第094話目―湖の下―
ふと、始祖の龍人は辺りに転がる調度品を手にする。それらは、僕が手にした時と同じようにすぐにボロボロと崩れて落ちていった。
「……時間が経てばなんでもこうなる。俺の言葉もこうなるべきだったのかも知れない」
その言葉に重みが感じられるのは、始祖の龍人が積み重ねた時間ゆえなのだろう。重ねた時間という背景がその言葉を重くするのだ。
「ぱぱとあの人でむつかしいお話して――へくちっ」
と、急にエキドナがくしゃみをした。
周囲が幾らか肌寒いから、気を抜くと風邪を引くかも知れない。
僕は取り合ず自分の上着をエキドナを被せると、あとは一旦この場所で暖を取ることにした。
「しゃむい……」
※※※※
火の近くで暖まり、すぴすぴ眠るエキドナの頭を一撫でしてから、僕は顔を上げて祭壇を眺めた。
すると、そんな僕を始祖の龍人がちらりと一度見て、
「……ついてこい。そこのお嬢さんは寝かせたままでいい」
と、そんなことを言いだした。
何かを企んでいるような雰囲気でもなかったので、僕は頷いて、始祖の龍人の後ろについていった。
歩くこと数分。
辿り着いた先にあったのは、大きな湖だった。
「ここは……」
「……俺はこの迷宮がまだ生きている頃、それこそ数えるのも面倒になるくらいの昔に産まれた。この迷宮には龍がいた。俺が龍人になってしまったのも、そういったことが要因だったのだとは思っている」
言って、始祖の龍人は湖の水面を数度叩いた。不思議な叩き方だった。ぽーん、ぽーん、と音が反響して――それと同時に湖の水が一気に引いていく。
「魔術か何か……ですか?」
「いや、これはここが迷宮であった頃に存在した仕掛けの名残だ。……直接的な罠のような仕掛けはもはや残っていないが、不思議なことに、この手の隠し部屋に繋がるタイプの一部の仕掛けは残っていたりする」
今の不思議な叩き方は、仕掛けを解く為のモノだったようだ。
そして、この湖には隠し部屋があるらしい。
僕と始祖の龍人は空になった湖に降り、その中心へと向かう。すると、地面に扉があった。始祖の龍人がそれを開けると、梯子がついていた。
「この下が目的地だ」
梯子を降りていった先が目的地とのことなので、気をつけながら降りていくことにした。
※※※※
梯子を降りたところで、僕は驚きで言葉を見失った。
そこには龍がいたのだ。
そして何やら始祖の龍人とも既知の間柄のようで、会話が始まった。
「やぁ久しぶりじゃないか」
「そうだなパスカル」
「もう君は消えているんじゃないかと心配していたよ」
「いつかは消えるのかも分からないが、今はまだ大丈夫そうだ。それよりお前も良く生きていたな。この迷宮が死んでから、魔物も餓死したりなんだりと、全て消えたと思っていたのだが」
「私は定期的に外に行っているからね。海に繋がる道がある。そこを通って魚を食べてるよ。……それで、そちらさんは誰だい?」
龍が僕を見て言う。すると、始祖の龍人が肩を竦めながら、
「……知り合いだ。それで、ここに隠していたものをくれてやろうと思ってな」
と、そう言った。




