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84.ダークエルフのイヴァンとミュコラン

「……え? ベルとアルフレッド?」


 ベルの後ろには、動物に振り落とされないよう必死の形相を浮かべているアルフレッドが見てとれる。二人乗りで帰ってきたのか。


 いや、それにしても事前に聞いていた予定より随分と早い帰還だ。再会は嬉しいんだけど、戸惑いも強い。


 交渉が上手くいかなかったため、早期に切り上げてきたのかと一瞬思ったものの、背後にはもう一頭、同じ動物に乗っているダークエルフの男性の姿が確認できるので、どうやらそうではないらしい。


「ウンとね、長老(おじーちゃん)たちが、歩いて帰るのは大変だろうって☆」

「ええ。交渉も順調に進みまして……。帰りはミュコランを手配していただけることに」

「ミュコラン?」

「このコたちの事だよー♪」


 手綱のついた、騎乗している動物を優しく撫でるベル。へえ、これをミュコランっていうのか。……えーっと、どっかで見たことあるんだよなあ、この動物。


 簡単に説明すると、ヒヨコを巨大化させて、馬よりもうワンサイズ大きくした鳥のような姿形なんですわ。うん、どう見ても『ファイナ○ファンタジー』のチョ○ボです。本当にありがとうございました。


 ベルの乗っているミュコランは白色の羽、後ろにいるもう一頭は黒色の羽で全身が覆われていて、これが黄色だったら完全に勘違いしていたところだ。


「ミュー、ミューって鳴くからミュコランって名前がついてるんだー☆」


 ちなみに古代ダークエルフ語で『コン』は大きい、『ラン』は鳥を意味するらしい。省略されてこの呼び名がついたのか。


 しかし、なんというか。このミュコラン、大きな瞳がつぶらでくりくりっとしていて、全身の羽は見るからに柔らかそうである。つまり、何がいいたいかというと。


「モフモフでカワイイなあ……」


 思えば領地にはモフモフとした動物がいない。ということは、長い間、オレには動物特有のモフモフとした癒やしが欠乏していたわけで、そうなってしまうと自然とミュコランに身体が吸い寄せられたとしても不思議ではないのだ。


 モフモフ分を補給すべく、ミュコランを撫でようと手を差しのばした瞬間、ベルが口を挟んだ。


「あっ! ダメだよ、タックン! このコたち、慣れてない人が触ると蹴ったりするからっ!」


 ……なんて言われたところで、オレの手はすでにミュコランの胴体に触れていたわけで。


「え? 何も起きないけど?」

「……あれぇ? いつもなら絶対暴れるのに……」

「そうなのか? すげえ可愛らしいじゃん。超モフモフしてるぞ」


 胴体を撫でていると、気持ちが良かったのか、ミュコランは顔を近付けて「みゅーみゅー」と鳴いてくる。つぶらな瞳を向けて甘えてくる様子に、オレはたまらず顔全体を撫で始めた。


「よーしよし。良い子だ、可愛いなあ」

「みゅー、みゅー」

「ん? ここもなでて欲しいのか? わかったよ」


 ベルは唖然とした表情で、オレがミュコランを撫で回している様を眺めやっている。


「マジありえないっしょ……。ウチらだって、慣れさせるのに時間がかかるのに……」

「こやつが特別大人しいだけではないのか? ホレ、愛くるしい顔をしておるではないか」


 胴体を撫でようと、アイラが手を伸ばしたその時だった。突然、ミュコランが叫び声を上げた。


「ぐぎゃぁっ!! ぐぎゃっ! ぐぎゃっ!」


 威嚇するような声を発したかと思うと、頭を激しく振り始めるミュコラン。


「なっ、なんじゃっ!?」

「ほらー! やっぱりダメっしょー? 危ないから離れててー?」

「えー? オレの時は大人しかったのに、何でだ?」


 側からアイラが離れ、オレだけになると、ミュコランは落ち着きを取り戻したらしい。


「みゅー……。みゅー……」


 再び甘えるようにオレの身体へ頭をすり寄せてくる。……何でだ?


「えー? なんでタックンだけ大丈夫なのかなぁ?」

「……ベルや? ちと確認したんじゃが……」

「なぁに?」

「そやつ……。オスか? それともメスか?」

「女の子だけど?」

「……そうか」


 苦々しい眼差しをミュコランに向けるアイラ。何かわかったのか?


