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75.ラーメンお披露目会

「ほう。ラーメン、ですか?」


 鶏ガラと鶏肉、卵を手に入れようと鶏舎へやってきたのだが、そこには飼育を担当するワーウルフのガイアだけでなく、翼人族のロルフも居合わせていた。


 お菓子作りで使うための卵を入手しにきたそうで、偶然タイミングが重なったロルフは、興味深げな様子で未知の料理について問い尋ねる。


「ラーメンとはどのような料理なのですか?」

「ああ、オレが元いた世界の麺料理なんだけど。熱いスープに茹でた手打ち麺が入っていて、その上に色んな具材を乗せるんだ」

「なるほどなるほど。して、我々もそれを食べることができるのですか?」

「へ? ……あ、ああ。興味があるならロルフたちの分も作るよ」


 やがて捌いた鶏肉などを用意してくれたガイアがそこへ加わった。


「タスク殿。これでよろしいですかな?」

「ああ、ありがとうガイア。助かるよ」

「しかしなんですな。話を伺っていましたが、そのラーメンとやらには、筋肉を作る要素が不足している様子」


 ほとんど炭水化物だしなあ、ラーメンって。糖と脂で出来てる料理の代表格みたいなもんだし。ハイカロリーなものは、それだけ美味しいんだよねえ。


「我らマッチョ道を追求する者にとっては、非常に罪深い食べ物といえましょう」

「そうかもしれないなあ。せっかく材料を用意してもらったってのに悪いね」

「何を仰いますか、タスク殿。主のご要望にお応えしてこそ、真のマッスルですからな」

「ゴメン、ちょっと何言ってるかわかんない」

「ハハハ! どうかお気になさらず! マッチョ道にふさわしい食材を、ラーメンとやらに追加していただければ問題ない話ですので」


 ……え? 話の内容が全然見えないんだけど。


「エビですぞ、エビ。何のためにロングテールシュリンプを養殖なさっておられるのですか、タスク殿。こういう時に食材を追加するためではないのですか?」

「……たぶん、違うと思うけど。……えっと、とにかくガイアたちもラーメン食べるって事でいいんだよね?」

「無論です! いやはや、我が主の手料理、実に楽しみですなあ!!」


 ガイアとロルフの高らかな笑い声を背に受けつつ、オレはその場を後にした。何だか、用意しなければいけない量がかなり多くなっていく気がするんだけど……。


 いやいや、深くは考えないようにしよう。次に向かうのは畑である。麺用の『遙麦』と野菜類を手に入れなければ。


***


 野菜畑では即売会から帰宅したエリーゼが、数日ぶりの畑仕事に精を出していた。


「ラーメン、またお作りになるんですね」

「うん。とはいっても、スープ作りだけで一日は掛かるから、食べられるのは明日になるけどさ」

「でしたら、ワタシもお手伝いします!」


 ニッコリと優しく微笑んだエリーゼは、様々な野菜をカゴへと用意してくれる。


「ありがとう、助かるよ。今回は食べたいって人が多くてさ、作る量を増やさないといけなくて」

「いいじゃないですか。みんなで食べた方が、ごはんは美味しいですよ」

「なになにぃ? たぁくんとエリエリ、二人で何の悪巧みしてるのぉ?」


 そこへやってきたのはソフィアとグレイスだった。農作業をやっているにも関わらず、そんなことはお構いなしと、ソフィアは今日もフルメイクを決め込んでいる。この徹底ぶりはある意味尊敬するわ、ホント。


「悪巧みじゃないって。ちょっとラーメンを作ろうと思ってさ、手伝いを頼んでたんだ」

「ラーメン?」

「はて? 存じ上げませんが……。どんなものなのですか、タスク様?」


 ということで、ここでも魔道士相手に、オレの故郷である日本食で麺料理だということをレクチャーすることになり。


 その結果、好奇心で瞳を輝かせる二人から、当然のようにこんな要望を受けることになったのでした。


「それでぇ……。モチロン、アタシたちの分のラーメンも作ってくれるんでしょ?」

「未知なる料理との出会いは、常に学術的好奇心を刺激されるものです。タスク様の故郷の料理となればなおさらのこと」


 ……デスヨネー。作らなきゃいけないよねー、二人の分も。


 ま、ソフィアとグレイスが増えるだけなら大したことないか、なんて思っていたのも束の間、農作業に勤しむ魔道士たちはしっかりと聞き耳を立てていたらしく。


 私も私も! なんてリクエストが次々に飛び込んできたものだから、さあ大変。ヤバイぞ、どれだけの量を作らなきゃいけないんだ……?


 軽い気持ちで始めたラーメン作りが、段々と収拾がつかなくなってきたことに怯えながらも、オレは準備のため集会所へ足を運ぶのだった。


***


 集会所のキッチンに寸胴鍋を用意していると、一緒に支度をしてくれる二人が、物珍しそうに内部をキョロキョロ見渡している。


「とりあえずスープ作りから始めようと思うんだ。二人ともお願いできるかな?」

「りょ~☆ まっかせて!」

「はいっ! ボクもガンバリます!」


 ここへ来る途中、自宅の前でベルとリアに偶然出会ったので、事情を説明。大人数の料理を作ることが大変だと思ってくれたのか、手伝いを申し出てくれたのだ。


 後ほどエリーゼが合流するが、正直助かる。軽く見積もって、六十人前のラーメンを作らなければならないのだ。人手が多いに越したことはない。


 とにもかくにもスープ作りから始めることに。念願の鶏ガラが使えることで、前作ったものよりきっと美味しい物が出来るはずだ。


 寸胴に鶏ガラ、ショウガ、長ネギ、タマネギ、にんじん、そのほか諸々の野菜類をとにかく突っ込む。そして水から煮出して、旨みをジックリ引き出すわけだが。


 ベルもリアも料理は不慣れなのか、おっかなびっくりといった様子で、寸胴鍋と向かい合っている。鍋にぶち込んで煮るだけなので、任せておいて大丈夫だと思っていたんだけど……。


