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(1)暴走のはじまり

恋をするって、本当の恋って…こんなんだったんだ。


 俺が彼女に初めて会ったのは、いつも行っている「W」というクラブのVIPルームだった。

 その日、バンドのメンバー、TVプロデューサー、音楽関係者や誰かがどこからか見繕ってきた女達と飲んでいた。


 俺は「リフィール」というバンドのヴォーカル、杉山修平、二十一歳。

 高校の時から今のメンバーとインディーズバンドを始め、十九歳でメジャーデビューした。

 デビューして二年しか経っていないが、CDの売り上げはいつもベスト10内に入っている。ちょっと…というか、だいぶ格好いい、俺だ!!


「よっ、みんなお集まりのようで!」

 そう言って三十分ほど遅れてやってきたのは、音楽プロデューサーの田辺さん。

 アイドルやバンドを主にプロデュースし、その分野で活躍している通称「ナベさん」。

 彼の横には、俺より少し年上と思われるスーツを着たロングストレートの女がいた。

 ナベさんがその女を俺たちに紹介しようと「あっ、コイツね」と言いかけたと、同時に「森原結莉です、よろしく」と、彼女は、俺らリフィールを見ても顔色一つ変えず、普通のトーンで言った。

 おいおいおい~、普通の女の子は今をときめくリフィールを目の前にしたら「キャ~」とか「ファンなんですぅ」とか色めき立つのに、その女は自分の名前を言っただけでソファの一番隅に座ってしまった。

 彼女は、数人の音楽関係者とは顔見知りのようだが、ニコリともせず話している。


 VIPルームのドアがノックされ、クラブスタッフがつまみを持ってきた。

 うっ、俺の大好きな「超激辛チョリス」唐辛子5マークだ。

 大概の人はこれを一口食べたら、倒れて水を要求するのだが、辛いのが大好きな俺には、一番の好物だ。

 これに冷えたビールが良く合う。


 俺の横に座っていた女が一口食べ、「もぉ~ダメぇ~お水ぅ~~~」と、食べかけを俺の口元によこした。

「ほら! だからやめておけって言ったじゃん」と、タイプではないがデレデレと、その女の肩を抱きながら言った。誰でもいいと言うわけではないが、俺は女が……好きだ。


 再びコンコンとドアがノックされ、バーテンダーの山ちゃんが入ってきた。

 トレーの上に乗せられたテキーラのボトルは、さっきの女、結莉の前に置かれた。

 グラスは、ショットではなくロング。


 リフィールがお世話になっている大手レーベル会社・JICのお偉いさんが、結莉の隣に移動し、テキーラを注いでいる。なんであんな小娘にお偉いさんが酒を注いでいるのか…

 普通は逆だろう?

 結莉は、注いでもらったテキーラを、グビグビと飲んでいる。

 しかし、テキーラをロンググラスで、ガブ飲みしている女を俺は初めて見た。

 そして、結莉は超激辛のチョリスを普通に食べて、テキーラを、またグビッと飲む。

 なんなんだこの女は…。俺は、彼女から目が離せなくなっていた。



 アイドルデビューのためナベさんが顔見せのため連れて来た女かとも思ったが、アイドルという雰囲気の顔ではないし、二十二、三歳でアイドルはないよなぁ。

 その前に態度が偉く大きい。


「利央…あの女の子、知ってる?」 

 俺は、リーダーの利央に訊いた。

「しらね~。初めて見る顔…」

 メンバーの裕も、タカも、見たことないらしい。

 やっぱり新人なのだろうか…、グラドル…にしては、胸がない。


 結莉の飲みのペースはものすごく速い。

 テキーラーしか飲んでいないし、チョリスも一人で平らげている。

 俺は、両隣にいる女達の話も耳に入らず、タバコをふかしながら結莉を、見続けた。

「やだもぉ、修平くんったら、さっきからあの女ばっかりみて!」 隣の女に抓られた。

「ッテッ。へへへ、ごめ~ん」などと謝ってみるが、すぐに俺の視線は結莉に移る。

 もう、釘づけだった。



 結莉の回りには、入代り立代り人が酌をしに来ている。

 酌をされては飲み、酌をされては飲み、酌をされては飲み……

 テキーラのボトルが追加された。


 ありえない……テキーラって、そうやって飲むものじゃないだろ!?っていうか、普通そんなに飲めないって……体に悪いし。っていうか、死ぬぜ!?

 それでもなお、結莉は、顔色一つ変わらず飲み続けている。


 そんな中、俺の携帯が、ブルブルと震え、部屋を出た。

 電話は、マネージャーの勘ちゃんからだった。明日の時間確認だ。

「飲み過ぎないように…あと、今日はお持ち帰りNG」ということを、メンバーに伝えておけとの命令だった。

 部屋にもどり、自分の座っていたところではなく、ナベさんの隣に座らせてもらった。

 結莉の正体を探るためだ。


「ナベさん、森原さんって何者なんですか? みなさん顔見知りのようですが?」

「ん~? 結莉? 何者だろうねぇ、しいていえば普通の女じゃ…ないね、ははっ。まぁ、そのうち分かると思うけど、気にしなくていいよ、彼女のことは」

 ナベさんは軽く笑うだけで、はっきりとは、教えてくれなかった。


「なんで? 修平くん、興味持っちゃったかい? 結莉に」

 ナベさんに訊かれ、俺は一瞬ドキッとしたが、「い、いや…そういうわけじゃ…ないです」と、軽く笑い、答えておいた。

 自分でも、よくわからなかった。

 綺麗というより、かわいいタイプかな? 

 でも別にモデルでもなさそうだし、俺のタイプかと問われれば、別にそうじゃない。

 なのに俺は、結莉が気になってしかたない。


 結莉の方に視線を移すと、鞄から何かを出し、ジャケットのポケットに突っ込み、席を立って部屋から出て行ってしまった。


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