいになっちゃうんだ」

「でもさっき予約入れたんでしょ? よく取れたね」

「ここの席。いつも空けてあるの。急に仲間の誰かからの予約に対応できるためにね」


 そんなに仲がいいんだぁ…オーナーと…

 やはり三、四人の一人なんだ…大人でカッコイイし…

 俺は、自分の子供っぽさを反省した。

 早くちゃんとした大人にならなければ!!

 結莉をリードできるような大人な男になろう!

 そう心に決めワインを一口飲んだ。


 デザートを食べ始めた頃、戸田さんが来た。

「いかがでしたか? お味の方は。お口に合いましたでしょうか」

「ええ、とてもおいしかったです。次回はリフィールのメンバーも連れてきます。そのときはよろしくお願いします」 勘ちゃんが、ナプキンで口を拭き拭き、言った。

「ぜひ、またみなさんといらしてください。お待ちしておりますので。そうだ結莉、来週からだろ?」

 戸田さんが、結莉に訊いた。

 来週ってなんだろう。クラブでも誰かが結莉に訊いていた。

 来週だろう~、って。


「うん、水曜日に出る。当分ここに来れないけど、帰ってきたらすぐ来るよ」

「あぁ、待ってるよ。気をつけて行っておいで」

 戸田さんの笑顔は、結莉を包み込んでいた…

 やっぱり…ひ、一人なんだ…

 俺は、椅子に座っているにも関わらず、フラフラしてしまった。

 その後、戸田さんは、別のテーブルのお客さんの所に行き、結莉に向けた笑顔とは別の営業用の笑顔で話していた…気がした。

「来週どこかいかれるんですか? 結莉さん」

 勘ちゃんが、俺の気持ちを察してか、代りに訊いてくれた…気がした。

「うん。来週の水曜日からアメリカにちょっと行ってきます」

「えっ! アメリカ?」俺は、驚いて訊きなおした。

「そう、仕事とプライベート」

「ねぇ、アメリカの仕事って、プロデュースかなにか?」俺が訊いた。

「そうよ。トーテン&ポールの」

「えっ! トーテン&ポールって有名なディオグループの…?」

「そう」

 結莉は、普通に「そう」といった。


 す、すげー人なんだ…結莉って…

 トーテン&ポールとは、世界的に有名なアメリカのデュオグループで昨年出したCD売り上げは全世界で2000万枚いっている。

 リフィールのCD売上と比べてしまい、俺は、谷底へと落ちた。

 やっぱり日本と世界の市場のレベル差は大きすぎるというか、ケタが違う……

 結莉と結婚するためには、それ以上の人物にならなければいけない!

 俺の闘志は、メラメラと燃え上がって来て、谷底から抜け出した!


「いつまで行ってるの?」気を取り直し訊いた。

「一応三ヶ月くらい。でも、もしかしたら仕事の進み具合で、延長するかも」

 結莉は、デザートのアップルコンフィを、おいしそうに食べながら言った。

 さ、さ、三ヶ月も…

 そんなに長い時間会えないなんて、考えられない!


