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83.交渉と使者

 交易にオレはついていっちゃダメって……。仲間はずれとか酷くないか?


「何を仰っているのですか、タスクさん。領主ともあろうお方が、軽々しく他の土地へ向かうなどあり得ませんよ?」

「そうそう♪ オマケにタックンってば、男爵じゃん? 初めて会う相手にエライ人自ら出向くとか、メッチャなめられるよ?」

「いや、でもさ……。これから交易をお願いする相手なら、オレが出向くのが礼儀じゃないの?」

「むしろ、こちらの世界でそれは非常識ですよ。足下を見られて、買い叩かれるのがオチですね」


 うーむ、散々な言われよう。何だよー、せっかく他の土地へ行けるってワクワクしてたのになあ。


「そんなにガッカリなさらないでください。今はダメでも、後ほど出向く機会が訪れますよ」

「ウンっ☆ いつでもタックンが遊びに行けるよう、バッチシ話しとくから★」


 ……結局、ダークエルフの国へはアルフレッドとベルの二人が使者として赴くことになり、出発は翌日ということになった。


 領内で交易する品物をギルドと国へ申請するため、アルフレッドは一旦龍人族の国へと戻っていく。交易自体は領主の権限で自由に行えるものの、得た利益の一部は税として納めなければならないそうだ。


 領主が私腹を肥やすなど、不正な会計処理が行われないための措置らしいが……。財務に関してはまだまだ勉強中なので、アルフレッドに任せておく。


 今回、交易品として交渉に持って行くものは、サツマイモとスパゲティコーン、それに新たに作成した調味料『ハーブソルト』の三点になる。


 なぜ『ハーブソルト』を作ったのか。それは薬草や塩、香辛料を使った料理が多いにも関わらず、この世界に『ハーブソルト』がなかったからだ。


 というわけで、リアやエリーゼと相談しながら、料理に使う薬草や香辛料を乾燥させて砕き、塩と混ぜ合わせてから袋へ詰め込んだ。


 肉料理やスープ、野菜炒めなど、振りかけるだけで美味しくなる上、身体にも良い。至ってシンプルな調味料にも関わらず、みんなはいたく気に入った様子なので、これも商品になるのではと考えたわけだ。


 とはいっても、いきなり商品を持ち込んだところで、すぐに交渉は成立しないだろう。今回はそれらを紹介するだけでもいいかと、アルフレッドとベルの二人にはサンプル程度の量を預け、別途、手土産として焼き菓子も預けることに。


 ちなみに、ここからダークエルフの国の中央部までは、徒歩で五日間かかるそうだ。随分遠いなと思っていたものの、行きはアルフレッドがドラゴンに姿を変え、近くまで飛んでいくとのことで、半日程度の時間で到着するらしい。


