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118.ファビアン

 白い歯を見せつけるかの如く、高らかに宣言してみせるファビアン。


 お嬢さん(フロイライン)って言葉をリアルに聞くのは初めてだな。『銀河英雄伝説』ではお馴染みのフレーズなんだけど……って、そんなことを考えている場合じゃない!


「結婚? 結婚って……あの結婚だよな?」

「何を言っているのかよくわからないが、それ以外に何があるんだい?」

「そ、そうだよな……。え? 相手はヴァイオレットなのか?」


 その問いかけに、女騎士は焦ったような声を上げた。


「そんなわけないだろう!?」

「じゃあ誰なんだよ?」

「それは……」


 並び立つ、そばかす混じりの少女へ視線が集中する。……え? フローラ? フローラと結婚したいの?


「その通りさ、タスク君! 君にはこちらの可憐なフロイラインとの結婚を認めてもらいたいのだよ!」


 結婚する気まんまんというファビアンだが、フローラの方は困惑しきりといった表情で、いまいち乗り気でないように思える。


 というかさ。そもそもの話、なんでフローラと結婚するのにオレの許可が必要になるんだ?


「それはですね……」


 アルフレッドは紺色の髪をボリボリとかきながら、事情を説明してくれた。


 ヴァイオレットとフローラを受け入れる際、いち領民としてではなく、領主直属の配下として申請を出したそうだ。


 元帝国軍の指揮官クラスとその従者という立場上、普通の領民という扱いは良くないだろうという配慮からそうしたらしいんだけど。


 直属の配下となった場合、成人の儀式や結婚といった社会的儀式には、必ず領主の裁可が必要になると。うわ、超めんどくせえな!


「タスクさんだって、結婚の際には陛下から許可をもらってたじゃないですか。あれと同じですよ」


 そう言って肩をすくめるアルフレッドだけど、そんな記憶はない。


 強いて言うなら、来賓邸で将棋を指しながら、そろそろ身を固めたらうんたらかんたらみたいな話をジークフリートとしてたような……って、まさか。


「うぇっ!? もしかしてあれって王様からの許可だったのか!? お節介な親戚のオジサンが結婚勧めてくるノリみたいなやつだって思ってたんだけど……」

「……陛下が聞いたら泣きますよ、それ」

「あの……。話を戻してもいいだろうか?」


 ヴァイオレットはごほんとわざとらしく咳をつき、オレたちの視線と意識を引きつけた。


「とにかく、だ。一旦タスク殿と話し合われたらどうかということになり、ファビアン殿にご同行いただいたのだが……」


 って、言われてもなあ。結婚なんて当人同士で決めちゃえばいいんじゃないって感じだし、肝心なのは本人たちの気持ち次第だと思うんだけど。


 ま、立ち話もなんだし、場所を変えてゆっくり話し合おうと、来賓邸に足を向けた、ちょうどその時。薬草畑からリアとクラーラがこちらへ向かってくるのが見えた。


「あら、ヴァイオレットとフローラじゃない。いま帰ってきたとこ……」


 微笑みを浮かべるクラーラだったが、オレたちを視界へ捉えた瞬間、全身をピシッと硬直させてその場へ留まってしまう。


「……ど、どうして、ここに……?」


 見れば、並び立つリアも戸惑いの表情を浮かべている。どうしたんだろうかと不思議に思っていた矢先、耳をつんざくような声が響き渡った。


「おおっ!!!! 愛しの妹ではないかっ!!! 達者にやっているかっ!?」


 赤色の長髪をしたイケメンはそう声に出しながら、クラーラの元へ駆け寄っていく。


「お、お久しぶりです……。ファビアンお兄様……」

「堅苦しい挨拶など無用だよクラーラ。なぜなら僕たちはきょうだい! 血の絆で固く結ばれた、運命共同体なのだからねっ!!」


 クラーラの両手を取って、ブンブンと上下させるファビアン。嬉しそうなイケメンとは対称的に、クラーラは引きつった笑顔だ。


 あー……。なるほど、クラーラのお兄さんだったのか。そりゃあ突然現れたらビックリす……はあぁぁぁぁっ!? クラーラのお兄さんっ!? えっ? 兄がいたのっ!?


「異母きょうだいなんですよ……。ファビアン兄様とクラーラは」


 ふたりから抜け出すように、そっとこちらへ足を運んだリアが耳打ちする。


「え? じゃあ、どっちも父親はゲオルクなのか?」

「ええ。ゲオルクおじ様です」

「外見も性格も似てないと思うんだけど……」

「お母様が違いますからね」


 いや……、そんな一言で片付けられないぐらいの対極っぷりというかなんというか。お互い極端すぎやしないかね。


 しかし、言われてみれば何だな。ファビアンにはどことなくゲオルクの面影があるというか。


「あれ? もしかしてだけどさ。クラーラが言ってた、折り合いの悪い家族ってファビアンのことなのか?」


 その問いかけをリアは優しく否定する。


「とんでもない。ファビアン兄様はクラーラやボクを可愛がってくれた優しい方で」

「そうなのか?」

「ええ! 小さい頃からよく遊びへ連れて行ってくれた、頼りになるお兄様だったんです。特に、クラーラのことはいつも気にかけてくれていて」


 ……そういう割に、再会を喜んでいるのはファビアンだけのように思えるんだけど。クラーラなんて、めちゃくちゃ引いてる感じだしな。


 何はともあれだ。話がまったく進まないことだけは確かなので、リアとクラーラも来賓邸へ連れて行くことにしよう。詳しい話はそれからだな。


 事と次第によっては、結婚話より頭の痛くなるような話題へ発展しそうな予感がするけど……。気のせいにしておこう、うん。

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