「あっ、俺も、アメリカ行っちゃおうかな~」などと言ったら、勘ちゃんが、すんごい目つきで俺を見た。

「い、行けるわけないよね…?」

 自分で言って、自分で答えている俺。

「時間が出来たら来れば? 私はロスに滞在するけど」

 結莉が、誘ってくれた。

 俺は、勘ちゃんの方を満面の笑みで見た。

 ニタァ…。


「でもリフィールは、人気者だから忙しいか」

「そんなことないよ。今はライブもないし、レコーディングも、もう終わってるし、テレビもそんなに入れてないし、俺は、ラジオのレギュラーもってないしぃ」

 俺はアメリカに行く気満々で、首をブンブン振りながら言った。

 勘ちゃんに後で怒られるのは覚悟している。

「じゃ、もし、みんなの時間が合えばリフィールで遊びに来るとか?」

 結莉は、勘ちゃんの顔を見て言った。

「そうね、それはそれで楽しいかもね。リフィールのみなさんとご一緒というのも」吉岡さんまで勘ちゃんの方を向いて、言った。

 吉岡さん! あなたはなんていい人なんだろう。いつもナイス発言をありがとう。


 俺も勘ちゃんの顔を、見た。

「…そ、そうですね。スケジュールの都合がついたら…少し、こいつらにも、休暇が必要かなとは考えてはいるんですがねぇ」

 思いがけない勘ちゃんからの言葉に、俺は感激した。

「ホント!? ねぇホント!?」

「あはっ! 修平くん、子供みた~い」 

 結莉の「子供みたい」と言う言葉に、俺の顔は曇る。

 さっきこの店のオーナーの戸田さんを見て、大人の男になろうと心に決めたはずなのに…

 数十分後には、このありさまで…非常に落ち込んだ。

「どうしたの? 修平くん?」

「ん? ううん、なんでもない」 

 俺はそう言うのが、精いっぱいだった。

 涙目だぁぁぁぁ。

 でも結局、事務所が仕事をビシビシと入れてしまい、俺のアメリカ行きはなくなった…




 戸田さんの店を出て、そのまま車で「W」に、向った。

 山ちゃんは来ていて、いつものようにカウンターでシェイカーをカッコよく振っていた。

 俺と勘ちゃんは山ちゃんにお詫びをし、一緒に詫びるといっていた結莉は着くなり、テキーラをオーダーし、飲み始め、吉岡さんに怒られていた。

 結莉と吉岡さんを見ていると、なんだか俺と勘ちゃんのように見えてきた。

 四人でカウンターに座り、飲み始めた。


「なんか不思議な光景ですね。いつもは、結莉さん一人この席に座って飲んでいらっしゃるのに、今日は、みなさん四人並んで…」 

 山ちゃんは、楽しそうに言った。

「ボクは初めてだな、このカウンターで飲むのは。ここもいいかもしれないなぁ」

 勘ちゃんは車なので、酒を飲まずに山ちゃんが特別に入れてくれた抹茶ラテをすすりながら言った。


「あれ? おまえタバコ止めたのか? そういえば最近吸ってるとこみてないな」

 勘ちゃんの言葉に、結莉が反応した。

「ん? 止めてくれたんだ」

 止めてくれたんだ…って。なんか結莉のために止めたみたいじゃないかぁ。

 まぁ、そうなんだけど…結莉が止めたら? って言ったから止めました!!


「結莉さんが止めろと?」勘ちゃん鋭い。

「うん、私が言ったからかどうかわからないけど、ボーカルだから喉やられたら大変でしょ?」

「結莉さん、ルームの中では、タバコ絶対に吸わないんですよ。ボーカルの方がご一緒の時は、必ず、ここに来て吸ってらっしゃるんですよ」

 山ちゃんの言葉で思い出した。


 俺が、結莉の隣に座った時、彼女はまだ火をつけたばかりのタバコを消した。

 俺の…俺のためじゃないか!

 俺は思わず結莉を抱きしめたかった…が、勘ちゃんの前でそんな事をしたら、  

こんどこそ本気で、地の果てに置き去りにされそうだったので、グッと堪えに堪えた。

「俺! 禁煙しました!!」俺の宣言に、勘ちゃんは泣いて喜んでいた。

 前から喉の心配をしてくれていたから、これで少しはマネージャー孝行になったであろう。

 でも動機は、結莉に言われたからなのだけど…

 まぁ、勘ちゃんが喜んでいるようなので、良しとしよう。



 四十分ほど飲んでいたら、どこかのルームから女の子たちが、数人出てきた。

 その中の二人が「きゃ~修平く~~ん。来てたのぉ」

「最近連絡くれな~い。つまんな~い」と、俺に抱きついてきた。

 誰だか覚えてない…その前に、結莉の前で、俺にベタベタするな!!

 俺は、女を払いのけた。が、シツコイ女たちは、絡まってくる。

 結莉は、普通の顔をして勘ちゃんたちと話をしている。

 えっ、もしかして、全然気にも留めてくれていない、とか…

 ま、まじかよ…少しは気にしてくれよ…

「そろそろ帰りましょうか」吉岡さんが言った。

 ナイスアシスト、吉岡さん! 俺、今度から『ナイス吉岡』と呼ぼう。


 でも、この女たちから離れられるのはいいけど、もう帰ると言うことは、結莉ともお別れなんだよ。

 それに来週は、アメリカに行っちゃうんだよ…結莉。

 い、いやだぁーー、もう少し一緒にいさせてくれぇぇぇぇ


「あっ、勘太郎さんたち明日お仕事は?」吉岡さんが、勘ちゃんに訊いた。

「明日は、夕方五時からのテレビ収録のみですが」

「じゃ、結莉の家で飲みましょうよ。空いている部屋もあるし、眠くなればそこで寝ちゃえばいいんだし、ねっ、結莉」

「あぁ~そうだね~、別にかまわないよ、私は」

 ナ、ナイス吉岡さま。なんてステキな吉岡さま!!

 俺は、一生あなたに付いて行きます。


「いや~でも…」勘ちゃんは、なにか照れた様子で渋っている。

「いこーいこー勘ちゃん~」俺は、控えめに押してみた。

「いいじゃないですか、勘太郎さん」

 吉岡さま、その色気のある押しグッドです。

「来れば?」

 …なんだか結莉には、全く色気がないような気分になってきた。

「そうですかぁ? じゃ、お言葉に甘えて…」

 よっしゃ! 勘ちゃん! 俺のマネージャーは、勘太郎だけだから!!


 俺は、ウキウキ気分で絡み付いていた女をビシバシと払いのけ、結莉の家に行った。

 初めて結莉の家にお邪魔した日にお泊りだなんて…

 いろいろと、想像してしまうじゃないかぁ~。



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