第090話目―月照姫マルタ―
文章のおかしいところや、矛盾、話の流れが繋がらない所などは発見次第に修正します。
「ぱぱ、あのひとだれ?」
「知らない人だよ。……取り合えず、僕の後ろにいてね」
エキドナを後ろに置いて、僕は月――いや、その上に乗っている女と向かい合った。
「で、あんたは一体誰なワケ?」
月の上に座る女性が僕に問いかけて来た。
一体何者なのか、と。
けれど、それは、そっくりそのままお返ししたい。
「……人に聞く前に、まず自分から名乗るのが筋では? いきなり話しかけられて、『誰』と言われても、困ります」
僕がそう言い返すと、相手は、眼を細めてなんだか面白く無さそうな顔になった。しかしながらも、僕の言葉にも「一理ある」と言って、
「私はマルタ。……月照姫マルタ、なんて言い方をされることもあるけど」
どこかで聞いたような名だ。
どこで――そうだ、確か、僕たちが南進出来なかった原因を作った人物だ。
地形が変化するような戦いをしたとかいう、二人の人物のうちの片方だったハズ。
かなり強い人なのは間違いない。
怒らせるのは得策ではない。
「そうですか。僕はハロルドです」
「そう、ハロルド君。……ところで」
「ところで……?」
「私は追っている男がいるの。エドウィン。迷宮執エドウィン」
その名も聞いたことがある。
確かこの人と戦った人物の名だ。
「……どこにいるか知らない?」
「いえ、知りませんが」
変に駆け引きをする場面でもない。だから、僕は正直に伝えた。すると、マルタは爪をいじりだした。
「ふぅん。……ウソ言ってるようには見えないわね」
「ウソを言う必要がないので」
「ウソを言ったら殺してやろうと思ってたけど、本当の事を言っているなら、それは無し」
随分と過激な人物だ。
まぁでも、戦闘にならなかったのは良かった。
と、僕は安堵した。次の瞬間だ。波が大きく揺れ、船が大きく横揺れ縦揺れを繰り返して――横転した。
ばしゃん、と僕とエキドナは海の中に放り投げられる。
「ぱ、ぱぱ……」
エキドナは泳げないらしい。このままだと溺れてしまう。僕は慌ててエキドナを捕まえる。
「でも別人だったことに苛立ったのは事実だし、溜飲は下げたいトコロ。……ま、運が良ければ生き残れるっしょ」
マルタはそう言って、宙に浮かぶ月の高度を上げると、そのままどこかへ去って行った。
そして、それと同時に波が急に渦巻き、僕たちは吸い込まれていく。何をしたのかは分からないけれど、この現象は月照姫マルタが引き起こしたもののようだ。
魔術か何かの類だろうか?
いや、今はそんなことを考えるよりも、エキドナを離さないようにしないと――
――と、そこで、僕は意識を失った。
※※※※
「ここは……」
目が覚める。
僕は自分の掌を眺めつつ……ハッとした。
エキドナはどうなったのだろうか、と。
勢い良く飛び起きて、周囲を確認した。
すると、すぅすぅと寝息を立てるエキドナがいるのが見えた。
「……起きたか」
話しかけられた。見ると、焚き木をしている男性がいた。どうやら、僕とエキドナを助けてくれたらしい。
「……すみません。ありがとうございます。変な渦に呑まれてしまって」
「そうだな。海が慌ただしくなっていたな」
「……あの、ここはどこでしょうか」
「龍人の島の近くの島だ。ほれ、あそこに見えるのが龍人の島だ。で、あっちが港街だ」
近くにあった木の枝で、男性は二か所を指さす。
ここからでも見える距離に、龍人の島と港町が見えた。
僕は重ねて安堵する。変な人物に絡まれたのは不運だった。けれど、エキドナがこうして無事で、流れついた先がそこまで遠くでは無かったのは幸いだったからだ。
「……良かった。遠くに流されていたら、どうしようかと思っていまして」
「そうか」
「はい。……お礼をしたい所なのですが、今は手持ちがあまりないもので」
「気にするな。俺も久しぶりに人と会えて嬉しい。それだけで十分だ」
どうにも男性はこの島で一人で暮らをしているようで、他人と会う機会も少なく、話が出来ただけで十分お礼になっている、と言われた。
感謝の気持ちになりつつ男性を見やると、その肌に、鱗があるのが見えた。龍人だ。
「……どうした?」
「えっと……見た限りだと龍人ですよね? ……龍人の島には住まないのかなと」
「連中とは気が合わん」
だから、龍人の島には住まない、と男性は言った。
まぁ、同じ種族とは言え、絶対に仲良くなければならない、ということもないのだ。
こういった人物がいたとしても、別におかしい話ではない。一人で島暮らしというのは中々にインパクトが強いけれど……。
「……伝統、風習、言い伝え」
ふいに、龍人の男性がそんなことを言い始めた。
「そんなものを後生大事に抱えて生きる。……下らん」
あともうちょっとだけ龍人編は続きます。ごめんなさい。(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)




