表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/114

第080話目―阻止④―

「……ハロルド様」


 目尻に幾ばくかの涙を浮かべて、アティが、僕を抱きしめて来る。

 心配、というよりも、不安、という方がしっくり来るような感じだ。

 似たような事も、今までにはあったけれど、それは本当に僕が危機的であったからだ。


 今回は、アティは、かなりナーバスになっている。


 それが悪いわけではなく、想われるのは、僕にとっても素直に嬉しいことである。

 ただ、アティが、思った以上に敏感になっている、ということに気づけなかった。

 多少は今までとは違うかも、とは思っていたけれど、それを軽く超えて来た感じだ。

 しばらくは、なるべく、傍からは離れないようにするべきだろう。ヴァルザの件も、一旦は様子見であるし、特別に離れるような用事も今のところはない。


 アティを抱きしめ、頭を撫でる。安堵の雰囲気が出るまで、優しく何度も。


「……」

「……あれ、なーに」

「……あれが、睦言というものですよ」


 扉の隙間から、僕とアティの様子を覗く気配が二つ。

 セルマとエキドナだ。

 のぞき見とは趣味が悪すぎる。

 取り合えず、後で、注意忠告を与えた。


※※※※


 ところで、沢山買って来た食品だけれど、これどうやって処分しよう。

 アティに食べさせたくて買ったわけだけれど、さすがに、この量は過剰過ぎる。

 翌朝になって、すっかり落ち着いたアティとも話をしたけれど、「気持ちは嬉しいのですが、食べきるのは……」と言われてしまった。


 食べれる分は勿論食べるし、頑張ると言ってはいたけれど、無理させたくはないよね……。

 でも、保管するにも、腐り始めたりしたら、大変なわけであって。


 はてさて、これをどうしたものかと、僕は頭を抱える。目の前にある大量の食品を前にして、頬杖をつく。


「たべていーい?」

「うん……?」


 意外なところから、救世主が現れた。


「おなかへった」


 半人半魔と化したエキドナが、食べてくれると言い出した。

 姿かたちが変わった影響なのか、大食漢になってしまったようで、あっという間に食べ終えてしまった。

 これだけ食べるとなると、成長も早そう……っていうか、半人半魔って、ここから更に成長するのだろうか?

 既にこの段階が完成形なのか、それとも、大きくなって行くのか。

 謎である。

 まぁ、一緒にいる以上、嫌が応にでもそのうち分かる事にはなる。


「……そういえば」


 ところで、セルマの姿が見えない。

 今朝から全く姿も気配も見ないのだ。

 何をしているんだろうか?

 まぁ、セルマが何をしているかよりも、アティの方が僕にとっては大事であるから、何か問題が起きそうにないのであれば、自由にはさせるけれど。

 変な事だけしないでくれていれば、それだけで良い。


「おいで」

「はい……」


 膝の上にアティを座らせて、話をする。

 何の変哲もない普通の話だ。

 でも、そんないつも通りの話なんだけれど、いつも以上にアティの雰囲気が柔らかくなっていくのが分かる。


「――なんて事もあってね。男の子向けとか女の子向けって表記を見て、そこで気づいたんだ。まだどちらかも分からないのに、玩具を買おうなんて、僕は一体なにを考えているんだろうかって」

「……ふふっ。産まれる前から、父親にそんなに風に思って貰えて、この子は幸せです。きっと、素直に元気に育ってくれると思います」

「そうだね。……アティに似た子に産まれて欲しいな」

「……私は、自分に似るよりも、ハロルド様に似た子に産まれて欲しいです。その方が、ハロルド様の子を産んだのだと、強く実感出来ますので……」


 産まれてくる子について、僕はアティに似て欲しいと思っているけれど、アティは僕に似て欲しいと思っているようだ。

 お互い様なのかも知れない。


 ……まぁ、どちらに似るかはさておいて、いずれにしろ、なるべく、アティの体には負担が掛からないようにしたいな。

 少なくとも、今いるこの国よりも、気候が安定した所には移動したい。

 ここは寒いから。

 アティのお腹がもっと大きくなる前に、少し南下しようと思う。

穏やかな時間……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] それぞれに似た双子が産まれれば完璧!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