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第089話目―違います―


 龍人――いや、広義には亜人そのものの産まれについての秘密にも迫っているこの話を、「冗談である」と切り捨てることは出来ない。


 辿って来た道のりを振り返って見れば、ありえないことではなかったからだ。


 例えば、西大陸に渡る為の船旅の中で知り合った、人魚の魔物であるアンナネルラ。彼女は、見ようによっては、新たな亜人たりえるかも知れない容貌ではあった。


 例えば、サルバードで出会った半人半魔の子たち。あの子たちは、人間と魔物の組み合わせで作られ、そして亜人に近しい容姿となっていた。


 天然の半人半魔が亜人である、というのは、可能性としては十二分にありえるのだ。


 これは覚えて置いた方が良い情報であるが……しかし、今すぐに考える事柄でもないのも確かである。

 今向き合うべきは、話の終盤に出て来た神の巫女とエキドナの関連についてなのだ。

 僕は亜人についての話をしっかりと記憶しつつも、この島に来た本来の目的であった神の巫女についての話を振ることにした。


「……神の巫女が、血を戻す、ですか」

「左様」

「一体どういう意味の言葉なんですか?」

「……簡単なこと。神の巫女には、龍人の雄とまじわり、そして子を産み続ける役目がある、ということじゃ」


 衝撃の発言であった。

 エキドナはまだ子どもなのだ。

 何も変わらぬ子どもに、そんな役目を与えるというのは、あまりに惨い。


 そもそも、エキドナは龍人ではない。

 確かに見た目は似ているけれど、元々が蛇でもあるし、龍との関係性は何も無い。


「……あかちゃん産むの?」


 はて、とエキドナが首を傾げる。状況が掴めていないらしい。本来であれば青ざめるところだと言うのに、何も分からないがゆえに、むしろ嬉しそうな顔さえ見せた。


「ままといっしょだね! エキドナもままになる!」

「そういう話じゃないんだ。エキドナはまだママにならなくて良い。……そもそも、エキドナは違うんだから」


 僕は、無邪気に笑うエキドナをそっと抱きしめる。それから、龍人の老婆に向かい合った。


「……この子は違いますよ。僕らはもう帰らせて貰います」

「違うとな? いいや……神の巫女に違いはあるまいて。きっとそうなのだ」

「いいえ、違います。この子は違います」

「……我が龍人族を救う為と思い、置いて行ってはくれぬのか?」


 老婆が食い下がる度に、僕はそれを拒否する。

 

 アルミアとセンテイの二人が、そんな僕と老婆を交互に見ていた。どちらに組するべきかを迷っているような表情である。

 しかし、いつまでも決めかねるワケには行かないと思ったのか、アルミアが割って入って来た。センテイはその後ろで困ったような表情のままだ。


「……ばぁ、そんなに食い下がらなくても。確かに巫女だとは私も思うけれど、説明をした後に拒否されたのであれば、それは仕方が無いわ」


 どうやら、僕らの側についてくれたようだ。

 しかし、どうにも老婆はそれが面白くなかったらしく、くわっと目を剥いた。


「――何を言うか⁉ このままでは、我々は消え行く種族になるのだぞ‼」

「でも、何か金品を渡したからといって、首を縦に振ってくれる雰囲気でもないわ」

「無理やりに――」

「――ちょっとやめてよ、ばぁ。そういうのは」


 今度は、老婆がアルミアに食って掛かる。

 二人の言い争いは徐々にヒートアップしていく。


「……今のうちにお帰り頂ければと。すみませんでした」


 アルミアと老婆の喧嘩を眺めていると、センテイが頭を下げ、そう言った。

 今の隙に行ってくれ、ということらしい。

 僕は頷いて帰ることにした。


 神の巫女については分かったし、それについてこちら側は拒否を示した。そこで話は全て終わったのであって、ここに残る理由も無いのだ。


「もうかえるの?」

「うん。話は終わったからね」

「ふぅん」



※※※※



 そそくさと洞窟を出て、船着き場から船へと乗り、港街へと向かう。足早に海へと出てから、僕は龍人の住まう島を眺めた。

 もうあそこに行くことは無いだろうと、そう思いながら。


 と、その時だった。


 海面が大きく揺れ、波が強くなり始める。


「ひゃあ! ゆれたー」

「……あんまり船の(ふち)に行かないようにね。落ちたら大変だから」

「うんー」


 エキドナに注意を促しながら、空を仰いで見ると、晴天だった。雲一つもなく風も強くは無い。良い天気である。

 しかし、だから余計に不思議だった。

 天候が悪いわけでもないのに、どうして、ここまで大きく波打つのだろうか?

 

 怪訝に思っていると、水平線の先に僕は不思議なものを見た。


 月だ。


 今は昼間だというのに、そこには、確かに月があった。それも空にあるのではなく、水平線の上に乗っかるような形である。

 つまり、海面上に月があるのだ。

 そして、その月の上に、誰かが座っていた。良く見るとそれは女性だった。白いドレスを着た女性だ。



「……エドウィンの気配がすると思って来たのに、別人じゃん。ムカつく」

名前だけ既出だった人物です。誰かのストーカーとして。

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
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