 それなら比較的早くに戻れるのかと安心していたんだけど、どうやら帰りは読めないみたいだ。


「今回は挨拶程度で済ませるつもりですが、長老会の出方も探りたいので、できれば少しの間滞在させてもらえたら」

「長老会?」

「はい、ダークエルフの国は、それぞれの部族の長老たちが集まり、評議会を開いて国の運営方針を決定しておりまして」


 なるほど、交易が上手くいくかどうかは長老たち次第って事か。


「もし、先方から誰かが同行するとなれば、僕もドラゴンの姿で帰るわけにはいきませんので……」

「そりゃそうだな、ビックリさせるわけにはいかないからなあ」


 初めてここにアルフレッドが飛んできた際、ドラゴンに気圧されたベルとエリーゼが家に閉じこもっていたことを思いだし、オレは肩をすくめた。


「で? 大体どのぐらいかかりそうだ?」

「そうですね。早ければ十日、長くとも二週間見ていただければ」


 恐縮したように応じるアルフレッド。十日か……、十日もベルに会えないのは寂しいなと、ぼんやりそんなことを考えていると、龍人族の商人は苦笑いを浮かべた。


「まったく、新婚のタスクさんには申し訳ない限りです」

「なっ! い、いやいや! これも大事なことだからな、仕方ないよ、ウン!」

「ご心配でしょうが、ベルさんのことは僕にお任せ下さい」

「……ああ。頼りにしてるよ、アルフレッド」


 アルフレッドと握手を交わしていると、陽気に歌を口ずさみながらベルが家の階段を降りてくる。


「アルっち、準備できた?」

「ええ、こちらは万全ですよベルさん。先に外へ出てますので、どうぞごゆっくり」


 思わせぶりな言葉を残し玄関を出て行くアルフレッド。……まったく、余計な気を使うなっての。


「あれ? ベル、その手に持ってるのは何だ?」

「ん? あぁ、コレ? ウチがここで作った服っしょ♪」


 両手に抱えた衣類を一枚広げ、自ら「じゃじゃーん☆」という効果音を発し、ベルは笑顔を浮かべる。


「ここに来てからサー、インスピレーション湧きまくりのテンションぶち上げって感じで、色んなデザインの服作ったじゃん? 国のみんなに見てもらおーかなって★」

「そっか。成長したところ、見せつけてこいよな?」

「もちもちっ! ……あとねぇ?」


 褐色の肌が美しい長身のダークエルフは不意に顔を寄せ、オレの唇に自分の唇を重ねた。


「素敵なダンナ様ができたよって、いっぱいいーっぱい、自慢してくんねっ?」

「……ああ。存分に惚気けてこい!」


 赤面した顔に照れ笑いを浮かべ、ベルは外へ駆けだしていく。


 あいつにとっては生まれ故郷への里帰りにしか過ぎないのだろうけど、それでもオレは旅路の無事を心から祈るのだった。


***


 二人がダークエルフの国へ出発して、早くも一週間が経過した。


 その間、ここでは何をやっていたかというと、アルフレッドの助言通り、防壁作りに着手し始めている。


 まずは住宅地に近い東側から始めようと、水路の始点近くに資材を運び、作業へと取り掛かった。


 防壁の設計に関しては、建築のノウハウがある翼人族と相談しつつ、実際の製作には召喚士が力を発揮してくれる。家作りでお馴染み、ゴーレムという力強い労働力のお陰で、高さのある頑丈な防壁が安全に作れるのはありがたい。


「ヒマじゃのー……」


 作業している横で大あくびをする人物がひとり。切り拓かれてない所の多い樹海での作業ということで、魔獣や猛獣対策に、アイラへ護衛を頼んだんだけど……。


「タスクー。タスクやー、やることがないぞー?」


 人出が多いせいか、それとも他に原因があるのかはわからないが、その手の類いは一切姿を見せないのだ。


「油断するなよ? 不意を突かれて襲いかかられるなんてことがないようにな」

「そんなこと言われてものぅ?」


 尻尾をだらんと下げたアイラは、眠そうな目をこすりながら、再びあくびをしてみせた。


「この私が油断とかするわけないしの? むしろ、退屈で眠ってしまわぬかが心配なのじゃ」

「そんなに退屈なら、防壁作りを手伝ってもいいんだぞ?」

「何を言うか。護衛というしっかりした役割があるというのに、他の作業へうつつを抜かすわけにはいかんであろう?」


 ……まったく、ああいえばこういう。要は構って欲しいだけなんだな……。


「それにしても、じゃ」

「うん?」

「ベルとアルのことじゃ。出発して以来、連絡ひとつもよこさんからな。流石に気がかりじゃの」


 そう言って、アイラは遠く東の方角へ視線を向ける。……そうだな、こういう時にスマホやメッセージアプリみたいな通信手段があればって心から思うよ。


 魔法でなんとか近いものが作れないだろうか? 今度、ソフィアやグレイスに相談してみようなんて考えていると、アイラの猫耳がぴんと上を向くのがわかった。


「どうした?」

「静かに……。何かが近付いている」


 もはやアイラの瞳には眠気の欠片すら感じられず、樹海の中へ射貫くような眼差しを向けている。


「動物っぽいの。魔獣ではなさそうじゃが……」

「大丈夫か?」

「問題ない。少し下がっておれ」


 瞬時に手の爪が長く伸び、鋭い刃物へと姿を変える。臨戦態勢を整えつつあるアイラだが、ふと、何かを聞き取ったのか耳をピクピクと動かした。


 と、同時に、アイラは気の抜けた表情へ変わり、鋭く伸びた爪を元に戻していく。


「ど、どうした?」

「なに、心配いらん。噂をすれば、というやつじゃ」


 アイラが呟いた後、東側の森の中から聞き慣れた声が響いてくるのがわかった。


「お~~~~~~いっ! タック~~~~ンっ! アイラっち~~~~~!」


 徐々に近付いてくる声と、それ以上に大きな足音。呼びかけてくる方向へ視線を走らせると、そこには巨大な動物にまたがり、片手をブンブン振っているベルの姿が見えた。

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