第087話目―洞窟―
「神の巫女……ですか?」
僕が問うと、アルミアは頷く。
「仰っている意味が良く分からないのですが……」
「……言葉通りです。私たちが言う”神の巫女”ではないかと、そのように考えているのです。……島に来て貰い、直接見て頂いた方が、色々と説明がしやすいかも知れません。良ければ、直接来て頂ければと」
言って、アルミアが頭を下げる。倣うようにして、御者のセンテイも頭を下げる。
「長のお願いを聞いて頂ければと……」
僕は頭を掻いた。そしてエキドナを見た。すると、疑問符の効果音でもつきそうな表情をエキドナにされた。
「かみのみこってなーに?」
当然だけれど、本人も、全く状況が掴めていない。相手の言っていることに心当たりもあるわけがない。
セルマが持って来たお茶を口にしながら、どうしたものかな、と僕は少し悩んだ。
相手の頼みを断ることも可能だけれど、断って変な悪印象を抱かれるのも良いことではないように思う。相手の言っていることも色々と気にはなる。それに、島までもそう遠くはない。街からも見える距離にあるのだから。
色々と思案した結果、僕は最終的に頷くことにした。
「正直、僕たちには事情がまるで分かりません。ご説明を頂けると言うのであれば島に行きます」
「……感謝致します」
「いえ、こちらもどうしてあなた方がそう思うのか、気になる所ですから。……ですが、一点だけ先にお伝えしておきます。うちのエキドナは、その神の巫女とやらとは恐らく無関係だと思いますよ」
「来て頂ければそれも分かることかと」
さてはて。
こうして、僕はひとまず龍人の住まう島へと行くことになった。
※※※※
アティとセルマに事情と行き先を告げ、支度を済ませて、僕はエキドナを連れて家を出た。
港まで降り、アルミアについていく形で船に乗り海へと出る。
目と鼻の先にあるということもあって、島へは半日と掛からずに到着した。
「エキドナ、気をつけて降りるんだよ?」
「うん」
てくてくとエキドナがタラップを渡ってく。その様子を後ろから見守りながら、僕も島に降りて、地に足をつけたところでぐるりと周囲を見渡した。
当たり前だけれど、どこを見ても、龍人が歩いている。建物は木造建築が並ぶ村があり、少し先の岬には灯台が見えた。
普通の島だ。
「……こちらです」
アルミアに案内されるままに建物の並ぶ通りを過ぎていく。エキドナが勝手な行動を取らないように、念のために手を繋ぎながらである。
「おてて」
「そうだね。離さないようにしないとね」
「うん」
村を進む。
すると、すれ違う人々全員がアルミアを見るや否や頭を下げて来る、不思議な光景を見た。
長に対する敬愛の意、なのだろうか?
「……龍人の間では、お付きを除いて、長の姿をあまり長く見てはいけないという決まりがあります」
少々困惑気味であったことが、表情に出てしまったようだ。アルミアがちらりと僕を見て、そんな補足説明を加えた。
「なるほど。ということは、もしかして籠車で移動していたのは……」
「はい。他の龍人が私の姿を見ないように、です」
独特の風習で大変そうだ、とは思ったものの、それを言うのは些か失礼な事だとも思ったので、僕はそれ以上の質問は何もしなかった。
建物の並びを通り過ぎ、島の中央へと進んで行く。整備の行き届いている山道を歩き、まもなくすると――ある洞窟に辿り着いた。
洞窟の中には一体何が……。




