雪狼の伝説
私が7歳の頃、フィーに出会った。
あの日、猛吹雪が小雪に変わり、私は執事のコスウェにせがんで、雪が厚く積もった森に連れてもらった。そこで、私は雪に埋められそうな衰弱したフィーを見かけた。すぐでも消えそうな小さき命を両手で抱き、泣きそうな声でコスウェに助けを求めた。当然、コスウェは血の気が失せそうだった。
この子、フィーは、子雪狼だった。それでも、コスウェはフィーを治してくれた。お父様が生まれる前からずっと家の世話をしてきたコスウェがお父様を説得して、フィーをに置いてくれた。フィーも、あたかも恩人を認識しているように私とコスウェに懐いた。
時が経ち、フィーが傍にいる六年目。あの頃抱き上げた子雪狼がもう、私よりも大きくなっている。
そしてあの日も、いつものようにフィーに乗り、雪景色を描きに森に出かけた。
「フィー、今日の絵はどうだったかな?」
「ワン!」絵を見せると、フィーは嬉しそうに鳴いた。
「うん、じゃ今日はもう帰ろっか」日も暮れ始めた。
今日は、少し遠くまで来ちゃったね……でも、おかげでいい絵が描けた。
でも、そのあとのことは覚えていなかった。
目を覚ましたら、家のベッドの上にいた。隣にいたのはお父様とコスウェと、お医者さんだった。
「お嬢様!?お目覚めになりましたか!?」最初に気付いたのはコスウェだった。そして、周りの人たちが駆け寄ってきた。
うるさい……体が痛い……
「フィー……フィーは、どこ?」何かを思い出したように、私は口を開いた。
「お嬢様、それが……」コスウェは言いづらそうな顔をして、目を背けた。
その日の帰りに、私たちは狩人の罠に落ちたらしい。フィーは必死に私を守り、狩人から連れて帰ったという。
でもその話、耳には入らなかった。ボロボロの、もう二度と甘えてくることのないフィーの前で、記憶に残ったのは、あの夜の冷たさだけだった。
「お嬢様、どうされました?」声をかけてくれたのは、メイドのリールだった。私より二つ下で、元気な女の子だった。全然新人なのに、なぜかいつも傍に置きたいほど気に入った。
「何でもないわ。雪を見て、昔のことでも思い出したのかしらね。さぁ、行きましょう」私は笑いながらごまかそうとする。
「そんなお嬢様に、雪狼の伝説を話しちゃいまーす~」いつものように、無邪気な笑顔を向けてくれる。
そう、いつもこうやって私に元気付ける。それにしても、よりによって雪狼とは、フィーの話、一度もしたことないのに……本当、この子には敵わないわ。
「いいわ、特別に聞いてあげる」
「わーい!やった!では、リールちゃんのおとぎ話ターイム!」
やけに嬉しそうに、リールは話を始めた。
「雪狼は、お嬢様もご存知ですよね?私たちに恐れられてるけど、実は意外と人間に懐くんですよ?もちろん誰にでも懐くわけじゃないですけどね~人間に懐いた雪狼はなんと、死んだあとに人間の姿になったりすることもあるらしいです!」
急に足を止めたリールは、さっきまでのはしゃぐ様子のかけらも見えず、今まで聞いたこともない優しげな声で、
「もう一度その人に会うためにって」