「もしかするとですが、ミュコランに伝わる、異邦人ならではの魅力があるのかも知れませんね」


 ベルの後方、黒いミュコランに騎乗するダークエルフの男性は、落ち着きのある口調で言った。


「古くからの言い伝えに、異邦人という存在は超越した能力を秘めていると残されております。あなた様にもその能力が備わっているのかも知れません」


 ミュコランに乗っていてもわかる長身に端整な顔立ち、灰色の短髪は七三分けっぽくセットされていて、言動とともに真面目さが伝わってくる。


「えーっと……。ベル、こちらの方は?」

「あっ☆ 紹介が遅れちゃったネ♪ このコはイックン。ウチの弟なんだー★」

「……ハイ?」

「姉さん……。俺を紹介する時はちゃんと名前を伝えてくれと、いつも言っているじゃないか!」

「ぶー。イックンのいけずー」


 騎乗しながら交わされる会話に、オレは目をぱちくりとさせる。……へ? 弟? ベルの? マジで?


「ミュコランの上からのご挨拶、お許し下さい。ダークエルフの国から使者としてまいりました、イヴァンと申します。いつもベルデナット姉さんがお世話になっております」

「イックン……。ウチのことはベルって呼んでって、いつも言ってるのにー!!」

「はいはい、わかってるよ姉さん」


 拗ねた顔を見せるベルと、呆れ顔のイヴァンへ交互に視線を走らせる。対照的な二人に困惑しかないんですけど。


 ……と、とにもかくにも、こんなところで立ち話もなんなのでと強引に話を切り上げ、オレたちは領地へと向かうのだった。


***


「姉さんが村に帰ってきた時は驚きましたよ」


 集会所の大広間へ案内したイヴァンは、エリーゼの淹れたお茶で喉を潤しながら、ため息交じりに呟いた。


「突然、村を出てっていったかと思えば、帰って来るなり結婚したとか言うじゃないですか。しかもお相手は領主で男爵。その上、異邦人でいらっしゃると」

「そりゃまあ、驚くよなあ」

「ええ。昔から騒がしい姉ではありましたが、ついにホラ吹きになったのかと思いまして」

「ウソなんかついてないもーん!」


 弟の辛らつな言葉にいじけるベルだったが、お茶を差し出そうとエリーゼが側に来た瞬間、身体に抱きついて泣き真似を始めてみせる。


 エリーゼはエリーゼで、よしよしとベルをなだめた後、大事な席に立ち会ってはいけないと察したのか、部屋の片隅にうずくまったままの人物をチラリと見やってから外へ出て行った。


「そちらの龍人族の商人であられるアルフレッドさんがいなかったら、まったく信用しなかったでしょうね」

「アッハッハッ! ご信頼いただけたようなら何よりですよ」

「ところで……」


 イヴァンは部屋の片隅へ視線を向け、躊躇いながらも続けた。


「あちらの方は……。あのままでよろしいのですか?」

「あ~……。放っておいてやってくれ。相当堪えたらしい」


 うずくまったままのアイラは、遠い目をしながらブツブツと何か独り言を呟いている。メスのミュコランに洗礼を受けた後、オスのミュコランなら暴れないだろうと、イヴァンが乗ってきた黒いミュコランを撫でようとしたところ、同じように暴れられ。


「ふ、ふん! オスのミュコランならタスクにも懐くまい!」


 なんて、吐き捨てるように言われたもんだから、オレが試しに撫でてみたところ、メスのミュコランと同じように甘えるのを目撃してしまい。それにすっかりショックを受けてしまったようだ。


 ま、その内、立ち直るだろうと放置を決め、大切な交易の交渉を始めようと集会所に来たのである。


「しかし……。こう言うのもなんだけど、二人ともあまり似ていないな?」


 話題を転じるように、オレはベルとイヴァンを交互に眺めやった。


「ベルは何というか、その……明るい性格だろ? 弟っていうからには性格もそっくりなのかと思ってた」


 まさかギャルギャルしいとは言えず、オブラートに包んだ表現を口にすると、イヴァンは再び深いため息をついた。


「ええ、よく言われます。姉がこういう性格ですので、弟も似たような性格なのではと。まったくの誤解なのですが……」

「そうだよなあ。ベルに弟がいるって知ったら、どんなパリピなんだろうって想像するもんな」

「は? パリピ……? ですか?」

「ああ、いやいや。元の世界の言葉でね。底抜けに明るい性格の人って意味でさ」

「なるほどなるほど。勉強になります」


 あっぶね……! 思わず何も考えずに受け答えしちゃったけど、パリピって言葉がダークエルフの国へ伝わっちゃったらどうしよう……!?


 焦りながら、どうかパリピという言葉を忘れてくれますようになんて心の中で願っている最中、ベルがふくれっ面を浮かべながら、会話に割って入った。


「もー。そんな話どーでもいーじゃん! 交易の話するんでしょー?」

「ああ、そうだったな。悪い悪い」

「ぶー。タックンもイックンも仲良くしちゃってさー……」


 拗ねてしまったベルをなだめつつ、オレは改めて本題へ入ることにした。


「それで、二人からあらかた話は伝わっているかと思うんだけど」

「ええ。伺っております。結論から申しますと、長老会は全員一致でこちらとの交易に賛成されました」

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