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221.結婚報告の波紋

 来たるべき三組の挙式を祝うべく、領民たちが準備に奔走している中、オレは黙々と住居作りに取り掛かっていた。


 領主邸の隣を整地して、二匹のミュコランと共に資材を運ぶ。建てているのはクラウス・ソフィア夫妻の新居である。


 先日、新婚夫婦のために新居を設ける旨をクラウスへ告げたところ、


「新居ぉ? いらねえよ、いまの家で十分だって」


 なんて具合に一旦は断られてしまったんだけど、職場と自宅を兼用するのは流石にいかがなものだろうかと。


 すでに住居があるアルフレッドとファビアンは問題ないけど、旧領主邸はボロボロだし、嫁さんのためにも新居ぐらいは建てさせてくれと、ハイエルフの前国王を説得することに。


「わかったよ。んじゃ、お前さんの家の隣に用意してくれや。メシも食いにいきやすいしよ!」


 ……お前、結婚してからも、ウチで食事を済ませるつもりなのか、おい?


 いや……。よくよく考えれば、クラウスもソフィアも生活能力なさそうだな。放っておくと酒とつまみだけの食生活になりそうだし、しばらくは強制的にウチで食事を摂らせよう。


 おっと、食生活の話題は置いておくとして。


 とにかく、日頃世話になっているクラウスの新居なのだ。ここはひとつ、気合を入れて構築(ビルド)に励むとしますかねと腕まくりをしていたところ、ハンスが一言、


「ひとつ申し上げておきますが、領主邸と同規模の邸宅作りはお止めください」


 と、釘を刺してくる始末。なんでだよ?


「クラウス様はハイエルフの前国王。いまでも影響力の大きい高名なお方ではありますが、フライハイトの領主はタスク様でございます。トップである領主と同等の家に住まうなど、あってはなりません」

「そんなこと気にしないけどなあ」

「お前さんが気にしなくても、周りが気にすんだっての」


 口を挟んだのはクラウスで、ハンスに続けて声を上げる。


「立場としては俺が下だからな。そういうところで格付けを示す必要があるんだよ。めんどくせえ話だとは思うだろうが、わかってくれや」


 首肯するハンス。そういうもんなのか……。いや、ホント、面倒な話だな、そりゃ。


 そのような事情から、クラウスの新居は二階建ての邸宅を設けることに。ソフィアの仕事部屋も用意して、領主邸以外でも原稿作業が進められるようにしておこう。


 ちぇっ、久しぶりにクラフト欲が満たせると思っていたんだけどなあ。思う存分、構築の能力を発揮できないのは残念だ。


 とにもかくにも。


 有力者たちの結婚報告はまたたく間に領内中へ知れ渡り、少なからず波紋を呼んだのだった。


***


「皆さん一斉に結婚なさるなんて、実に喜ばしいじゃないですか! お姉さま、私達も一緒に式を挙げましょうっ!!」


 叫ぶやいなや、クラーラの服を脱がしにかかるジゼルというのは、すっかりとお馴染みになった光景なのでいいとして(「黙って見てないで助けなさいよ!」って言われたけど)。


 同じ病院内で話を聞いていたマルレーネは「まあまあ。なんて素晴らしいのでしょう」と柔和な表情を浮かべたまま、


「では明るい新婚夫婦のため、触手プレ……んんっ! 特製の精力剤を作って差し上げないと」


 と、ほんわかした雰囲気でデンジャラス極まりないことを言うもんだから、必死に止めることに。めでたい時ぐらい触手プレイから離れていただきたいっ!


 一番の懸案事項だったファビアンとフローラの結婚については、ルーカスとヴァイオレットから話を聞いたことで解決した。


「領主殿はご存知無いでしょうが、ああ見えて、ファビアンは割と真面目なのですよ。ああいったアピールも、いわば一種のポーズに近いものだと思っていただければ」


 ルーカスはそう言うけど、オレとしては、単に情緒不安定なんじゃないかと疑いたくなってしまうわけで……。


「私もフローラからは変な話を聞かないな。普段はまともだということだし、旦那様が心配するようなことはないと思うぞ?」


 一抹の不安が頭をよぎる中、ヴァイオレットが付け加えた言葉でようやく納得することができたのだった。


 よく知るふたりがそこまで言うのなら問題は無いのだろう、きっと……。


 しかしながら、安心する間もなく問題というのは起きてしまうもので。


 執務室に現れたハンスから「挙式の招待状はいかがされますか?」と指摘されたことで、外部から客を招かなきゃいけないことに気付いたのである。


 そうだよな、みんな他の場所からこの土地に来たんだし、親しい知人や友人がいても不思議じゃないよな。


 そんなわけで、三組へ招待状について確認したところ、三組揃ってこのような言葉が返ってきた。


「いらない」


 即答っ!?


 いやいやいやいや。いらないってことはないでしょうよ。招待状だぞ? 祝ってほしい友人知人がいるんじゃないのか?


「だってぁ、アタシたち亡命してきたしぃ」


 口を開いたのはソフィアで、グレイスが補足する。


「魔導国から亡命した身とはいえ、罪状が消えたとも限りませんので……。下手をすると拘束される恐れも」


 なるほど、確かに。フローラも似たような立場だもんな。聞いたオレが悪かった。


「俺はほら、人気者だからよ。ウルトラ偉大な国王だったから、招待するのも大変なんだ」


 そう言って胸を張るのはクラウスで、


「敬われ、慕われることマジ半端ないっていうの? 招待状なんか千、二千じゃ済まないしさ、そうなるぐらいなら呼ばない方がいいっつーかな?」


 自信満々といった表情だけどさ。お前、ついこの間、正体がバレたところでちっとも騒がれなかったじゃんか……。


 まあいいや。……で? アルフレッドとファビアンは?


「僕は商人ギルドの面々に送りたいところですが、ここが騒がしくなるのは避けたいですしね」

「ボクもまったくもって同感だね! 穏やかなこの土地が雑音に包まれてしまう光景など美しくないだろう?」


 はあ、さいですか。とはいえ、奥さんのお披露目だけはしたいとのことで、ふたりとも後日夫婦揃って龍人族の国へ行くらしい。


 ふーむ。とはいえ、誰も招かないというのもちょっとなあ。お義父さん(ジークフリート)とゲオルク、それとイヴァンと、限られた人へ招待状を送るとするかな。


 ……と、そんなことを考えていた矢先。


 龍人族の国からジークフリートとゲオルクが揃って領地に姿を表した。

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