第082話目―南へ―
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南下に関する情報が集まったので、出国するべく、荷物をまとめてホテルを出た。
今見えている景色も、これで見納めだから、ゆっくりと街並みを眺めながら出て行く事にしよう――と、そんな風にして進んでいると、道中で、簡素な葬式が行われているところに出くわした。
ヴァルザの葬式だった。
僕が手を下した事は誰にも知られていないので、突然の不審死、として片づけられた彼の葬式が行われていたのだ。
出席者は三人。ヴァルザの恋人と、執事長と――それとお嬢様のフィオネーンである。
人数が少ないのは、引き起こした事態が事態であっただけに、出席を拒否する人物が多いのかも知れない。
お嬢さまと執事の間柄という関係があったとはいえ、フィオネーンはよく出席したな、と思う。
一時は、人質にまで取られていたのに……。
付き合いは長そうだったから、そう割り切って悪とみなせないところもあるのかな。
「どうして、どうして……」
「馬鹿者が……馬鹿者がぁ……」
「私の言い方が、問い詰め方が、悪かったのかな……」
僅かではあっても、こうして支えてくれる人がいて、考えてくれる人がいて、それでもヴァルザはそれらに気づく事なく――いや、恋人の言うことは聞く、という話もあったし、実際には気づいていたのかも知れない。
けれども、自らを止めることが出来なかった。
それは、一体なぜだろうか?
地下の貧しい暮らしを、幼少期に送った事が、関係しているのだろうか?
いや、そうではない。
ヴァルザと同じ環境で育った、半人半魔の子たちは、良い子たちだった。
優しい子ばかりだった。
つまり、周りが悪いのではなくて、ただただ、ヴァルザ本人の個人の性質がそうであった、ということなのだ。
仮に良い家柄に産まれていたとしても、ヴァルザは何かしらの悪事に手を染めていた。
ふと、フィオネーンが、こちらを見た。そして、何かを言いかけて、しかし先ほどから止まらない涙に膝を落としてうずくまった。
フィオネーンは、僕がヴァルザを殺めた事を知らない。今から国を出る事も知らない。だから、単純に挨拶でもしようと思ったのだろう。けれども、今の自分の顔は人に挨拶をする時の顔ではないからと、諦めたのだ。
「あのひと、なんで泣いてるのー?」
ちらり、と見るに留めて無関心を示したアティやセルマと違い、エキドナは首を傾げてそんな事を聞いて来る。
僕は、一度肩を竦めると、「さぁなんでだろうね……」とだけ言った。
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検問所の衛兵に金属のカードを返して、街から出る。
向かうは南だ。
通るべき街道は事前に調べていたので、迷うことなく道を選び、僕らは歩み出した。以前にも聞いていた事があったけれど、一度更に西へと向かい、海岸沿いに出てからの南下になる。
ふと、振り返る。
この街では、色々な事があった。
――まず、半人半魔がこの国発祥の存在であり、元々はどういう目的で研究が始められたものであるのか、ということを知った。そして、今でも誰も知らぬ地下で研究が続けられていることも、同時に知った。色々とあった結果、エキドナが、その影響を受けて人型になるという事態にもなった。
――次に、アティのお腹に、僕の子がいる事が分かった。父親としての自覚を促された気がして、意識を少しだけ、改める契機になった。
――最後に、ヴァルザとの一件だ。ヴァルザこそが、半人半魔の子たちの言っていた”あいつ”であり、そして、あの騒ぎを引き起こした。最終的に、僕が手を下す結果になった。
「……」
「……ハロルド様?」
「御主さまが、ぼうっとしているのです」
「ぱぱ?」
「……なんでもないよ。行こう」
前を向いた僕は、あの街での出来事についての、頭の中での整理を終えた。
そして、半人半魔のあの子たちが、願わくば平穏に生き続けてくれることを、祈った。
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一週間ほどかけて西へ進み、海岸沿いへと出ると、この頃にはもう雪景色も薄くなり始めていた。
季節が変わりつつあるという事と、海岸沿いであることも、関係しているのかも知れない。
雪の代わりに、春風や咲き始めた桜が目に入って来るようになった。
彩りの街道を楽しみながら、ここからようやく南へと向かいはじめ、更にもう二週間ほど進み続けると、春も過ぎ去った。
今度は、初夏独特の、草木の匂いが鼻に当たるようになった。
そろそろ、次の国に着く頃だ。
サルバード編が終わりました。




