74.二つの施設。再びのラーメン作り。
リアがここへ遊びに来る際、都度、運び込んでいたのが様々な薬草と植物の類いだった。
応急薬程度はアルフレッドに頼んで購入していたのだが。考えてみれば、かなりの人数がこの領地で暮らしているというのに、病院や薬局などを未だに整備できていない状況だ。
衣食住を優先するあまり、その配慮が足りていなかったことを反省しつつ、リアへ相談を持ちかけたところ、施設さえあれば薬が作れるということだったので、専用の建物を我が家の西隣へ建てることにしたのだ。
そうして作られたのが『薬学研究所』である。木材と石材を組み合わせて作った、二階建ての建物で、内装や設備についてはリアだけでなく、クラーラの意見も取り入れながら用意することにした。
仮に、クラーラがこの領地で暮らすことになるんだったら、この施設で生活が出来るようにと思ってのことだったのだが。出来上がる前から、私物を運び込みつつ泊まり込んでいたので、どうやら正解だったようだ。
「ていうかさ。アンタのそれ、一体何なの?」
まるでブロックのオモチャを組み立てるように、資材を構築しながら、建築作業を進めていく能力を不思議に思ったらしい。
荷物を整理しながら不審そうな視線を送るクラーラへ、オレは得意げに木材と石材を組み合わせてみせた。
「スゴイだろ。構築っていう能力なんだけど、こうするだけで、資材同士がくっついたり離れたりするんだ」
「気持ち悪っ! 聞いたことないわよ、そんな能力」
「気持ち悪いってことないだろ? こんなに便利な能力を」
そこへ加わったのはリアである。
「そうだよ、クラーラ。ボクたちが大好きなイチゴだって、タスクさんのこの能力で生まれた作物なんだからね」
「むぅ、リアちゃんまでそんなことを……」
「いや、待て。リアがイチゴ好きなのは知っていたが、お前もイチゴ好きだったのか?」
初耳の話を意外に思っていると、クラーラは焦ったように否定した。
「べ、別にっ! す、好きじゃないわよ!」
「えー。でも、ボクが初めてイチゴを貰った時、お裾分けにいったら、あんなに喜んで食べてたじゃないか」
「それはリアちゃんが持ってきてくれたからっ!」
「……あれ? そういえば確か……」
クラーラが子供の姿でここへ来た際に、イチゴのケーキを出した瞬間、すごく暗い顔をしていたような……。好物だったらそんな顔しなくてもいいのにな。
ふと、思い出したことを話している最中だった。顔を真っ赤にしたクラーラがオレの腕を掴み、強引に部屋の隅へと連れて行く。
そして、リアには聞こえないような小声で呟いた。
「リアちゃんが結婚する元凶になった果物なのに、素直に好きとか言えるわけないじゃないっ!」
「まあまあ、そう言うなって。そんなに好きなら、いくらでも食べさせてやるから」
「だからそういうのじゃないって……!」
「……ふたりで何話してるの?」
キョトンとした顔のリアへ事情を説明しようとしたところ、クラーラが必要以上に大きな声でこんなことを言い始めた。
「あのね、リアちゃん! この人がイチゴ以上に美味しい果物をまた生み出してくれるって!」
「おい、オレはそんなことを一言も……」
「本当ですか、タスクさん!?」
「いや、だから、オレはそんなこと」
「ホント、楽しみね! リアちゃんのために頑張るって言ってたもの!」
……ものすごく荒っぽい方法で話題を逸らされてしまったが、キラキラと期待の眼差しを向けるリアを見てしまうと何も言えなくなる。
とはいえ、これから秋を迎えるにあたり、作物の種類と収穫量を増やし、冬に備えておかなければいけないのも事実なのだ。そろそろ『遙麦』『七色糖』『イチゴ』に続く、新種を用意しておきたいところである。
