(11)話せないまま
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「げっ! ちょっと! 修平くん!? マジ? やばい? ねぇ、山ちゃんヤバイ? これ」
結莉と山崎は、急にカウンターに伏せて動かなくなった修平に、あせった。
結莉は電話の相手に、「かけ直すから」と言い、電話を切った。
「修平さん? 修平さん?」
山崎はカウンターから出てきて、修平を揺すった。
結莉は、VIPルームに戻り、小沢とナベを呼んだ。
「一人潰れた…」人差し指を立てた結莉に「誰がぁ!?」と、小沢が驚いた。
「修平くん…」結莉の言葉に「…テキーラか?」ナベが冷ややかに訊いた。
「そうで…すぅ…」
「おまえなぁ~、ったく」
ナベと小沢は、部屋を出て、修平の元に行くと、カウンターで伏せている修平の顔を山崎が冷たいおしぼりを当てていた。
「ナベさん~、どうしましょう」山崎が心配そうに言った。
「まぁ、大丈夫だろうけど、とりあえずバックヤード入れとこか」
ナベと小沢は、修平を担いで山崎に付いてスタッフルームに運び、ソファベッドを広げてもらい、そこに修平を寝かせた。
その間に結莉は、勘太郎の所に行き、事情を説明しスタッフルームまで来てもらう事にした。
勘太郎が、スタッフルームに入ると、ソファの上に修平は寝かせれていた。
「僕が悪いんです。修平さんに結莉さんと同じ物って言われて…作っちゃったから。サイダーででも割っとけばよかったんですが…本当にすみません」
山崎は、勘太郎に頭を下げ謝った。
「いやいや、たぶん修平が無理矢理作らせたんでしょうから、気にしないでください。本当にこちらこそ申し訳ない」
勘太郎は、恐縮しながら頭を下げた。
「山ちゃん、仕事戻っていいよ。後は、俺ら見とくから。ありがとね」
ナベが言うと、山崎は仕事に戻っていった。
「結莉なぁ、なんで止めなかった…? 誰もおまえについて行けるヤツはいないんだぞ!」小沢の喝が入る。
「はい。反省しています。勘太郎さん、すみませんでした」
結莉は、直角に体を曲げて謝った。
「そんなに謝らないでください。山崎さんにも言いましたが、本当に修平が勝手に飲んでしまったのは目に見えております…」
勘太郎は、修平のしあわせそうな寝顔を見てから、ガクンと首を下げた。
「でもすげーな、修平くん。これも愛か? ははは!」
小沢は、笑いながら濡れたタオルを、修平の額に乗せた。
「何? 愛って!」結莉が、不思議そうに訊いた。
「あっ、いやいや~、あの~」
「尊敬してるんだって、結莉のこと。いい音楽家だから!」焦る勘太郎に、ナベが助け舟を出した。
「あら~ん、そんな尊敬だなんてぇ~ん」結莉は、手で頬を包みクネクネとした。
「調子にのるな!」小沢が、結莉の頭に拳骨を落とした。
「じゃ、ちょっと寝かしとこっか!」
「結莉、おまえ見張り番な!」小沢が言った。
「あっ、ボクが見ますので、結莉さんは部屋に戻ってください。みなさんも待っていらっしゃるだろうし」勘太郎がそう言ったが、
「勘太郎さん、いいっていいって。結莉に責任があるんだから。反省の意味を込めて、ここで修平くんの見張り番でも、してもらいましょう」
ナベが勘太郎の肩を叩いて、外へ誘導した。
「いや、でも…マネージャーとしてですね…」
勘太郎の声を無視し、小沢も後ろから勘太郎を押しながら「おい、しっかり見とけよ!」と、結莉に言い残して出て行った。
「見とけよ…って、見ててどうすんのよ。寝てるし…ここじゃタバコも吸えないじゃん」結莉は、ふくれっ面でブチブチと一人、文句を、言った。
ぬるくなったタオルを換えるために、修平のおでこのタオルを取った。
「ん~、なかなかいい顔してんだぁ~修平くんって!
当たり前か、人気バンドのボーカルだもんね…顔も商売道具の一つか」
結莉は、修平にデコピンをした。
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俺は、夢を見ていた。
リゾート地の高級ホテルのプールでスイスイと泳いでる結莉を見つけ、勢いよくそのプールに飛び込んだ…プールの水は水ではなくテキーラだった。
俺は溺れ、プールの底に頭をブツけた痛さと、テキーラの強さにもがいていた。