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232.立候補

 警察職務に就きたいと手を上げたのは、ワーウルフたち『黒い三連星』で、ぜひともお任せいただきたいと身を乗り出した。


「クラウス殿から聞きましたぞっ! 領地の治安を守るべく警察組織を結成するとっ! となれば適任は我ら以外におりませんなっ!」


 ガイアは高らかに宣言し、両脇のマッシュとオルテガは筋肉を誇示するようにポージングを取ってみせる。


「どうして適任だと思ったんだ?」

「タスク殿。我らが追求する『マッチョ道』は清く、正しく、そして美しくなければなりません。公明正大をモットーとする警察とも共通する点が多いかと!」


 ……果たしてそれは共通すると言えるのだろうか?


 甚だ疑問は残るものの、ガイアたちの確かな力量は疑いの余地もないんだよなあ。


「治安維持や犯罪の取締をするだけが任務じゃない。時と場合によっては優しさをもって人と接する必要もあるんだ。仕事としては困難だぞ?」

「困難であればあるほど、やりがいがあるというもの。ご命令いただければ、我々『黒い三連星』、命に代えましてもフライハイトの治安に務める所存っ」


 なんでも警察の職務へ就きたいあまり、新しく移住してきたハイエルフやダークエルフたちへ仕事の引き継ぎを終えたらしく。


 家畜の世話やエビの養殖も問題ありませんとガイアたちは胸を張る。用意周到すぎだろ、おい。


 ……とにかく。

 

 個人的には適任だと考えているので、警察組織の正式な発足まで任命は待ってもらうことに。


 三人だけで任務にあたるのも無理があるし、他にも候補者を探さなければ。


 スカウトはガイアたちにも任せることにして、スムーズな組織編成ができるように事前準備を整えておく。


 軍組織ではないとはいえ、ある程度の装備も必要になるし、早めに予算を確保しなければならない。


 財務を担当するアルフレッドが戻ってきたのはそれから数日が経過し、移住者たちの住居が完成してからのことだった。


***


 執務室へ姿を表した龍人族の商人は、グレイスを伴っての結婚報告が無事に終わった旨を切り出すと、諸事情あってファビアンたちの帰還が遅くなると付け加えた。


「諸事情って?」

「夫人会にフローラさんが捕まりまして……」


 そう言って、苦笑いを浮かべるアルフレッド。捕まったといっても悪い意味ではないようだ。


 ハーバリウムの講習会で顔をあわせていたこともあってか、控えめで気配りのできるフローラは、夫人会の面々に大層気に入られたらしい。


 滞在中、夫であるファビアンは放置され、フローラのみがお茶会やパーティに誘われる日々を送っているそうだ。


 もちろん、何かしら失礼があってはならないとハンスが同行しているというけれど。


「……ファビアンのやつ、いじけてなければいいけどな」

「大丈夫だと思いますよ? 彼は彼で展開している事業の指示などで忙しいみたいでしたからね。『戻る頃にはひと味もふた味も違う、新生ファビアンをお目にかけようじゃないかっ!』って息巻いてましたし」


 うーん、相変わらず意味がわからんけど、言っている姿だけは容易に想像できるのが不思議だ。


 とにもかくにも、夫人会のもてなしはもうしばらく続きそうとのことだ。ヴァイオレットが寂しがらなきゃいいけどな。


 あ、そうそう。アルフレッドはここの市場の宣伝もしておいてくれたそうだ。


 龍人族の商人仲間たちから取引の約束を取り付け、市場が開くタイミングで訪問してくれるらしい。ありがたい話だね。


「とはいえ、状況を鑑みるに、市場を開くのはもうしばらく後になりそうですね」


 カミラがまとめた、留守中の報告書に目を通しながらアルフレッドは呟く。


「ある程度の移住者は想定していましたが、腕利きの鍛冶職人までやって来てくれるのは予想外でした」

「本人たちから鍛冶工房を作ってほしいっていう要望も受けている。鉱石の仕入れも予算に入れてくれると助かるよ」

「承知しました。警察組織とあわせて早急にまとめましょう」


 それにしても……と付け加えて、トレードマークであるメガネを指で直しつつ、龍人族の商人は話を続けた。


「幸運と言わざるを得ませんね」

「なにが?」

「領地には妖精鉱石が保管されているではないですか。腕利きの鍛冶職人であれば加工もできるでしょう」

「あー……」

「妖精鉱石の武具は大変に高価で貴重ですし、あちこちから注文が殺到する人気の交易品になりますよ。良い収入源として期待できますね」


 不敵に微笑み、アルフレッドのメガネがキラリと光る。


 ははーん、これはあれだね? 「妖精鉱石で調理道具を依頼しました」なんて、とてもじゃないけど言い出せないやつだね?


 とりあえず、その場は黙ってやり過ごしておいたんだけど。


 後日、鍋を作るにあたっての相談に現れたランベールによって、妖精鉱石製の調理器具計画は見事に露見。


 アルフレッドからは本気(ガチ)の説教を食らい、クラウスからは爆笑され、オレは正座で反省の意を示すハメに。


 危うく全部の妖精鉱石を取り上げられるところだったけれど、せめてもの慈悲をと懇願し、鍋だけは作ることを認めてもらったのだった。


「いやぁ、面白い面白いとは思っていたけど、ここまで笑わせてくれるヤツだとは想像以上だったわ。貴重な鉱石で鍋作ろうとするんだもんあ……」


 ひとしきり笑い終えたクラウスからそんな言葉が発せられたものの、個人的には大変不本意である。


「失敬な! こっちは大真面目で鍋を作ろうと頼んだんだぞ!?」

「それがダメだといっているんです! いいですかタスクさん! そもそも妖精鉱石というものはですね――」


 ああ、またアルフレッドの説教が始まってしまった。三十歳過ぎてからのガチ説教は流石にツラい……。


 いい加減、足のしびれも限界だし、できれば早いところ解放されたいんだけど……。しばらくは厳しいかもなあ。

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