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100.外灯球とロロとララ

 妖精たちとアイラが親密になったのは、しらたまとあんこ、二匹の功績によるところが大きい。


 ヒヨコのような外見のまま、いまや鶏サイズまで成長したミュコランの子供たちは、いつの間にか妖精たちの良き遊び相手になっていたらしい。


 ここで暮らすことになって早々、白色と黒色をした二匹の背中に乗って領地内を散歩するココたちを見かけるようになった。


 妖精たちは動物と意思疎通ができるそうで、みゅーみゅーという愛らしい声に合わせて、「ふんふん、なるほどねえ。わかるわあ」なんて話を交している光景も目に付く。


 気がつけば、しらたまとあんこが横になっているところへ妖精たちが身体を預け、一緒にお昼寝をしているなんて姿も当たり前になってきて、なかなかに微笑ましい。


 すっかり母親代わりになっているアイラも、その様子をまんざらでもなさそうに眺めやっている。ミュコランと意思疎通できるのはアイラも同様らしく、後で聞いたところ、


「妖精は自分たちの友達だから、仲良くしてくれといわれてしまってのぅ」


 ……ということを、しらたまとあんこから伝えられたそうだ。そうだよなあ、子供の友達を邪険にはできないよなあ。


 妖精たちも妖精たちで、しらたまとあんこから「お母さんと仲良くしてね」とお願いされたらしい。特にココに至っては、


「お母さんとケンカしちゃダメっていうのよ、あのコたち。レディの私がそんなことするわけないじゃない」


 ……なんて感じに念を押されたようで、ちょっとだけ拗ねていた。初対面の時にやり合ってたからな。二匹も心配したんだろう。


 とはいえ、しらたまとあんこ、グッジョブといわざるを得ない。見た目こそ可愛らしいものの、実にしっかりしていて頼もしいじゃないか。将来が実に楽しみだ。


 今日も今日とて、先導するアイラの後ろを白色と黒色をした二匹のミュコランが、背中に妖精たちを乗せながら、ぴょこぴょこと散歩に出かけていく。


 うんうん、仲良きことは美しきかな。実に平和でよろしい。……っと、そうそう。妖精たちが仲間に加わったことで、領地に新たな恩恵がもたらされたのだった。そのことについて報告しよう。


***


 それは街道の舗装作業の帰り道、見学という名の遊びに訪れていたココとの何気ない会話からもたらされた。


「やれやれ。日が落ちるのもすっかり早くなってきたなあ」


 太陽がふたつもあるというのに、日が昇るのも落ちるのも、ふたつとも同時というのはいかがなものだろう。せめて時間差を付けてくれたら、もう少し作業が出来るのになあと思いながら、オレは手持ちランタンに火を灯しつつ、仄暗い空を見上げた。


「自然現象に文句を言ったところでどうしようもないでしょう?」

「そりゃそうなんだけど」

「それなら外灯を用意したらいいじゃない。薪や木炭、樹脂だってたくさんあるのに、どうして外灯を作らないの?」


 ココの言葉にオレは思案を巡らせた。外灯なあ……。いや、作ること自体は何度も考えたんだよ。オレの能力を使えば樹木も早く生育することがわかったし、出来損ないとはいえ、魔法石もある。燃料もそれなりに備蓄はされているけどさ。


 異世界にきて初めて迎える冬だから、どのぐらい燃料を消費するかわからないところが心配なんだよね。領地には結構な人数が暮らしているし、足りなくなるようだったら困るだろ?


