表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/114

第079話目―阻止③―

 どのくらい、待っていただろうか。

 時計が無いから良く分からない。

 ただ、そこそこ長いこと待ったとは思う。

 ヴァルザと恋人が姿を現したのは、僕が、三度目の欠伸をした頃だった。


「~~~。」

「~~~~~~。」


 二人は一度立ち止まり、何かの話をしているようだった。そして、それが終わると、二人揃って歩き始めたので、僕は後を追った。

 道中は、特に面白い事が起きたりする事もなく、そのうちに、空が夕焼け色になってきた。


「~~。」

「~~~~~。」

「~~~。」


 二人が別れたので、僕は、予め決めていた通り、恋人の方の後を更に追う。

 どの辺りで話しかけようか……。

 人通りが少ない所だと、却って警戒されてしまいそうだ。

 かといって、ヴァルザが近くにいる時に、話しかけるわけにもいかない。

 取り合えず、ヴァルザの姿を確認する。すると、もう、遠目にぽつんとしか見えなくなっていた。恋人の方は、まだ大通りを歩いている。

 今が丁度良いかも知れない。


「――すみません」


 僕は声を掛ける。

 すると、ヴァルザの恋人がキョトンとした顔で、振り向いた。


「えっと……」


 見たところ、普通の人だ。

 少しくらいなら、話を聞いてくれそうな感じである。

 偽装恋人な可能性も、あるにはあったので、一安心ではあった。

 僕は、あの手この手で、ヴァルザについての話をしたい、という旨を伝えた。


「ヴァルザの話、ですか?」

「はい」

「もしかして、ヴァルザが、また何かしたのですか……?」


 また、か。

 この口ぶりだと、執事長の言っていたように、ヴァルザが何か問題を起こす度に、「やめなさい」とこの人は注意していそうだ。


 ひとまず、深く話をするべく、僕は近くの喫茶店にと誘う。少し不安そうにはしながらも、ヴァルザの恋人は、「彼の話なら」とゆっくりと頷いた。


※※※※


「そのお話は……本当なのですか?」


 僕が、ヴァルザの一連の行動について話すと、驚いたように目を見開かれた。


「手癖が悪いのは知っていましたが、そこまでの悪事をするようには……」

「ですが、事実なんです」

「誘拐未遂に、毒ガス……。信じられない……」


 あまり手荒な方法では、ヴァルザをどうにかする事は、出来ない。

 変に逆ギレでも起こさせてしまったら、あの半人半魔の子たちの事を、周囲にバラシかねないからだ。

 なるべくなら、改心して貰った方が良い。

 この人の口から忠告を貰ったのなら、ヴァルザも、多少は考えるようになるかも知れない。

 強引な方法は最終手段で良いだろう。

 僕はそう考えていた。


「……」


 ヴァルザの恋人は、俯いて、しばらく無言のままであったけれど、最後には「分かりました」と言ってくれた。


「……取り合えず、話をしてみようと思います。ただ、簡単には信じられませんので、本人に確認は取って見ます。……すぐ顔に出ますから、話題に出せば、反応で分かります」

「すみません。お願いします」


 よし、話は纏まった。

 一旦はこれで様子見と行こうか。

 ヴァルザがどう出るか……。

 僕はなるべく良い結果が出る事を祈りつつ、誘った手前もあるので、奢りという形で二人分を支払い外へと出た。

 それから、ヴァルザの恋人の後ろ姿を見送り――


「――旦那さま」


 セルマが、下の方から、ぬっと現れた。あまりに急だったので、僕は驚いてのけぞる。


「な、なに急に」

「旦那さまの帰りが遅いので、様子を見に来たのですが」


 言われて見れば、もう、夜だ。完全に日が落ちてしまっている。


「ルームサービスが、旦那さまからの荷物を預かっていると、部屋まで荷物を持って来たのですが……。自分で持って来ない所を見るに、もしかすると、何かあったのではないかと奥様が心配しておられまして」

「心配かけさせちゃったかな……」

「そこで様子を見に来て見れば……まさか浮気とは」

「えっ?」

「お腹にお子がいて、旦那さまに傍にいて欲しいと奥さまがお思いになっている、今まさにこの時に、まさかこのような……」


 変な勘違いをされている。


「そういう事がしたいのであれば、私を乱暴に扱えば、それで良いのに……」


 ついでに、意味が分からないことも言い出した。

 僕は、事情と経緯をこんこんと語り、セルマの誤解を解きながら、ホテルへと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