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第082話目―南へ―

※※※※


 南下に関する情報が集まったので、出国するべく、荷物をまとめてホテルを出た。

 今見えている景色も、これで見納めだから、ゆっくりと街並みを眺めながら出て行く事にしよう――と、そんな風にして進んでいると、道中で、簡素な葬式が行われているところに出くわした。

 ヴァルザの葬式だった。

 僕が手を下した事は誰にも知られていないので、突然の不審死、として片づけられた彼の葬式が行われていたのだ。


 出席者は三人。ヴァルザの恋人と、執事長と――それとお嬢様のフィオネーンである。


 人数が少ないのは、引き起こした事態が事態であっただけに、出席を拒否する人物が多いのかも知れない。

 お嬢さまと執事の間柄という関係があったとはいえ、フィオネーンはよく出席したな、と思う。

 一時は、人質にまで取られていたのに……。

 付き合いは長そうだったから、そう割り切って悪とみなせないところもあるのかな。


「どうして、どうして……」

「馬鹿者が……馬鹿者がぁ……」

「私の言い方が、問い詰め方が、悪かったのかな……」


 僅かではあっても、こうして支えてくれる人がいて、考えてくれる人がいて、それでもヴァルザはそれらに気づく事なく――いや、恋人の言うことは聞く、という話もあったし、実際には気づいていたのかも知れない。


 けれども、自らを止めることが出来なかった。

 それは、一体なぜだろうか?

 地下の貧しい暮らしを、幼少期に送った事が、関係しているのだろうか?

 いや、そうではない。

 ヴァルザと同じ環境で育った、半人半魔の子たちは、良い子たちだった。

 優しい子ばかりだった。

 つまり、周りが悪いのではなくて、ただただ、ヴァルザ本人の個人の性質がそうであった、ということなのだ。

 仮に良い家柄に産まれていたとしても、ヴァルザは何かしらの悪事に手を染めていた。


 ふと、フィオネーンが、こちらを見た。そして、何かを言いかけて、しかし先ほどから止まらない涙に膝を落としてうずくまった。


 フィオネーンは、僕がヴァルザを殺めた事を知らない。今から国を出る事も知らない。だから、単純に挨拶でもしようと思ったのだろう。けれども、今の自分の顔は人に挨拶をする時の顔ではないからと、諦めたのだ。


「あのひと、なんで泣いてるのー?」


 ちらり、と見るに留めて無関心を示したアティやセルマと違い、エキドナは首を傾げてそんな事を聞いて来る。


 僕は、一度肩を竦めると、「さぁなんでだろうね……」とだけ言った。


※※※※


 検問所の衛兵に金属のカードを返して、街から出る。

 向かうは南だ。

 通るべき街道は事前に調べていたので、迷うことなく道を選び、僕らは歩み出した。以前にも聞いていた事があったけれど、一度更に西へと向かい、海岸沿いに出てからの南下になる。


 ふと、振り返る。

 この街では、色々な事があった。


 ――まず、半人半魔がこの国発祥の存在であり、元々はどういう目的で研究が始められたものであるのか、ということを知った。そして、今でも誰も知らぬ地下で研究が続けられていることも、同時に知った。色々とあった結果、エキドナが、その影響を受けて人型になるという事態にもなった。


 ――次に、アティのお腹に、僕の子がいる事が分かった。父親としての自覚を促された気がして、意識を少しだけ、改める契機になった。


 ――最後に、ヴァルザとの一件だ。ヴァルザこそが、半人半魔の子たちの言っていた”あいつ”であり、そして、あの騒ぎを引き起こした。最終的に、僕が手を下す結果になった。


「……」

「……ハロルド様?」

「御主さまが、ぼうっとしているのです」

「ぱぱ?」

「……なんでもないよ。行こう」


 前を向いた僕は、あの街での出来事についての、頭の中での整理を終えた。


 そして、半人半魔のあの子たちが、願わくば平穏に生き続けてくれることを、祈った。


※※※※


 一週間ほどかけて西へ進み、海岸沿いへと出ると、この頃にはもう雪景色も薄くなり始めていた。

 季節が変わりつつあるという事と、海岸沿いであることも、関係しているのかも知れない。

 雪の代わりに、春風や咲き始めた桜が目に入って来るようになった。

 彩りの街道を楽しみながら、ここからようやく南へと向かいはじめ、更にもう二週間ほど進み続けると、春も過ぎ去った。

 今度は、初夏独特の、草木の匂いが鼻に当たるようになった。


 そろそろ、次の国に着く頃だ。

サルバード編が終わりました。

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
[気になる点] 何故? 普通に出国? 検問を越えられたのか不思議です。エキドナが蛇から半魔になってるのに 何も無かったの?
[良い点] 訪れる町々で絡む小悪党がそれなりの報いを受けているのが良い。 変に人道拗らせて全員助けるんだーみたいな薄っぺらい主人公ではないのがむしろ新鮮に感じる。
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