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237.贈り物の試作

 二枚に分けて綴られた便箋は、フローラとの別れを惜しむ文面から始まったと思いきや、意外な展開をみせた。


 かいつまんでまとめると、「フローラのようないい子が暮らしている土地なのに、未だ税率は高いまま。あの子の生活を圧迫させているのは看過できない」そうだ。


 夫人会が総力を挙げて、重臣たちへ圧力をかけ続け、年内中にも税率引き下げを認めさせる方針を全員一致で決定したらしい。……マジっすか?


 以前と比べて三倍となっている税率を、二倍程度にまでは下げたいという決意表明まで掲げられていて、こちらとしては正直ありがたい話なんだけど、そこまでさせてしまうフローラの存在が恐ろしくもある。


 もう一点書かれていたのは、ここではお馴染みとなった、『日本式のこたつ』と『和菓子』を送って欲しいという依頼だ。


 フローラから話を聞かされたことで興味を持った、と。お安い御用である。お世話になっているお礼に、まとめて送ろうじゃないか。


 手紙の最後には、


「もしもファビアンがフローラを悲しませるようでしたら、『お前の(閲覧規制)』とお伝えくださいね」


 ……という、デンジャラスな一文が添えられていたけれど。内容からして本気っぽいのが怖いな……。


「どんな内容の手紙だったんだい?」


 爽やかな笑顔でファビアンが尋ねてきたけど、この一文だけは黙っておくとしよう、うん。


「今度とも連携を密に協力しあいましょうってさ。あとはここで作った品々に興味があるみたいだ」

「そうか。フローラも世話になったことだし、郵送の手配を整えないとね!」


 龍人族のイケメンはそう言って、白い歯を覗かせる。


 そういえば、夫人会がフローラを世話してた間、ファビアンは何をしてたんだ? アルフレッドからは、半ば放置に近い状態だったって聞いてたけど。


「フッフッフ……。よくぞ聞いてくれたね、タスク君っ! 優秀なボクは一秒たりとも時間を無駄にしないのさっ!」

「御託はいいから、何やってたか聞かせろって」

「おっと、焦ってはいけないよタスク君! 物事には順序というものがあるのだからっ!」


 立ち上がってはいちいちポージングを決めるファビアン。話が進まないからさっさとして欲しいんだけど。


 その後も長々と続いた話を省略すると、要はひとりの時間を利用して、新しい事業を始めたらしい。


 例のセクシーな形状をしたマンドラゴラを漬け込んだ、『マンドラゴラ酒』を振る舞う会員制のバーだそうで……。


 仄暗い店内の中、仮面を付けてお酒を楽しむという、話を聞けば聞くほど怪しさしか無い商売だけど。大丈夫? 健全なの、それ?


「問題ないよ。こういう商売は、多少のミステリアスが極上のエッセンスになるものだからね!」


 会員資格は一定以上の資産を持った人たちのみで、客のほとんどが上流階級か貴族。しかも当面の間、予約はいっぱい、と。


「こういう人たちは、常に新しい娯楽や刺激を求めるからね! 目論見通りと、そういうわけさ!」

「個人的には変な人たちがいっぱいいるなとしか思えないが……」


 ……ま、商売自体は上手くいっているようだし、うちで採れたマンドラゴラの販路も広がるから良しとするか。


 とにもかくにも、三人が無事に帰って来られたので一安心。


 お礼の意味も込めて、夫人会へ送る品々を急ぎ用意しなければ。


***


 そうそう。こたつの一件で思い出したけど、熱源となる魔法石作りは順調に進んでいる。


 グレイスが講師となり指導にあたった結果、猫人族たちは簡単な付与魔術を使えるまでに成長した。


 品質はそこそこだけれど、数は揃えられるということで、領地のみんなにもこたつが行き渡るよう、炎の魔法を閉じ込めた魔法石を作ってもらっている。


 夫人会へ送る分は流石に高品質のものでなければならないので、グレイスとソフィアに任せる。こたつ布団はベルのお手製だ。


 同様に、リクエストのあった和菓子作りにも着手したのだが。


 こちらの人たちの反応を見るに、あんこだらけの和菓子を送りつけるのはどうだろう?


 フローラが築き上げてくれた信頼関係が、あんこひとつでぶち壊しになるとかシャレにならないもんなあ……。


 そういったわけで、小さめのホットケーキを焼き上げ、その間にあんこと生クリームを挟んだ、『クリームどら焼き』っぽいものを作ってみることに。


 翼人族の菓子工房で試作を重ね、ロルフたちに意見を聞きながら、あんこと生クリームの割合を調整しつつ、『クリームどら焼き』は完成した。


 あんこが苦手だった翼人族たちにも非常に好評で、「これなら美味しく食べられます」という太鼓判をもらった。


 そもそもこれが和菓子かと問われてしまうと、答えに困るんだけどね。こっちの世界には和菓子なんてものは無いんだし、いいんじゃないかな?


 実際、あんこをあんなに受け付けなかったロルフですら、『どら焼き』をいたく気に入ったようで、


「カフェのメニューに加えるのもいいですね」


 なんて、嬉しいコメントを口にするぐらいだ。


「レシピ自体は簡単だし、何なら今すぐ作って定番メニューにすればいいじゃないか」

「それがそういうわけにもいかないのです。急ぎ作らなければならない焼き菓子があるもので」


 ロルフが後方の棚を指差すと、そこには木の実やドライフルーツなどが大量に陳列されているのがわかる。


「特注でも受けたのか?」

「タスク様、お忘れですか? もうすぐ年末なのです。年越し用のお菓子を用意しないと」


 今年は移住者が増えたので、たくさん作る必要があるのですよ。


 そう続けるロルフと翼人族たちの顔は、慌ただしくも嬉しそうで、工房内には熱気とお祭りの空気が漂っている。


 うーむ。どら焼きの試作をしている場合じゃなかったな……。知らず知らずのうちに邪魔をしてしまっていた。


 しかし、そうか、もう年末か……。時の流れは早いものだね。


 しみじみと感じ入りながら、試作で残ったどら焼きを奥さんたちのお土産にして、オレは家路についたのだった。

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