 樹海の中で木材には困らないけど、生木は燃えにくいし。それに、切り取った樹木の分、ある程度の植樹もしなきゃいけないけど、他にやることが多すぎて、そこまでオレの手が回らないからな。


 魔法石だって同じだ。ソフィアもグレイスも他に作業を抱えている。いちいち外灯用に光の魔法を入れてくれと頼むのも申し訳ない。


 そういったわけで、暗くなってからの移動は、各自、手持ちランタンを使うようにと、みんなには通達してあるのだ。


 とはいえ、外灯が設置されているのは龍人族の国と魔道国のごく一部だけだそうで、むしろ手持ちランタンが当たり前という地域がほとんどらしい。そういった事情もあり、みんなからの不満もなかったことが、外灯設置を後回しにしてもいいかという結論へ至らせたのだった。


「理由はわかったけれど……。やっぱり不便ねえ」

「ま、冬を越えたら考えるさ。春になったら、多少、手も空くだろうしな。燃料の消費量も少なくなるだろう? その頃に外灯を」

「いいわ。手を貸してあげる」

「はい?」


 ココはオレの言葉尻を遮って、ブツブツと何かを口にしながら、空中を軽く一回転してみせる。


 小柄な身体が弧を描いていくと同時に、弧の中心へ光の球が現れた。ほのかに青みがかった小さな光の球は徐々に大きくなっていき、ソフトボールぐらいにまでなったかと思いきや、まばゆく輝き始める。


「うわっ、眩しっ!」


 あまりの眩しさに片手で光を遮っていると、光は時間とともに穏やかなものへ変わっていく。恐る恐る手をどけた先には、暗闇の空へ高く浮かび上がる、先程の青い光球が見えた。


「ごめんなさい。驚かせてしまったわね」

「いや、大丈夫だけど……。これは一体?」

「見ての通りよ。私たちは『エスケープ・アバター』って呼んでるけど」


 なんでも、外敵に発見されたり、襲われるようなことがあった場合、妖精たちは瞬時に光の球を作り出し、相手を目くらませさせている間に逃げてしまうらしい。なるほど、逃亡用の分身とは上手いこといったもんだな。


「非常時用にしか使わない魔法だけど、いつでも使えることは使えるし、これなら外灯代わりになるんじゃない?」


 半径にしておよそ十五メートルを青白く照らしている光球を眺めやりながら、ココは満足そうに呟いた。


「この魔法ならマナもあまり使わないし。アナタさえ良ければ、これを使って領地の中を明るくできるわよ」

「マジか!? いや、それは是非お願いしたい!」

「わかったわ。それじゃあ、他の妖精たちにも協力するよう伝えておくわね」


 思わぬ申し出だけど、ものすごく助かる。この光球が領地内へいくつも浮かんでいれば、暗い夜道を歩くのも安心だ。薪や木炭といった燃料も消費しないしな。


「その代わりといってはなんだけど……」


 光球を感心の眼差しで眺めているオレに、ココは悪戯っぽく笑ってみせる。


「マナを補う分、花畑をもっと拡げてくれると嬉しいわ」

「わかったよ。優先して用意するさ」


 今でも十分な広さだとは思うけど、ま、持ちつ持たれつってやつだ。外灯代わりの照明を用意してくれるんだし、その労力には報いないとな。


 ……というわけで、領地の中は夜を迎えても明るい時間が続き、空中には色とりどりの光球が一定の間隔で浮かんでいる。教えてもらった『エスケープ・アバター』という名は呼びにくいので、ここでは『外灯球』と呼ぶことにした。


 妖精によって作り出す外灯球の色合いは違うらしく、冬の寒空に不釣り合いな暖かい色合いの下で、みんなが談笑する姿を見るようになった。夜になったら家に籠もりっきりというのも寂しいしな。その気持ちはよくわかる。


 ちなみに。縦百メートル、横三十メートルの花畑は合計三面になった。ここまで拡げると何かのテーマパークのように思えてくるな……。妖精たちは喜んでいるみたいだし、まあ、いいか。


***


 ココとほとんどの行動を共にしている、二体の妖精がいる。


 ひとり目の名前はロロといい、ライトイエローのショートカットをしている活発な妖精だ。人好きのする性格らしく、ココと別行動している時は、大体オレか奥さん方と一緒に居る。