「た、タスクさん……。すごく大っきいですけど、本当にこのまま入れちゃうんですか?」

「うん。心配しなくて大丈夫だよ」

「ねえねえ、タックン。こんなにたくさん、入りきるの?」

「問題ないって、いっぱい入れた方が良くなるから」

「あ、ヤダヤダっ。溢れちゃう溢れちゃう!」

「おっと、注ぎすぎたかな? 大丈夫?」


 ……と、それぞれの発言に注釈を加えなければ、お前ら何してんだよっていう勘違いされても仕方ないような、危なっかしい会話が繰り広げられておりまして。


 うーん、時間の掛かりそうな麺作りより、二人を手伝った方がいいかなあなんて、そんなことを思った、その瞬間。キッチンへ飛び込んでくる人影が。


「あ、アンタっ!! リアちゃん連れ込んで、三人でナニしようとしてるのよっ!!」


 顔を真っ赤にしたクラーラが、お約束通りのセリフと共に乱入したかと思いきや、瞬時に呆気にとられた表情へ切り替わり。


 なんて素晴らしい様式美の展開なんだと軽い感動を覚えつつ、オレはラーメン作りの手伝いをこのサキュバスにも頼むことにしたのだった。


***


「まったく……。紛らわしいことしないでよねっ!」


 ブツブツと文句をこぼしながらも、言われたとおりに、しっかり寸胴鍋を見守るクラーラ。人の良さが垣間見えるな。


「ご期待に添えなくて悪かったな」

「ウルサイ!」

「なんじゃなんじゃ? 騒がしいのぉ?」


 顔を出したのは、貝を採り終わったアイラと農作業を終えたエリーゼで、オレは受け取った貝を綺麗に洗ってから、寸胴鍋に放り込んだ。


「しかし、なんじゃな。ものすごい量を作っておるが……。おぬし、店でも始めるのかえ?」

「そんなつもりは一切ないんだけどな……。成り行きで領地にいる全員分のラーメン作ることになっちゃって。あ、クラーラ、今日も泊まっていくだろ?」


 予想していなかった質問に不意を突かれたのか、クラーラは一瞬たじろいだようにも見える。


「……なんでよ?」

「ラーメン食べられるのって明日なんだよ。お前の分もあるから食べて行けって」

「いいわよ、私は……」

「いいのか? リアの手料理だぞ?」

「う……」


 麺生地を捏ね合わせている手を止め、リアはクラーラへ向き直った。うっすら額に汗を浮かべながらも、穏やかな微笑みを浮かべている。


「……わかったわよ、食べてく。食べていけばいいんでしょ?」


 そっぽを向くように、再び寸胴鍋へ視線を戻すクラーラを見やりながら、リアはクスクスとおかしそうに笑い、オレは軽く肩をすくめた。まったく、素直じゃないなあ。


 何はともあれ、だ。結果としてハチャメチャな量を準備することになってしまったが、これもみんなに日本食を知ってもらういい機会である。


 みんなの作る料理の種類が増えれば、その内、この領地でも当たり前のように日本食が食べられる環境が整うかも知れないしね。


 そのためにもまずは明日、期待に応えられるようなラーメンを作らないとな。


***


 翌日。


 覚悟していたとはいえ、六十人分以上のラーメンの調理は予想以上に地獄だった。奥さん方が手伝ってくれてたとはいえ、一度に押し寄せる人数が十人単位だと流石にキツい。


 広々としたキッチンでも、一回で茹でられる麺の量も限界があるしなあ。おかわりまで出る始末だし。いや、気に入ってもらえたなら嬉しいんだけどさ。集会所のお披露目会が、食事会になっちゃったな。


 あ、ちなみに、今回のラーメンは鶏ガラベースの塩味で、具材は茹でたほうれん草とキャベツにロングテールシュリンプ、鳥チャーシュー、ゆで卵という豪華なものになりました。いやはや、えらく進歩したもんだなあ。


「うむ! 前回のラーメンも旨かったが……。今回のは段違いに旨いの、タスク!」


 ……いつの間にか、手伝いを放棄したアイラがラーメン食べてるし。まあ、いいか。リアもクラーラも嬉しそうな表情でラーメン食べてるし、一旦休憩もいいだろう。


(しかし、こんな豪華な食材を普通に使えるようになったのも、ここにいるみんなのお陰なんだよな……)


 一様に美味しそうな顔でラーメンを口元へと運んでいるみんなの顔を眺めながら、オレはふとそんなことを考えた。

 

 アイラやベル、エリーゼだけでなく、ワーウルフ、魔道士、翼人族、それにリアとクラーラ、アルフレッドにジークフリート、ゲオルク……。


 みんなの助けがあってこそ、オレはこの世界でも生きていくことができているわけで、そのことに改めて感謝しなければ。


 その恩を返すためにも、そして、みんなの生活を守っていくためにも、今まで以上にしっかりと領主としての務めを果たしていこう。


 達成感と疲労感を全身に覚えながらも、オレは決意を新たにするのだった。

***

いつもお読みいただきありがとうございます!


土曜日、日曜日はお休みさせていただきます。

週明けに更新を再開する予定です。


引き続き、よろしくお願いいたします!


※2月8日(土)追記

本文の内容、一部修正いたしました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ、貝はどこいった? というか砂抜きはいいの?
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