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(10)話したい!

 クラブ「W」のVIPルームには、すでに二十人くらいの人が集まっていた。

 みんなが飲み始めて四十分くらいしてから、小沢さんとナベさん、吉岡さんが来た。


 しかし、結莉の姿が見えない!!

 俺はすぐにナベさんに訊いた。

「結莉…さんは?」 

 勘ちゃんの視線に気がついて“さん”を付けた。

「あぁ、山ちゃんのところでタバコ吸ってから来るって」

 カウンターの山ちゃんか…、えっ! もしかして山ちゃんと出来てるとか!?


 俺は急いで立ち上がった…が、隣に座っていた利央と裕に、引っ張られ座らされた。

「座ってろ…」勘ちゃんに低い声で、一言言われた。

 利央と裕は、勘ちゃんに監視役を頼まれらしい。

「ええー?」俺は露骨にいやな顔をした。

「座っとけ!」 

 利央にデコピンをされ、痛さのあまりもがき苦しんだ。


 十分程して、「よっ!」っと、片手を上げ、おっさんのように結莉が、部屋に入ってきた。

 この間のように、ロンググラスをぶら下げている。

 ぶら下げているのが「とっくり」でないだけましだ。

 そしてまた、この間のように、ソファの一番端っこに、腰を下ろした。

 ち、近くに行きたーい。

 俺は、両脇の野郎達にズボンのベルト通しのところを掴まれて、動けなかった。


 結莉の横には、小沢さんが座っている。

 また小沢さんかよ…俺はずっと二人の様子を見ていた。

 小沢さんは、結莉の頬っぺたを摘んだりパンチを入れるまねをしたりしてこの間のように楽しそうだった…


 でもあの二人の関係は、恋人同士じゃないんだよなぁ~でも仲いいなぁ。

 ムカつく……いくら恋人同士じゃないといってもなんなんだ!

 やはり密着度が気になる!!


 手元にあった水割りを、一気に飲んだ。

 裕が飲もうとしていたグラスも取り上げ、飲んだ。

 そして、テーブルの上の超激辛チョリスを、三本ほど口に突っ込んだ。

 …む、咽た……げほっげほっ…


「おまえは、アホか…」呆れた利央が、お絞りをくれた。

 ふと結莉の方を見たら、結莉がこっちを見て、笑っていた。

 恥ずかしい…より、俺の方を見てくれているという嬉しさの方が大きい。


 あ~、結莉の隣に行きてぇ。

 利央をチラッと見た…

 裕をチラッと見た…

 だめだ…俺のボディガードたちは、俺に隙というものを与えてくれそうもない。

 結莉の近くに行かなきゃ意味ねぇ~んだよ。

 俺の心は荒んでいく。


「結莉~、今度いつから?」

 右端の方から誰かが、左端にいる結莉に訊いた。

 何がいつからなんだ!?


「来週~」結莉が答えた。

 何が来週なんだ!?


「酒井も一緒?」

 酒井って誰!?


「なんかノリノリでさぁ~」

 何に乗るんだ!?


「わかるわかる~」

 わかんねーよ、俺は!!


 俺は右、左と会話のキャッチボールに合わせ顔を向けていた。

 そして「ウザイっ」と裕に頭を引っぱたかれ、利央に頬をヒネヒネされた。

 どうしてこうも、うちのメンバーは暴力的なんだ!


 しばらく大人しく結莉を見つめていると、結莉に電話が入ったらしく、吉岡さんが携帯を渡していた。

 結莉はタバコをポケットに入れ、携帯で話しながら、部屋を出て行った。

 チャ、チャンスが来たー!


 すぐに立つと両脇の野郎達に感づかれる…俺は五分ほどじっと我慢してから、

「ト、トイレェェ~、もれるぅぅぅ~」と、股間を押さえバタバタと、利央に訴えた。

 利央の目は、疑っていたが「ま、マジ…チビるぅぅ~」と、半泣きして見せたら「しょうがねーなぁ」と了解が出た。

「用足したら、すぐ戻って来いよ!」と、裕にケツを叩かれた。

「十分しても戻ってこなかったら迎えに行くぞ」と、勘ちゃんに言われた。

 どれだけ俺は、信用がないんだろう…。彼らの目は確かだけど。


 俺は、急いで部屋を出た。

 結莉がいるところは山ちゃんのカウンターだ!! 絶対!!

 VIPルームのある二階のフロアのカウンターは、一階のクラブの音をシャットアウトしていて静かだ。

 俺は、一目散にカウンターへ向かった。

 

 いたよぉぉぉぉ。

 バー・カウンターの椅子に座って、タバコを吸いながら電話してるよぉぉぉぉ。


 ルンルン気分の俺が、横の椅子に座ると、結莉は電話をしながら、俺の方を見て笑った。

 そして、なぜか、まだ長いタバコを灰皿に潰し消した。


 俺は、電話が終わるのを待った。

 仕事の話なのか、英語で話している。

 結莉は流暢だ。

 俺…明日、英会話教室に申し込みにいこう~


「何か飲みますか?」山ちゃんが、俺に話しかけてきた。

「えーっと、じゃぁ、これ」

 俺は結莉の飲んでいたロンググラスを指差した。

「…や、やめておいた方がいいですよ…」山ちゃんは、真剣に言った。

「えっ? いいよ、これで」 

 俺は、ただ同じ物が飲みたかった。

 ただのアホです…


 結莉の電話は、まだまだ続いている。

「はい、どうぞ…」山ちゃんが不安そうな顔で、グラスを差し出した。


 結莉は、電話をしながら自分のグラスを持って俺のグラスに「かんぱ~~い」と、声を出さずに口だけ動かしてカチャッとあて、グビグビと飲んだ。

 結莉と乾杯をしてしまった嬉しさに、俺も真似をして、グビグビッとそれを飲んだ。


 そして、結莉と山ちゃんの「あっ!」と言う声を最後に、目の前が何も見えなくなった。



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