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04.食料について

 高さ三メートル、幅三.五メートル、奥行き二.五メートル。急ごしらえで作り上げた、おおよそ六畳間に近い小屋の中で、オレは大きく息を吐いた。


「急いでいたとはいえ、どうせなら、もうちょっとカッコいい家を作りたかったなあ……」


 『ラボ』の世界では、初心者が最初の拠点として作り上げる、四角い小屋にドアをつけたものを「豆腐ハウス」と呼んでいるのだが。悲しくも全く同じものを作ってしまうとは、十年来にも及ぶヘビーユーザーの名折れである。


 構築(ビルド)の能力を駆使して作ったことで、木材と木材のつなぎ目が見えないことも、余計に豆腐感を覚えさせる一因なのだろう。何せ四角いだけだしな。


 とはいえ、現実問題、生きるか死ぬかに直面していたので贅沢はいってられないのだ。森の奥から小屋の中まで聞こえる、生き物たちの多種多様な鳴き声はやはり怖い。猛獣相手に生き延びる自信など無いからなあ。


 森を入ってすぐに水場を見つけた時は、そこの近くに拠点を作ろうかと一瞬悩んだものの、結局は草原で正解だったようだ、うん。


 それに、簡単な作りとはいえ、安全性や居住性はなかなかのモノだ。扉にはかんぬきを掛けて、外からの侵入者を防げるし。


 内部も内部で、丁寧に床板を敷き詰め、地面からの放射冷却を防いでいる。さらに、中心部分の床に穴を掘り、石材を敷き詰めて囲炉裏のようなものを作った。おかげで夜でも部屋の中が暖かい。


 壁の上部には小さい空気穴をいくつも開けてあるので、窒息する心配もない。初めての家作りにしては十分なんじゃないだろうか? いや、そう思うことにしよう。住めば都、というヤツだ。


「ま、不便に感じたら、改築していけばいいだけの話だしな」


 再構築(リビルド)構築(ビルド)の能力が使えるので、素材集めも苦にならないし、加工した素材は重みを感じないということも助かる。少しずつ改良していけばいい。


 そんなことを考えながら、家作りの最中、石鍋で沸かしておいた水と、樹木の伐採の時に入手した果実を交互に口元へ運んでいく。


 そう、家の改良より優先しなければならないのは食料を安定して確保することなのだ。今、オレが口にしている果実は、ゲーム中でも現実でも見たことが無いもので、形はミカンだけど、色は赤く、味もリンゴそのものという謎の果物だし。


 とりあえず名前がわからないから、「ミンゴ」と呼ぶことに決めたこの果実。どうやら、このあたりの森に自生しているようで、ある程度の数は手に入ったものの、せいぜい二日程度の食料にしかならないだろう。美味しいので、できれば大事に食べたいところなのだが……。


 だからといって、他に食べるものは無いわけで。とりあえず、夜が明けたら、遠くに見えた海まで足を伸ばして、魚貝類を入手しにいこうと決めたのだった。生きるためにはタンパク質や脂質も摂取しなきゃいけないしね。


「本当は肉を確保したいところなんだけどなあ」


 ……いや、わかってる。森に入り、動物を狩る。自然の中で暮らしていくなら、狩りをやらなければ生きていけないことぐらい。


 とはいえ、こちらは今日の今日までサラリーマンだったワケで。いきなり狩りなんぞできるわけがない。何度も言ってるけど、熊とか肉食獣が出たら終わりだしね。


 何事も、身の丈に合ったことから始めるのがいいのだ。それに、海があるなら塩も精製できる。調味料なしの食事を避けるためにも、併せて確保しておきたい。


 それと、もう一つ。昼間、雑草を切り取った際に入手した茶色い種。これは一体、何の種だろうか?

 ゲーム中だと、これを植えれば、三日三晩で小麦が育つんだけど……。


「どう見ても小麦の種子に見えないし。何だろうなあ、これ?」


 草原を拓く際、結構な数の種を手に入れたので、とにもかくにも、畑を作って育ててみようと思う。そのまま雑草が育つなら残念だけど、食料に変わるなら儲けもの程度に考えておこう。


 水に関しては水場があるから当面は大丈夫だと思う……けど。今後、長く使うとなると、干からびたりする可能性も否めない。衛生面は相変わらず心配だし。


 時間を見つけて川の探索もしないといけないな、とか、井戸を掘るのもいいかもな、とか、色々考え込んでいると、お腹も満たされたこともあってか、眠気が襲ってくるのがわかった。


 色々やらなきゃいけないことは山積みだけど、不思議と嫌な感じは無い。何というか、生きてるってことを実感しているというか。


 何はともあれ、明日のために英気を養わなければ。木材が敷き詰められた床に寝そべると、オレはまどろみゆく意識に身を任せることに決めた。


***


 ……あー、腰と背中が痛ってぇ……。布団も無しに板の間へ寝てれば、そりゃあ身体のあちこちが痛くなるよな……。


 ともあれ、おはようございます……。こちらの世界にきて、二日目の朝です。皆さんいかがお過ごしでしょうか? オレはといえば、昨日一日で精神的にも体力的にも疲れ果ててしまったらしく、珍しく夢も見ないで寝ておりました。


 うーん、目が覚めたら現実世界に戻ってるかと思ったけど、そういうことはなさそうだし、これはもう異世界転移確定ということでいいんじゃないだろうかな?


 起き抜けにそんなことを考えつつ、水と「ミンゴ」で朝食を済ませることに。壁に小さく開けた空気穴からはすっかり明るい光が入ってきていて、どうやら今日もお出かけ日和の一日になりそうだ。


 昨日は慌てふためいて、周囲をあまり気にしていなかったということもあり、草原の中心にある小屋から方角などを確認することに。


 昨夜、二つの太陽が沈んだ方角と、今現在の位置から把握していくと、どうやら方角はこのようになるらしい。


北……水場がある森。遠くに山岳地帯が見える。

東……森の右手。森林地域が延々と続いている。

西……森の左手。北側と同様、山岳地帯が見える。

南……家の周囲と同じような草原が続き、遠くに海が見える。


 ……もっとも、現実と同じく、太陽が東から昇って西へ沈めば、という前提条件があるわけだが。


「宇宙の法則を信じたいところだけど、すでに太陽が二つあるからなあ……」


 ま、あまり深く考えても仕方ないので、今日やることを取りかかることにする。まずは海にいって海産物と海水を入手しなければ!


 木材を構築して作った桶を両手に持ち、オレは遠くに見える海へ向かって歩きだした。

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― 新着の感想 ―
[一言] >現実と同じく、太陽が東から昇って西へ沈めば、という前提条件があるわけだが。 >宇宙の法則を信じたいところ  実際の話、太陽が登る方向に人間が「東」や「east」という名をつけて、沈む方…
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