「いやあ。エリーゼさんの淹れたハーブティーはホント美味しいッスねえ」


 なんて言いながら、エリーゼやリア、クラーラと共にお茶を楽しんでいる姿も珍しくない。


 で、このロロなんだけど、どうやら妖精鉱石を探す達人らしい。あちこちを飛び回っては「ここにあるッスよ~」という気軽なノリで、場所を教えてくれる。


 アルフレッドに聞いたところ、妖精鉱石ひとつで金貨二~三枚に相当し、そんな気軽なノリで扱っていいものじゃないことは確かなのだが……。


 とりあえず売却したらしたで、後々めんどくさそうになりそうなこともあり、当面は家の倉庫へ厳重に保管しておく。ゴールドラッシュじゃあるまいし、妖精鉱石目当ての奴らが押し寄せても困るだけだ。


 話を少し戻そう。もうひとりの妖精についてだ。ピンク色のロングヘアをした、のんびりとした性格の妖精で名前はララという。


 ココとロロ、それにララ。ブルー、イエロー、ピンクで性格も違う三人が揃うと魔法少女みたいだなとか、一瞬そんなことを考えたのはここだけの秘密だ。


 それはさておき。アクティブな二人とは違い、ララは大体の間眠ったままだ。リビングのテーブルの上で寝ている時もあれば、しらたまやあんこの背中に乗ったまま寝ている時もある。


 起きたら起きたで、寝ぼけ眼のまま、


「……。……お腹…………空いた……。…………果物……欲しい…………」


 と、これまたのんびりした口調で言うものなので、根気よく耳を傾けないといけない。不思議とベルやアイラとは気が合うらしく、肩に乗っている光景もたまに見かける。


 ララは気象について詳しく、翌日以降の天気について教えてくれる。


「……あした…………くもり……。……でも……夕方…………雨……降りそう…………」


 恐ろしいのは、こんなにのんびりした天気予報が百発百中で当たるのだ。そのお陰で作業計画も立てやすくなった。急な雨に降られて、慌てて洗濯物を取り込むなんてこともなくなったしな。


 頼りになる新たな仲間が加わったことで、開拓も更に進んでいく。ダークエルフの国へ向かう街道も間もなく開通といったところだ。


 そんなある日のこと。オレはリビングで休憩しながら、遊びに来ていたロロの話に耳を傾けていた。


「いやあ、でも助かったッスよー。マナが枯渇する直前だったんで、正直、危なかったっていうか……」


 なんでもロロは人間族の国で暮らしていたらしい。戦争の影響でマナを摂取できず困っていたところ、ココの呼びかけに応じて領地へやってきたそうだ。


「ずいぶん遠くからやってきたんだな」

「あー。妖精たちはみんなかなりの速さで移動できるんスよ。ビューンって。光の速さってやつッス」

「はー。そりゃすごいな」

「ま、滅多なことじゃない限り、そんなスピード出さないッスケドねえ。今回はあのままだと危険だったってこともあるんで」

「そんなに戦争は酷かったのか?」

「どこもかしこもボロボロッスよ。人間たちはなんであんなに争うッスかねえ? 自分にはわかんないッス」


 でもま、本格的に寒くなりますし、そろそろ戦争も終わるんじゃないッスかねと、ロロは続け、小さく作られたティーカップを手に取った。妖精用にと構築(ビルド)したものだが、好んで使ってくれているようだ。


 しかし、戦争かあ。確かに元いた世界でも冬場の戦争は悲惨以外の何物でもなかったし、世界が変わろうとも、それは同じだろう。第一、続けていればそれだけ国力も疲弊する。どこかしらで折り合いを付けなければいけないというのは、素人のオレでもよくわかる。


 それは商人のアルフレッドも同様らしく、商人ギルドの間でも、間もなく終結するだろうというのが大方の見方だそうだ。ま、そうだよな。


 ――そんな予想に反し、帝国と連合王国の戦争は終わる兆しを見せることもなく、事態は泥沼の様相を呈していくのだった。

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