そんなわけで、薬学研究所を作り終えて早々、リアとクラーラを交えつつ、作物の種の構築に取り掛かることにした。
以前、ソフィアやグレイスと一緒に合成を行った時は、適当に選んだ作物の種子を構築した結果、偶然イチゴが出来上がったのだが。
実りの秋、新米を食べたくなってしまうのが日本人というものなのだ。というわけで、今回は、米が出来上がる確率を少しでも上げようと、穀物と野菜の種子を組み合わせることに。
狙って米の種子が出来たら苦労はしないのだが、様々なパターンを試し、大小合わせて六種類の種子を作り出すことに成功した。
あとは実際に育つのを待つだけ、なんだけど……。この結果についての話は、また別の機会に。
***
話題を変えよう。『集会所』についてだ。
みんなと話し合いをする際は、毎回、オレの家に集まってもらっていたのだが。リビングは手狭な上、奥さんたちが寛いでいる時もあり、いっそのこと、会議スペースみたいなものを作ったほうがいいのではないかと考えたのだ。
どうせなら、大人数を収容しても問題ないような施設を作るのもいいかもしれない。そんな思いから、家の東隣へ『集会所』を建てることにしたのである。
こちらも薬学研究所と同じく、木材と石材を組み合わせた二階建ての建物だが、大きく異なるのはその間取りだ。
一階部分は大きなイベントスペースにテーブルと椅子が並べられ、その奥にはキッチンが設けられている。食事を兼ねたミーティングができるような設計である。
二階部分は会議室を二部屋設け、残りのスペースは倉庫にした。大人数なら一階で、少人数なら二階でと、用途に合わせて使えばいい。
それにしても……。我ながら、日を追うごとに建築技術が上がっている気がするな。実際問題、集会所の内部なんか自分の家よりこだわってるし、引っ越した方がいいんじゃないかと思うぐらいだ。
そんなに使わないであろうキッチンも広々としてキレイだし。このまま料理を作らない状態で放っておくなんて、実にもったいない。
ムクムクと湧き上がる欲望を抑えきれず、オレはこの立派なキッチンを活用できるような料理を作ることにした。
そう、久しぶりに作るラーメンである。
***
まずはスープ作りだなと、材料となる貝類を手に入れるため海へ足を運んでいる時だった。
「……む、タスクではないか。どこに行くんじゃ?」
ひなたぼっこをしていたのか、アイラは大きなあくびをひとつしてから、ぴょこぴょこと猫耳を動かしている。
「ああ。ちょっと浜辺にな」
「浜辺? 漁でもするのかえ?」
「違う違う。久しぶりにラーメンを作ろうと思ってさ。スープの材料になる貝を採ろうと」
「なに、ラーメンじゃと!?」
尻尾をピンと伸ばしたアイラは、興奮気味に続けた。
「あの料理は実に絶品じゃった! また食べられるとは嬉しい限りじゃ」
「食べたいなら少しは手伝えよ?」
「む……。私は料理などできんぞ?」
「じゃあ貝集めを頼むわ。オレ、別の材料を集めるからさ」
「面倒じゃの……」
「……そんなことをいいつつも、優しくて頼りになるからなあ、オレの奥さんは。きっと、ものすごい量の貝を集めてきてくれるんだろうなあ」
我ながら、わざとらしいおだて方だなとは思ったものの、アイラはまんざらでもない表情を浮かべている。
「ま、まあ、そうじゃの。誰よりも頼りになる、おぬしの妻であるからな」
「そうだよなー。さすがはアイラ。惚れ直すわあ」
「ぬふふふふ~。大船に乗ったつもりでおるがよい! 影も形も残らないほど、貝を採り尽くしてくれようぞ!」
木桶を受け取ったアイラはそう言って、浜辺へ駆けだしていく。まだまだ貝類を味わいたいので、影も形も残らないのはカンベンしてもらいたいのだが。多分、大丈夫だろう。……うん、多分な。
一抹の不安を覚えながらも、次の材料を集めるため、オレは鶏舎へ足を向けた。




